人狼物語 三日月国


131 蕐の残香、追憶のブーケトス

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視点:


一日目

村人:1名、人狼:1名、巫女:2名

【人】 街路灯



     それはまるで時が止まったように
     彼らを薄橙色の光にさらしていた。

(0) 2022/02/16(Wed) 4:08:45

【人】   グレイス




  彼を想う彼女と
  彼女を想う彼と。

  彼と彼女が同じ時を重ねることは、
  もう叶わなくなってしまいました。

   
  二人は終わった、と思っているようですが。

  
終わってはいませんよ。


        むしろ、
追憶
の物語はここから。


  
(1) 2022/02/16(Wed) 4:12:21

【人】   グレイス




このブーケ、受け取ってもらえますよね?


  
(2) 2022/02/16(Wed) 4:14:22

【人】 イングラハム



   昔の夢を見たような気がする。

      まだ私がピアノに没頭していて

         この指先が傷一つなかった頃の、淡い夢。


(3) 2022/02/16(Wed) 22:12:02

【人】 イングラハム



   朝、私が目を覚ましたのは自室のソファー。

   時刻は朝の4時とかなり早く
   深いため息と共にグアテマラの煮汁を
   乱暴に喉に流し込むと窓の外に映る朝日を眺めていた。

   今日は自身のピアノ教室の教え子の発表会で
   その分私の仕事も多いということで
   こんな時間に目を覚ましているというわけだ。


   
(4) 2022/02/16(Wed) 22:12:52

【人】 イングラハム



   あの日をきっかけに
   私はピアノというものが嫌いになった。
   絶対に傷をつけないと誓った指先は
   今となっては誇りなき傷にまみれて

   カッターの切り痕や何かを殴り抉れた
   指の甲を隠すために常に手袋をしている。


   公演やコンサートでピアノを弾くことも
   誰かの前で演奏を披露することも
   今に至るまでもう二度と、ない。



(5) 2022/02/16(Wed) 22:13:46

【人】 イングラハム



   学校を卒業してからというものの
   私はこの街を離れるつもりでいた。
   海も、ピアノも、その残骸を全て捨てて。

   しかし数奇な運命は突如として
   私に演奏を教わりたいとわざわざ隣の街から
   やってきた子どもによってもたらされた。

   「私は誰かの前では絶対に演奏しない」
   そう突き放すように私が吐き捨てても
   それでもと食い下がる子どもに
   私はとうとう白旗をあげることとなる。


(6) 2022/02/16(Wed) 22:14:43

【人】 イングラハム



   子どもに白旗をあげてから数年。
   私は今年で二十五の歳を迎える。

   ちょうど昔の痛みも折り合いがついてきた頃で
   今はこの教え子の面倒を見ることで
   なんとか生き長らえることが出来ていた。

(7) 2022/02/16(Wed) 22:15:37

【人】 イングラハム



   「私に...あの子の演奏を

         批評する資格があるのだろうか。」



(8) 2022/02/16(Wed) 22:20:16

【人】 イングラハム



   覚醒した頭を働かせて
   独り言を呟くと私は机に向かう。

   ピアノを教える傍ら、作曲という
   新しい日銭稼ぎに辿り着いた私は
   日銭の素を紙面へと混ぜ込んでいった。

   そうだ。私にとってはもう
   こんな物は食い扶持を探すための
   方法の一つでしかないのだ。



(9) 2022/02/16(Wed) 22:21:06

【人】   グレイス



  逢魔が時。
  昼から夜へと移りゆく狭間の時間。

  普段なら、起こり得ない何かが起こり
  重なるはずのない二つの世界が重なる時間。

  彼女の呼び声が彼に届く瞬間が
  確かに、訪れるのです。

        それは届かないはずの想いが
           世界を越えて届くとき。


  散ったはずの
の香りが漂えば
      それは蝶を惑わせ、引き込みますから。

  
(10) 2022/02/16(Wed) 23:43:27

【人】   グレイス



  その声に気づいてしまったのなら。
  何処か、懐かしくも感じる声に振り返ったのなら。


  その時がきっと、
始まりの時。

  
あぁ、でも…………。



       空間が重なることがあっても。
       生と死の事実が覆ることはないですから。

       逢瀬は一体何をもたらすのでしょうか。


  二人の行く末は
追憶
の先に。

  
(11) 2022/02/16(Wed) 23:48:03

【人】 イングラハム



   日銭の素が黒に彩られれば
   私は万年筆を戻して一息をつく。

   時刻は朝の8時
   発表会まではまだ十分に時間があった。
   上着を羽織ると私は外へと足を進め
   刻と共に段々と変わりゆく街並みに
   その身を投じることにする。

   そして向かう先は病院。
   今はあそこに私の母親がいるのだ。


(12) 2022/02/17(Thu) 14:47:12

【人】 イングラハム



   彼女を思い出したくない
   思い出したくないと願うのは
   彼女を忘れられない何よりの証拠。


   私にとって病院という居場所は
   そういう感傷に浸る場所でしかなかった。

   生憎と五体満足健康な私が病院の世話に
   なるなんてことも有り得ず。

   病院からコンサートを
   依頼された時には全てその場で断っていたからだ。


(13) 2022/02/17(Thu) 14:47:56

【人】 イングラハム



   だが、そこはもはや想い出の地ではなく
   時を重ねて変わり果てたただの病院。

   時が過ぎれば否が応でも訪れる機会が来て
   私は陰鬱な気持ちを隠しきれないまま
   なんの縁もない病室に顔を出すことになる。


   母が交通事故で入院することになって
   息子としてその見舞いに訪れる、ただそれだけ。
   どうせあと一ヶ月くらいで退院するような話、
   死にはしないと言うのに、大袈裟もいいところだ。



(14) 2022/02/17(Thu) 14:49:42

【人】 イングラハム



   「じゃあ、帰るから。
    何か必要があるならまた連絡してくれ。」


   如何にも見舞いらしい安物の蜜柑を渡せば
   私は足早に病室を後にする。

   病室に居ると腹が立つんだ。
   昔、救えなかった悲劇を思い出すから。

   至って健康な怪我人を見ると腹が立つんだ。
   本当に死の瀬戸際にいた者への
   冒涜に見えてしまうのだから。



(15) 2022/02/17(Thu) 14:50:35

【人】 イングラハム



   発表会まではまだ時間がある。
   だが時間を潰そうにも病院にそんな場所
   あるはずも無い。

   ...いや、正確にはひとつあった。
   彼女と初めて出会ったあの中庭。
   それは最愛で最悪な、夢の始まりの場所。

   背に腹はかえられぬと
   誰もいない中庭のベンチに腰かければ
   深く、深く、ため息をついた。


(16) 2022/02/17(Thu) 14:54:29

【人】 イングラハム



      「 .........アンネ。」



(17) 2022/02/17(Thu) 14:55:08

【人】 イングラハム



   空を見上げた私は実に醜い有様だ。
   天国そらにいる彼女には
   とても顔向け出来そうにない。

   名前だって、笑顔だって、
   なんだって忘れることは出来ないのに
   彼女との想い出は窶れた記憶となって
   時を重ねると共に細部から形骸化が始まる。

   あぁ、そうだ。彼女が呼んでくれた「エド」は
   とっくの昔に死んでいたんだ。


(18) 2022/02/17(Thu) 14:57:04

【人】 イングラハム



   やはりここに居るといい事がない。
   直ぐに立ち去ろうと私は重い腰を上げると

           蕐の残香に踵を返して────**

(19) 2022/02/17(Thu) 15:02:49
 




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