人狼物語 三日月国


225 秀才ガリレオと歳星の姫

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一日目

村人:1名、霊感少年:2名、皇狼:1名

【人】 とある書物



    それでも人は、夜空の星に手をのばす。

 
(0) 2023/09/30(Sat) 0:00:00


   物わかりの悪い子どもを諭すような説明に
   私は少し顔を曇らせる。

   力の差があるから、私との間では
   協力関係は成立しない。

   君の手伝いなど要らない、と。


  




   
「学園一の問題児が、虎なのかな……。」



 



   果たして本当にそう、だろうか。
   私には技が足りない。
   君には力が足りない。

   どちらにも足りないものがあるなら
   私達に差なんて……。
   そう、思ってしまうのは所詮、
   私に足りないのが技、だから?
   力不足じゃない者の言い分では
   君を納得させることなんて出来ないのかな。


 



   技を身に着けられずに落ちこぼれていく人だって
   この学園にはいるのだから。


   君がしていることは
   決して凡人の為せることではないのに。


  



   住む世界が違うのだと言われたようで
   ……さびしい。


  



   一緒に食べよう、って誘いに
   一瞬口籠った理由が分からずに首をかしげて。
   でも、どうやら誘い自体は駄目じゃないみたい。

   ちなみに。
   ユスティの予感した未来は当たってる。
   別に私はごちそうになる未来でもよかったけど。
   何か君には不都合があるのかな、わかんないな。


 



   
「―――――……。」


  



   謝られながら手が離れていく。
   私と手を繋ぐの、嫌なんだ。


   
…………他の人もそうだ。


   私に触れるのを嫌がる。
   それはきっと魔法使いとしての本能。
   必要以上の魔力が流れ込めば器が壊れる。
   自身の命に関わるから。


   私と仲良くしてくれる数少ない友人も
   私には決して触れようとはしない。
   W魔力が流れてくるのは危ないからW
   ってその子は教えてくれた。


   流してるつもりはないのに。
   制御しようにも私には技がない。
   魔力を渡す方ならできるけれど
   それも、必要以上に渡し過ぎてしまうんだろうな。


 



   もし私が制御さえ覚えたら、
   君は嫌がらないでいてくれる?

   それとも…………たとえ覚えても
   変わらない、のかな。


  



   「一緒に来てくれるんだ、やったー!」


   
さみしそうな顔を見せたのは一瞬。

   すぐに笑顔を取り繕った。
   ……隠せてなかったかもしれないけれど
   暗いし、もし何か言われても見間違いだよって
   誤魔化してしまうつもりで。


  



   足を止めてしてしまった質問には 
   予想してなかった言葉が当然のように返ってきて。

   
え、もしかして私女の子として見られてない……?

   あまりにも平然と言われてしまって
   嬉しいより先に疑問が浮かんでしまうんだ。

   私だけだったらいい、とは  
   確かに思ってたし、嬉しいことのはずなのにね。

  



   たとえ処置だと知っていても。
   私はユスティ以外の異性にあそこまでの対応は
   きっとできない、躊躇ってしまう。


  


   
   「そ、そっかーーー、よかったーー。

    だって、ほら。
    もし私と同じような人がいて同じことしたら
    きっと勘違いされちゃうよ?
    ユスティはかっこいいんだもん。」

 



   成績トップの優等生。
   ユスティのことをいいな、って目で見てる女子は
   いっぱいいるはずだし、
   私は何人かそういう子を知ってる。

   ユスティにその気がないのに
   もし、処置だと言って抱きしめられたら
   女の子はきっと勘違いしてしまう。
   私以外に魔力を抑えられない人は
   そうそういないんだと思うし、
   君に言われれば納得する話ではある。
   だから、私が心配することじゃないんだろうけれど
   気になってしまうから、つい。


  




   立ち話の間に売り切れたのか 
   それとも単に運がなかったのか。

   売り切れにがっかりしてると
   君は他の物でも、って勧めてくれる。
   ……ホットドッグを買うつもりで来たし
   代わりの物って言っても咄嗟には決められない。


   「うん……それはそう、なんだけど……。
  
    
私のホットドッグ……。」



   がっかりしてる間に
   君は最後の一個になっていたコロッケを買ってた。
   ちゃっかりしてるなぁ、って思ってたら。

 



   
「……いいの?」



   差し出されたコロッケを立ち上がりながら見つつ。
   ユスティのだし……と思ってた遠慮は
   数秒で消えてしまった。
   
だって美味しそうなんだもん!


 



   「じゃあ……お言葉に甘えて……
    いただきまーす!」


   受け取って、一口食べればさくっとした衣と
   とろとろのカニクリームが口いっぱいに広がって。

 



   
「おいしいー!しあわせー!!!」



   にこにこしながらあっという間に
   貰った分を食べ終えた頃には
   目当ての物がなかったショックからは
   すっかり立ち直っていた。

   ホットドッグはないけどホットサンドなら……
   とお店の人が元気になった私に声をかけてくれた。
   もっと食べたくなっちゃった私は
   迷わずそれを買って。
   半分に切られている三角のホットサンドを
   君の方へと差し出して。

  



   
「あげる!さっきのお礼!」



   にこにこしながら言った。
   この瞬間だけ見ればデートみたいだと
   思われてしまうかもだけど、
   当の私はそんなことは気にも留めていなかった。* 
  
   



   エウロパの問いにユスティ は口を噤む。
   この学校は虎を封じる檻だなどと
   口が裂けても言えるはずがない。

   技は磨けば誰でも秀才になれる。
   しかし魔力の量は持って生まれた才能に依存し
   努力では天才にはなれない。

   蓋を開けてみればその差は大きく…


   流れ込む魔力を捌けないのは
   なにもユスティに限った話ではなく、
   この距離が天才エウロパ凡人の間に聳え立つ絶対的な壁。

   幼い頃はまだ小さかった亀裂が
   今はもう取り返しがつかないほどに深くなっていた。





   どうしようもない事実に空気が淀む。

   沈黙を最初に打ち破ったのは
   一瞬だけ寂しさを滲ませたエウロパの方。

   どうしてそんな顔をするのかと
   聞いてもきっと教えてはくれないだろう。
   亀裂のその向こう側に飛び越えることさえしないなら
   こちらにはその心を聞く資格もない。






   質問の意図が分からないが
   エウロパに嘘をつく必要も無い。

   だから正直に答えたはずなのに
   どこか釈然としない様子で。

   仮に他の人であったとしたら
   手を繋ぐくらいでも十分解決出来るだろう。
   そういう意味での回答だということは
   エウロパもわかっていると思っていたのだが
   その真意は別のところにあるらしい。


   



   「勘違いか。


      仮にされてしまったら
      謝りはするけど断るよ。


           ボクもあまり暇じゃないから。
           きっと寂しい思いをさせてしまう。」





   本当は恋愛に興じるとして

        相手は選びたいというだけのことだが。





   当の本人は人の気も知らずに
   ホットドッグに思いを馳せている。

   そもそも言ってないのだから
   やや横暴ではあるけれど。

   ただその変わり身の早さには
   ユスティも困惑を隠せない
   遠慮はしなくていいけども。
けども。







     「………まるでブラックホールだ。」