「よく眠れて、良い夢がもしも見れたのなら。
　それとなく土産話を聞かせてくれると嬉しいなぁ。
　僕はそれを聞いてよく頷こう。そして良い夢を共に喜ぼう。
　――　君は本当に言葉が上手いよなぁ、」

不出来が使う言葉の類とはまた別なのかもしれないけれども、
本当に君との時間は心地の良いものだった。と。
緩く笑みを向け直してから、さあ、騎士様の腕にお邪魔しよう。

行きと同じように抱えてもらって、行きと同じルートで。
何か違いがあるとしたならば、不出来の腕の中には花束が。
君の指には花の指輪がある事、それから、

「……。　騎士様。シェルタン。
　また君の気が向いたら何処かへ連れて行っておくれね。
　僕は不出来で、一人では上手に散歩できやしないんだ。」

別れ際。腕の中から降りたらば 不出来なお姫様を気取って、
騎士様の頬へ身勝手なくちづけを挨拶と共に添えた事だろうね。

叶おうとそうでなかろうとどっちでもいい。
そうしたかったからするまでだ。結果よりも行動に意味がある。

いずれにしても上機嫌なまま 不出来は部屋へ戻っていった――

良い時間をありがとう、可愛い騎士様。それではまたね。

「おやいごようだとも」
介護用はそう請け負って、身勝手には身勝手で返すのだろう。そうとも、2度もされているのだから。こちらからも頬へ口づけ贈るくらい良い筈だ。
ほんの少しばかり背伸びする必要はあったけれど。

騎士と姫のごっこ遊びはそれで一区切り。二人の世界へ帰るドゥーガルを見送った。またね。

「ふむ…何か発声機能に支障があるのでしょうかね…。治るものだといいのですが。」

ユー辺りがその辺は詳しいのかもしれない。
誰かと一緒に行動するのであればこれからは一人になる事も減るだろうしひとまずは安心か。

「ええ、そうしましょう。」

元気が戻ってきたのなら良かった、と
その日の残りの作業を終え、また次の日となるだろう。

「なかなか似合っていたよ、昨晩の夢の、ドレスを着たお姫様」

「男性となると…そうですね。
ですが結果的には稀であろうと大切に扱われているのなら良かったです。でなければこの場にいたかも危ういでしょうから。」

自分も椅子に腰かけ、ストレートのままで香りを堪能しつつ紅茶を一口飲みこむ。
次いで放たれた言葉には数度瞬きをするだろう。

「用途外、ですか？…ふむ…？仕えた時から扱いは変わりませんのであまり考えた事はないですね。」

「聞かせてくれてありがとう。……それはよかった。
　君が可愛らしい指輪をしている騎士様ならより良いね」

「下手すれば使い物にならなくなって廃棄処分。いいえ、或いは私は助かっていたでしょうね。
　なにせわたしは婦人用の男性型。男性型はね、女性型より故障が少ないんだそうです」

その理由は、詳細に言わずともわかるもの。
おんなの愛玩用が世間の富豪たちにどのように扱われているかは、多くが知っている。
それこそが、愛玩用の扱いについて一般的に知られている理由でも在るのだ。

「貴方は、"勉学サポート型"なのでしょう？
　企業が広範に想定している用途は教師、或いは家庭教師。
　勉学に関わること以外に、どんな仕事があるというのですか」