人狼物語 三日月国


149 【R18身内村】LOVE OR ALIVE

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【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ……あの。
   蓮司さん?に、会うことはできますか 」


 私はまっすぐに紅い瞳を見つめて問う。
 
やっぱりこの紅い瞳は私の心をざわつかせる。


 会ってもわからないかもしれない。
 会っても思い出せないかもしれない。
 思い出しても、何の意味もないのかもしれない

 だけど手紙のそのひとは、私に会いたいと望んでいた
 それが、そのひとと記憶にない私が望んだことならば
 せめて叶えるくらいは、……そう願って。 *

 
(42) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 10:07:02

【人】 雨宮 瀬里

 

 広げられた大きな翼
同族の証
が畳まれる
 残ったのは紅い瞳のそのひとだけ。

 
 「 それは…… 」


 会ってどうする?の問いには言葉を詰まらせる
 話しがしたいという気持ちもないし
 会っても知らない人だろう、という想いは強い
 赤の他人になった、そう告げる老人の声は、
 まぎれもなく事実だった。

 それは今の私にとって≠サの通りの意味を持つ
 
だけど前までの私≠ノとっては?


 
(45) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 11:32:10

【人】 雨宮 瀬里

 

 手紙が残っていたことと、
 手紙にお見合いと書かれていたこと
 恋に対する忌避感がないこと。

 それらは確かに私に恋人≠ェいたのだろう事実を
 浮かび上がらせる。

 老人や、この手紙の主が嘘を吐く理由もない…筈だ。
 老人が渋っているのもそれが真実だからだろう。

 そして老人にも、私が戸惑っている様子は
 そのまま伝わるに違いない。

 
(46) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 11:32:22

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ……だけど、
   会わないのは、後悔すると、思うから。
   多分記憶が混乱する前の私だったら、
   会いたい、って願うような、そんな気がするんです 」


 そのひとの気持ちはわからない。
 今の私の気持ちでもない。

 だけど今までの雨宮瀬里≠セったら。
 そうしたい、と望むだろうから。

 気の強い、私のことだから。
 20年以上この心で生きてきた。
 記憶がなくても、私のことくらいはわかる。


 朝食を食べろという声には頷いて、
 私は蓮司≠フ意向を、老人の答えを、待つことにする
 
(47) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 11:33:31

【人】 雨宮 瀬里

 

 恋人だった人との記憶はないけれど
 私が確かに変わった、という事実だけは、
 私の中に薄ぼんやりと残っている

 以前のような洋服を着なくなったこと
 母親とはそれでも良好な関係を築いていること
 家を出て、陶芸の道に私が進んだこと

 それは蓮司≠ニ関係ない部分だから
 記憶の混乱が起きていないのだろうか

 それでもその変化≠キるきっかけは思い出せないから
 それをくれたのは、まぎれもない、その人なのだろう。 *


 
(48) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 11:33:57

【人】 雨宮 瀬里

 

 昼よりも前のころ、
 空には高く陽が昇り、木々の緑を美しく照らす
 案内された庭には洋装の男性がひとり佇んでいる

 私は白のブラウスと赤紫のスカートを纏って
 その人のほうへ近寄っていく

     それはいつ手に入れたものなのか
     私は、憶えていない。
     そこにも貴方との記憶があるのだろう


 その人の背中を後ろから見たとき、
 会うのが怖い、と思ってしまった

     怖い、という感情が、
     いつかの感情に重なった気がしたけれど
     それはいつのことだったのかわからない


 
(51) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 13:43:51

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ………こんにちは、蓮司さん? 」


 名前を口にして、
 どこか違和感があったのは何故だろうか
 
     もしかしたら蓮司さん≠ネどと
     私は、呼んでいなかったのかもしれない


 
(52) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 13:44:12

【人】 雨宮 瀬里

 

 その人がこちらを振り向く。
 二色の瞳がとてもきれいで、だけど、私は、


 「 ……?? 」


 何かが、とても違和感で。


 「 目、大丈夫、なんですか 」


 
陽の光の下
、美しく煌めく二色の瞳に、
 何が大丈夫じゃない≠アとがあるというのか
 それもわからないまま、私は本能的に、
 そんな言葉を、口にしていた。 *

 
(53) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 13:44:53

【人】 雨宮 瀬里

 

 きっと私はその人に瀬里≠ニ呼ばれていたのだろう
 その呼び方はどこかしっくりときて私は縦に首を振る

 それと同時になにかデジャブのような違和感を感じて
 心の奥底がほんのわずかに軋む



 「 ……そうですね、かっこいいですよ 」


 ほらまただ。
 少し戯けて掛けられた言葉、
 何も文脈としておかしくはないのに、
 なにか、なにかが、ひっかかる。


 
(57) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 16:01:41

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 うん。初めましてでは、ないみたい
   でも、憶えてないんです 」


