「まぁた可愛くないことを言うねぇ……先輩は悲しいよ」

よよよと泣き真似。ものすごく下手だ。

「……安全という経験があるからこそだろうが
　偶にはちゃんとしたものを食いなよ？
　勢喜クンとか喜んで料理を振る舞ってたりするじゃないか
　たしか、同じクラスだろう？」

出費を抑えるために、それは聞き及んでいたことだが。
それでも栄養やら何やらと心配にはなる。
偏った食生活は、年を取った時に大変だと聞くしな。

「さぁて……そろそろ時間かねぇ？」

時計を見れば、もうすぐ下校の時間。
よっと、ブースの扉を開けて中へと入る。
扉を閉めて、その窓からぐっとあなたに親指を立てる。

「はいはい。小劇場はその辺でいいですよ」

大して寂しいなんて思ってないだろうに。
少なからず僕はそう思わないものだから、そう決めつけた。演技も下手だし。

「偶にくらいは食べてますよ。
　それこそその、勢喜の作った残り物とかね」

普通に食べて欲しいと思われているらしいのは気にしない。
普通に食べて貰えなかった残飯の処理は僕にしか出来ないんだし、それでいいと思っている。

「……そのようですね」

行ってらっしゃい、とブースに入る先輩を見送った。
サムズアップを見はしたが、返しはしない。
流れる放課後の音を聞けば、今日の部活もおしまいだ

「おつかれー」

一仕事終えて帰ってきた。
といっても大した文でもない、いつもの事務的な文言だが。
なんにせよ、今日の部活はおしまい。

「さぁて、じゃあ私らも帰るか
　鍵持ってくよ？」

ほれ、と手のひらを差し出す。

「はい、お疲れ様です。
　ちゃんと機材の電源は切りましたね？」

聞くまでもないことだけど聞いておく。
ケアレスミスは誰にでもあることだ。

「じゃあ、施錠はお任せしますよ。
　また明日。守屋先輩」

手にした鍵を渡すと、床の鞄を拾い上げた。
あとは寮への家路を辿るだけだ。

「また明日ー
　気ぃ付けて帰れよぉ」

机に腰掛けながら、片手をひらと振って見送った。

「ああ、それも探りに入るか。
　そんなつもりはなかったんだけど」

悪い事をしたね、と素直に謝罪をしておいた。
気になるのは気になるけどさ。

「そういうこと。
　別にいいよ、慣れてるから。
　……少し長居、し過ぎたかな。キミの昼寝の邪魔もしたし。」

「これ以上邪魔しないうちに行くよ。
　……ただ、ここは気に入ったから。また来るかも」

メッセージが届く。

『すみません先輩』
『今日学校休むことにしたので』
『部活にも顔を出せません』

メッセージが返ってくる。

『了解』
『休むことにした、んだね？』
『お見舞いにでも行ってやろうか？』

『体調崩したわけじゃないんで』
『サボりですよ』

手を抜くことは多々あったけど、学校ごと休むほどのサボりは僕には珍しい。

『お構いもできませんし、お勧めはしません』

『それは安心だ』
『私に言えるくらいの余裕はあるってことだ』

『了解』
『何か欲しいもんある？』

『お勧めできないって言ったんですけどね』
『まあいいですけど』

『暇つぶしになるものあった方がいいですよ』
『本当にお構い、できませんから』

『じゃあカップヌードル持っていく』
『勢喜クンのご飯がなくてお腹空いたんだわ』

『ポットくらいあるよね？』

『ありますよ。原始人じゃないんですから』

『僕の分は必要ないので、先輩の分だけどうぞ』
『それじゃあ、待っています』