>>32
　はい、来ました、ボーナスタイムです。上手いこと影鬼を突破したモモコちゃんがトラくんにきひだんごを差し出しましたね、ちょっと数が多いようですが、このゲームの使用上桃太郎に持てないきびだんごは存在しません、どんな重さでどんな大きさで何個であろうが、桃太郎の役割を持つプレイヤーは制限なしに持つことができます。
　とは言っても、数はこの際どうだって構わないのです。モモコちゃんがトラくんにきびだんごを差し出した。この事実が重要になるんですね。
　桃太郎の持つきびだんごは、それを摂取したプレイヤーに肩書【オトモ】を追加します。これによって仲間を増やし、鬼ヶ島へ乗り込み鬼を退治する。というのが桃太郎ルートの基本ルートになります。
　そして……これは一種のバグなのではないかとプレイヤーから散々言われているのですが。
　このきびだんご、実は鬼にも有効です。
　ついでに鬼の脅威が消え去ったと判断されることから、鬼のミッションである桃太郎一行に退治されるという目的も果たすことが可能。
　つまり、きびだんごさえ食べてしまえば、その時点で鬼ルートは完結なのですね。
　では頂きましょう。

　たぶん！！　これが一番！！　早いと思います！！！！

　おや……トラくんの様子が……？？
　

>>32
「お前の……仲間には、ならん。俺は、俺だ……」

　振り絞るかのように、虎熊童子は言葉を吐き出した。
　脳みそを直接弄ばれているかのような感覚だった。きびだんごを口にした瞬間、目の前の少女への従属心が噴き出したのだ。
　大鉈が重い。
　体の一部と言ってもいいはずの大鉈が、まるで血に根を張る大木のようだった。
　だが。
　だがしかし。

「俺のは虎熊童子っ！！　【鬼】だ！！！！」

　在らん限りの空気を吐きだき出しながら、虎熊童子は叫ぶ。

「お前は何者だ！！　モモコ！！！！　俺は今からお前を殺すっ、俺はそうする。お前は、どうする！！！！」
　
　

　んごぁあ？！　ば、バグったぁぁあ！！！！　違うんですよ視聴者ニキネキ、トラくんはきびだんごを食べた。それは事実なんですっ、しかし……これは、この挙動は！！　明らかにモモコちゃんを殺そうとする動き！！　鬼ルートクリアの項目にチェックが入らない……ッ。
　えー、落ち着きましょう、落ち着いて落ち着きましょう、平静に、冷静に……これは、これでいくべきなのでしょうか？　本ルートのレコードタイムには間に合いそうにありませんし、正直トラくんがどうなるのか興味が湧いてきました。
　おっと、モモコちゃん。泣いてしまいましたね、可哀想に。そしてお次は、ダッと駆け出して？　おやおや、その先にはトラくんがいますよ？　これ幸いとトラくんが大鉈を振り回しますが？　嫌な音を立てて大鉈がモモコちゃんの頭に砕かれましたね、頭にVIT極振りでもしたのでしょうか……とんだ変態ビルドです。勢いの止まらないモモコちゃん、そのままトラくんと正面衝突。
　えー、ここで解説を入れますと……本RTAでは最速で桃太郎に討伐されることを目標としています。なのでトラくんに余計なパラメータは振っていません、見た目は筋肉モリモリマッチョマンの怪物ですが、その実中身はスッカスカのハリボテエレジーです。
　なので、こうなります。
　

「………………」

　勝負は一瞬でついた。
　虎熊童子は、ただ、ただ、陥没した自身の胸元を見つめながら、自らの死について考えを巡らせていた。
　自らの死、その理由、死因について。
　とんでもない石頭だ。
　向かってくる大鉈を木っ端微塵に粉砕し、そのまま自分の胸元を突き通すその威力。
　肋骨を数本まとめてへし折り、内臓を強制的に掻き混ぜてしまうほどの強度。
　胸部で手投げ弾でも起爆したかのような有様である。身体中の筋肉が弛緩し、虎熊童子は自然と仰向けに倒れた。見開かれた瞳孔に、燦々と太陽が照りつける。ひどく眩しかった。
　自分はもうすぐ死ぬ。
　それは分かる。
　しかし、それで本当にいいのだろうか。
　彼は【鬼】だ。人を喰らう化け物で、人類の敵だ。
　だから、人間である【桃太郎】に討たれた。そうなる【運命】だった。
　しかし運命とは、何なのだろう。
　一体どこの誰が決めて、自分たちは何故それに従わなければならないのだろう。
　分からない。
　何も分からないまま、虎熊童子は死に向かう。死に向けて、落ちていく。
　

　誰よりも早く討伐されたかったRTA反省会、はーじまーるよー。
　えー、まず始めに企画倒れの危機もあった中、最後まで視聴してくれたニキネキに感謝をしたいと思います。
　あのバグについては現在調査を依頼していますが、結果が出るのはいつになるやら……セミオート機能の不具合により、キャラクターが意図せぬ挙動を起こした。というのが今の所の見解です。しかし、それだけではないことを、恐らくは視聴者ニキネキも感じ取ってくれていたのではないのでしょうか？　人間の感情と呼べるものが、脳内物質による電気信号なのだと仮定すれば、電子の世界を生きるキャラクター達に自意識が芽生えてもおかしくはない、のかも知れません。答えはそれこそ、神のみぞ知る。というやつなのでしょう。願わくば、彼に幸福が在らんことを。
　あはは、反省会のはずがどうも変な話になってしまいましたね。
　え？　トラくんがお婆さんニキの魔法を受けたその後の展開については触れないのかって？　嫌だなぁ視聴者ニキネキ、御免ですよそんなの。
　だって。
　世の中に、成就した願いほど語るに値しないものはないんですから。