 貴方もですよね、って確認するように。
 
 貴方の声も、顔も、憶えてはいないけれど
 それでも、どこか、穏やかな気持ちで話せたのは。
 やっぱり絆があったから、ということなのだろうか。


 その人に翼はない。
 だけど、手紙の中には「恋矢」が、と書いてあった
 同種であることを前提に、私は話をする。
 これで相手が恋天使じゃなかったら…ふと不安になって
 私は背中の羽を揺らしてみせて、貴方の視線の先を確かめた。

 …羽根が見えていなさそうなら、
 ほんの少し、不安な顔は見せただろう。

 
(58) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 16:02:12

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 あの 」


 そうして私は貴方にあの封筒を差し出す。
 恐らく貴方の文字で、瀬里へと書かれた一通の封筒。


 「 貴方に返すのも、なんか違うと思うんですけど
   でも。貴方にも、読んでもらいたくて 」


 封筒には一度開けた跡があるから、
 私が読んだものだということはすぐに分かるだろう
 
 それから、もうすこしだけ、貴方に近づいて
 声を落として、小さくつぶやく

 
(59) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 16:02:26

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 あのお爺さんが、
   手違いで、恋矢が刺さって、
   恋矢を抜いたのだと言っていました。

   ……でもここにはお見合い、ってあるし
   何より、これを書いた人の言葉が、
   手違いで恋矢が刺さってた人のものだって
   私、思えないんです。

  たぶん。蓮司さんの字、だと思うんですけど
  ……読んでみて、ください。 」


 手紙を読んでくれるのならば、その傍で。
 言いたいこと、ってなんだったんでしょうね、って
 私は困ったように笑いながら呟いた。 *

 
(60) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 16:02:38

【人】 雨宮 瀬里

 

 これは俺≠ェ書いたものじゃない。
 その言葉にどこか落胆の気持ちを抱いてしまったのは
 別に恋心を取り戻したい、とかいう動機じゃない。

 じゃあ私を動かすものはなんだろう?って
 ふと考えたとき、一番に心に浮かんだのは

  私の中に知らない私がいること

 それが、どうしてももやもやするのだと気づいた。

 
(66) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 18:21:36

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 いえ。
   恋心を抱いていたらしい、のは
   ここにいる私、ではないので。 」


 好きか?と聞かれて即答した。
 好き嫌い、という感情はどこにもない。

 昨日までの私たちはどこにもいない。
 貴方と過ごしたらしい日々の様々な瞬間が
 私の中からすっぽりと抜け落ちたまま、
 私は、いつかの私の続きを歩いている。

 
(67) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 18:21:49

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ありがとうございます。
   ……助かります。 」

 
 ここは一体どこなんだろう、とスマホを見る。
 位置情報から、大体の場所が分かるはずだ。
 ロックを外せば、私と貴方が並ぶ待ち受け画面が見えた。

 
(68) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 18:22:01

【人】 雨宮 瀬里

 

 見覚えのない車。
 見たことのあるような車。

 躊躇することなく私の足は助手席へ向かい、
 慣れた手つきでその扉を開く。


 「 あの。
   何か、思い出したら。
   ううん、何も思い出さなくても。
   また、連絡してもいいですか。 」


 そう切り出したのは車が発進した後だったか。
 スマホには、ご丁寧に貴方の連絡先も、
 直前までのやり取りも、残っているようだった。

 
(69) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 18:22:20

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 恋心があるとか、ないとか、じゃなくて
   ……記憶。ないのが。嫌だなって。 」


 貴方との記憶、じゃない。
 私自身の記憶がないことが、嫌だなって思ったんだって
 私は、貴方に伝えるだろう。


 「 ……自分のこと、
   なんでも自分で決めたいんです。
   だから、昨日までの私が分からないのがすごく嫌。

   おかしいな。
   昔私そういう人じゃなかった筈なんですけど。 」


 昔の私は、自分の意思を持たずに、
 家族に、他人に、自分の評価も意思も委ねていた。
 今の私は、すっかりそうでないと嫌だ、なんて

 …それが、変わった記憶はどこにもないのに。 *

 
(70) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 18:23:12

【人】 雨宮 瀬里

 

 貴方の皮肉には素直に頷いた。
 きっと、昨日までの瀬里≠セって、喜ぶはずだから。

 恋をしたらどうなのか、と私は考えたりはしなかった
 知らない貴方に恋をするつもりもなかった。

 けれど、どうしてだろうか。

 恋をしてはいけない≠フだと、

 そんな気持ちが無くなっていることに、
 私は気づいてはいなかった。
 それは、ほんの少し貴方の状態とは違っていたのかも。


 
(74) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 19:38:16

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 clarity?知ってる、というか、」


 そう。私は確かにclarityを知っている。
 知っているどころか、…と言葉を紡ごうとして
 その先に続く言葉が見当たらないのに気付く。
 多分私はスマホの履歴に「灯歌」という名前を見ても
 それが誰だかあまり思い出せなくなっているのだろう


