［タロの皮膚に浮かぶ、尊い赤色。

　初めての日は
　手袋ごしだったけれど
　今ではもう、それだけじゃ我慢できなくて
　敬々しく口付けて
　啜って
　身体の内側でも愉しんでいる。］



　　　ちゅっ、……　　ぢゅ、

　　　────　は、ァ　　…ほんと堪んない、



［欲しいのは、彼だけだ。

　強すぎる依存だという自覚はあるが
　止められやしない。
　理性なんかじゃ抑えられないくらい
　求めて、求めて、欲しがって
　タロ無しじゃ生きていけなくなってる。］
　

　

［だから────…、］

　

　
［唇についた真紅を
　恍惚の表情で舐め取って
　こくり‥音を立てて飲み下してから
　口を開く。］



　　　ところで…　　なぁ、タロ。



［呼びかけてしまってから、一呼吸。

　やっぱ、緊張するなって方が
　無理なんだよ。
　タロは…、タロだけが俺の特別だから。］
　

　
［悪夢のせいで
　ひとつきりになってしまった彼の
　貴い手と指を絡ませて
　澄んだ瞳を覗き込みながら問いかける。］



　　　ここを出て、
　　　うちで一緒に暮らさないか？



［心臓が別な意味で
　止まってしまいそうだった。］*
　

　
［ワガママを言って良いものなら
　面会時間という制限からも外れて

　もっともっと、
　レオくんと一緒に居たい。

　離れたくないよ、レオくん。

　僕が来ている時は症状が安定してるって
　僕のことも看てくれた先生が言ってたから
　きっと、役にも立っている筈なんだ……。］
　

　
［けれど所詮親の脛を齧って生きてる
　コドモの僕には、
　付き添う以上のことは出来ずにいた。］
　

　
　　　

［つけて貰った傷から鮮血が滴ってる。
　流石医者の卵のレオくんだ。
　手を動かす大切な神経を傷付けることなく
　綺麗に傷を作ってくれる。

　口づけてくれる恭しい動作は
　まるでお姫様になったかのように錯覚して
　ぽぉっと頬が色づいてしまう。>>?0

　柔らかな唇が押し当てられて
　啜り上げられれば、傷口が開いて熱を持つ。］



　　　……ッ　ぅん、……



［痛み自体は、別に、好きじゃない。
　寧ろ普通に苦手だから……、
　どうしても一瞬、顔を顰めてしまう。］
　

　
［けれど、レオくんがひとときでも
　あの悪夢を忘れられたかのように
　幸せそうな姿を見せてくれて
　堪んない、とまで言ってくれるから>>?0

　僕の内側はあたたかい想いで
　い……っぱいに溢れて

　苦痛に汗を滲ませてしまいながらも
　にこり、笑顔がこぼれ落ちる。］


　　　ほんと？　……うれ、し……っ


［僕の血で喜んでくれるなら、
　幾らでも傷つけて欲しい。

　美味しそうに啜るキミの身体。
　もう１％くらいは
　僕で出来てると思っちゃっていいのかな。］
　

　
［僕がレオくんなしの人生を
　考えられなくなっているのと同じように

　レオくんも
　僕なしでは生きられなく
　なってしまえば良いのに――、

　なんて考えてしまう僕は、醜いと思う。
　……とっても。］
　

　
［深紅を舐め取る仕草に見惚れて。>>?2

　今日はもういいのかな、って首を傾げた。

　なんだかいつもと様子が違う。
　レオくん、緊張してる……？］



　　　……うん？



［大人しく、続きを待った。

　ふたりきりの病室内
　カチコチと卓上時計の針が時を刻む。

　手が、普段と違う形で繋がれて―― >>?3］
　

　
［視線が真っ直ぐに交差する。
　本当に、吸い込まれそうな瞳。

　血だけじゃなくて、
　骨も臓物も、ぜんぶ捧げたい。
　レオくんとひとつに溶けちゃいたいよ。］



　　　……えっと、　それって……



［レオくんからの問いかけに>>?3
　心臓が慌ただしく活動する。

　金魚みたいにぱくぱく、口を開いて］
　

　

　　　〜〜っ、もちろん……！
　　　レオくん、レオくんがいいなら、喜んで……っ

　　　よろしくお願いします……っ


［矢継ぎ早に言って、
　絡ませられる指をぎゅっと強く握った。

　彼を繋ぎ止める手はひとつしかないから
　そのひとつだけでも離れないように。**］
　

　
［答えを待つ、ほんの数瞬が
　果てしなく長く感じた。

　すぐには言葉が出てこない様子のタロに>>?10
　前置きも無く
　唐突すぎただろうかってことにも
　不安になってしまって。

　けど…　でも…
　　　　　　　──────答えは、］



　　　っ、　ほん…とに、　…？！



［あまりにも強く望みすぎて
　幻聴を起こしているという可能性は
　彼の手が、ぎゅっと否定してくれていた。>>?11］
　

　
［止まりそうだった心臓が
　全力疾走した時よりも激しく脈を打つ。

　ぐん、っと彼を引き寄せて
　繋いでいない方の片腕で
　衝動的に抱き締めてしまっていた。思い切り。］



　　　……ああ、タロ、　…タロ

　　　どうしよう、　すごくうれしいっ

　　　やばい…、やっばい、　まじ、やばい……



［言いたいことは山程あるのに
　出てくるのは
　愛おしい名前と頭の悪そうな言葉ばかり。

　幼稚園生だって、もう少し
　マシに表現できるだろうと思うけど
　”タロ”と”うれしい”に
　塗りつぶされてる俺には、それで精一杯だった。］
　

　
［そして、

　感極まりすぎて
　まるで気づきもしなかったんだ。
　欲情の証を押し付けてしまっていることに。

　ずっとずっと
　気取られないよう
　用心してきたっていうのに。］
　

　
［地道な訴えは功を奏しているようで、



　どうやら望む方向に進みそうな気配があった。
　それで、抑えきれずに
　訊ねてしまったのだけれども。


　　　（今すぐにでも、連れて帰りたい…）

　
　肯定をもらって
　浮き立つ気持ちのまま、
　彼を囲いの内側に閉じ込め続けた。］*