探偵用に頼んだわがままは無事に叶えられた。

部屋の前に置かれていたのは犬入りの檻。
犬の数は11匹　15匹に満たないが、それでいい。
感謝の気持ちを伝える為に贈り物をして、

部屋の中を少し、片付ける。

空白のスペースを作る。
何処かを探して手に入れたビニールシートを敷く。
ビニールシートの上に体重計を置いて、大きな籠を置いて、
一度重量をリセット。メモリが0になったら、行動開始。

持ってきたビニール紐を適切な長さに切り分けて、
檻の中から一匹犬を連れ出そう。

怪我をしているのを見れば、眉間に皺が寄るけれど
悲しそうな表情に傾くけれど、仕方ない。

犬は好き。大好きな生き物のうちのひとつ。
主人が可愛がっていた、あったかくてふわふわしているもの。
大きくて温かい生き物に寄り添って眠るのが好きだった。
カンマと犬の散歩をするのが好きだった。
じゃれつかれるのも好きだった。

だから、綺麗であってほしい。

「おいで、……大丈夫。よしよし、」

「毛並みは悪いけれど可愛いね。
　あったかい。生き物の、……優しい温度。
　電子データでも、それは変わらないんだね」

ギャンギャンと吠える犬に、躊躇いなく手を伸ばし
何度も何度も撫でよう。

他の犬が檻から出てしまわないように扉は直ぐに閉め、
綺麗なシーツを目隠し代わりに檻へ掛ける。

野良犬が落ち着いた頃に、不出来は、いいや。
二人は。

二人は犬を籠へ入れて、

「……ごめんね。」

――　用意していたビニール紐を被験体の首へ巻き付けた。

ぎゅっと細い紐が首に食い込めば、犬は当然暴れるだろう。

四肢をばたつかせ、吠えて、噛み付こうとしたって
愛玩用は、架空の証明をしなければならない者は　手を緩めない。

何度も何度も噛まれた。
何度も引っ掻かれた。

不出来は首を絞めながらぼろぼろと涙を零す。
痛くない。けれど悲しくて堪らない。

でも、やらなくちゃいけないから。
君が綺麗だったと証明しなくちゃいけないから。

次第に動きが落ち着いてきたら、犬を籠へ入れた。
まだ生きているのを確認しながら　再度　強く紐を引き　――

犬がこと切れた瞬間。
はかりのメモリは動かない。

電子データの犬を殺めた後、メモリを黙って見詰める。

はかりのメモリは動かない。

失われていく温かさをひと撫でして、零れる涙を拭う。
しゃくり上げそうになるのを我慢して、

紐から手を離そう。
亡骸は、ビニールシートの上に避けた。

続いて、もう一匹檻から出す。
やる事は同じだ。電子データの犬を殺めるだけ。
何匹も、何匹も、何匹も、何匹も、何匹も。

大好きな温かさを、証明の為に奪い続ける。

犬がこと切れた瞬間。
はかりのメモリは動かない。

亡骸が11匹。
全てはかりのメモリは動かない。
　
「…………。」

「この世の全ては、突き詰めて言えば電子信号。
　そうだったとしても、綺麗で、あったかいもの。
　不完全で、不出来なものすべてに魂が　……」

気付けば手首や腕は怪我まみれ。
ビニールシートの上だって、散らかり放題。
それこそ、綺麗とは呼べないもので満ちている。

何だか動きにくい指先を動かして、愛玩用は、
亡骸をひとつ手繰り寄せて、台所用鋏で切り開いていく。

本当は綺麗なものがあるかもしれないのに。
そうでなくちゃ、あの日殺めた犬は。今日殺めたものは。
ばらばらにされた君との綺麗な思い出は。

切り開いて出てきたものを、
ぬめった手で3/4オンスの金貨と比べていく。

この部位は違う。
これも違う。
あれも違う。

同じ重さのものを、ひたすら探していく。

ひもみたいなもの。まるいもの。やわらかいもの。かたいもの。
全部、ぜんぶぜんぶ。

洗い浚い確かめて、……

ふと。気付く。
ふと、手が止まる。

一見すればただの肉の塊。或いは臓器の破片。
切り開く時に偶然傷付けて分離されたもの。
客観的に見ればそうなのだろうが、それが、偶然。

――　偶然、3/4オンスの金貨と同じ重さだった。