 
(75) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 19:38:37

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 ……ううん、なんでもない。
   知っている、はず、なんだけど、
   あんまり思い出せないの。
   これも、貴方との記憶が関係しているのかな 」  


 透明な歌声が車の中に響く。
 不安な人を励ますような、優しい歌声。
 大丈夫だよ、って背中を押してくれるような声。

 私は、その声を、確かに、どこかで、

 記憶を呼び起こそうとしても、靄がかかっている
 だけど、記憶を探るように、探すように、
 ぼんやりとした瞳で、私は貴方のことを見た。

     貴方は、どうしてこのひとを知っているの?
     そんなことを問いかけるように。 *

 
(76) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 19:38:51

【人】 雨宮 瀬里

 

 ぱちん、ぱちん、と指が鳴る
 そのたびに、何か大切な景色が色づいていく

  『 私ね、変わろうと思って 』

 それは確かに私の声
 変わるための後押しをしてくれたのは…?
 
 透明な歌声、跳ねるような指の音、
 月明りが照らす暗がりの中で、
 明るい光が私の、  
私の……?


      
真っ赤
ななにかが、見えた気がした

 
(79) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 20:21:27

【人】 雨宮 瀬里

 

 明るい光に目線を向けようとして、
 
           
       車が動く。
       思考は途切れる。



 「 何か、思い出せそうな気がしました 」

 それだけ言って小さく笑うと、
 私は手元のスマホに視線を落とす。
 車の中。会話などはほとんどないはず。

 
(80) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 20:21:48

【人】 雨宮 瀬里

 

 スマホに残されたメールも写真も、
 どれも私の知らない雨宮瀬里だった。
 たくさんの景色や、たくさんの食事や、
 たくさんの笑顔が、そこには残されていた。


 「 楽しそう 」


 私はただの感想を呟く。
 他人事だけど、本当にそれは楽しそうだったから


 「 恋、してたんだなって、分かります
   恋をする人間と、同じ顔、してるもの。 」


 恋をしたい、だとか。
 同じ感情を取り戻したい。とかじゃないけれど。
 スマホに残った、二人の姿は、本当に楽しそうで

 ……だから、私は至極当然の質問を投げかける。

 
(81) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 20:22:03

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 どうして、恋矢を抜いてしまったんでしょうね 」


 貴方は知っていること。
 私は覚えていないこと。

 ただの、話のきっかけにすぎない。 *

 
(82) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 20:22:14

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 病?
   ………そう。だったんだ。 」


 病によって、恋矢を抜かざるを得なかった。
 そんな話は今、初めて聞いた。

 ううん、瀬里≠ヘ知っていたんだろう。
 知ったうえで、それを受け入れたとき
 私は、どう思ったんだろう。

 うらやましい、の声に私は小さく微笑んだ
 
 
 「 これほど楽しそうに過ごしていたのに
   恋心と記憶が消えてしまったのは……
   ……きっと、悔しかっただろうな。 」


 恋心が消えるときの感情なんてわからないけど
 でも大切にしていたものを喪わざるを得ないときの
 悔しさとかなら、分かる気がするから。

 
(86) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 22:39:03

【人】 雨宮 瀬里

 

 駅前で車が止まる。
 私が全く知らない駅だったけれど
 きっと家までは帰ることはできるだろう。


 「 ……うん、 」


 貴方の視線がこちらへと向く
 
 ここで、私が車を降りればそれでおしまい。
 時々私から連絡をするかもしれない。
 だけどそれもいつ終わるかはわからない。
 だからと言って何もできないし、何かしようとも ──


      二つの色の違う瞳を
      私のスカートとお揃いの色の左目を
      私が…好きだったであろう、その瞳を、


 
(87) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 22:39:48

【人】 雨宮 瀬里

 


 ねえ瀬里
 貴方はこんな終わり方も想定していたの?



 
(88) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 22:40:16

【人】 雨宮 瀬里

 


 ──────── ちがうの。



 
(89) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 22:40:41

【恋】 雨宮 瀬里

 


 こんな終わり方なんて望んじゃいないの。



 
(?0) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 22:40:55

【人】 雨宮 瀬里

 


      頬を流れる涙の意味を、私は知らない
      貴方が見たことのない涙を
      私はきっと、初めて流した。 *


 
(90) ししゃもん 2022/05/28(Sat) 22:41:44
 




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