私の台詞を聞いて、ナディルは凍り付いたような、怒ったような、怯えたような……弱い顔をしました。

おや、珍しい。
キミもそんな顔をするんですね。
掴んだ指先が動きません。
石にでもなりましたか。


名残惜しいですがナディルの指を撫でるようにするりと手を離しました。

「言っておきますが、
　私たちのことは気にしないでくださいね。
　キミはキミのことだけを考えて……

　そうして最後に私の手を取りさえすればいい」

キミの望みは私の望み。
ええ、確かに。キミを正しく導きましょう。


「さて、そろそろ上がりましょうか」

羽根もすっかり綺麗になったことだし、私はご機嫌ですよ。

私とは闘いたくない、と、ファルーサは言いました。
自分も死んでしまうからだそうです。

我慢はよくないことですが、こればかりは仕方がありません。
……ファルーサ？　何を考え込んでいるんですか。


「クソ試合、ですか」

のぼせてしまいますから、もう上がりましょう。
と、ファルーサに手を差し伸べながら、彼の言葉を繰り返します。

「"そんな中でも大切なもの"？
　勘違いしないで頂きたいのですが
　私はキミの罪を素晴らしいと言っているのですよ。
　糾弾する気はまったくありません」

ファルーサ。
そんな顔をしないでください。
迷いや後悔などまったく不要なんですよ。

キミは今までどおり、キミが望むまま、周囲から奪い、蹂躙するといい。
キミにはその資格が、強さがあると、キミの人生が証明してきたじゃないですか。

「キミの罪について、私が言及したのは……
　キミがこのまま煉獄にいた方が良いと
　解ってもらうためです。

　地上へ再び戻っても、同じ。
　キミは強さ以外を無視して闘い続ける。


　……そんな自分が好きですよね？

　非常に素晴らしい。
　シンプルで、美しい。
　地上に還っても、罪を重ねてまた堕ちるのならば
　ファルーサ、キミは地上に向いていない。
　この上なく煉獄に向いているのですよ」

ね。と、にっこり笑います。