人狼物語 三日月国


150 【R18G】偽曲『主よ、人の望みの喜びよ』【身内】

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視点:人


【人】 跼蹐 カナイ


──会議室の扉が、そっと後ろ手に閉められた。

消耗こそすれ神経が昂ぶったような感覚が持続し続けているのは
いよいよおかしくなりつつあるのか最初からおかしかったのか。
一度深く息を吐いて、注意深く気配を探る。

自身に現れた力が特定の個人を探す事に長けたものではなくとも、
不安定に揺れる気配があれば、すぐに気付く事はできる。
それが多少遠くであっても、大まかな方向程度は。

『おねがいします』。

たったそれだけの文章でも、
何が起きたのかということを察するには十分だった。
だから闇雲に探す必要は無いのだと知っていた。

『ただ二つお願いがあるのです。
聞いてもらえるのです?』

『はい、構わないのです。
1つは、この能力が制御できなくなったら 
その時は僕を止めて欲しいのです。
叶様や他の人に害をなしたい訳ではないので』
(0) 2022/06/06(Mon) 22:47:34
カナイは、無事に、という言葉には、きっと何も言わないまま。
(a1) 2022/06/06(Mon) 22:48:59

カナイは、少し眉尻を下げるだけだった。
(a2) 2022/06/06(Mon) 22:49:10

【人】 跼蹐 カナイ

>>+0 >>+1 弓日向

「…内容、聞いてから考えてもいいですか」

「………わかりました、その時は…」
「…僕ならきっと、できますから」

────見付けた。

あなたと最後に会話をした場所。
会議室からやや遠い地点に位置する仮眠室、その方向。
他にも異様な気配は幾つかあったかもしれないけれど、
その位置から、どこか確信じみたものを感じて。

閉じた瞼をそっと上げて、歩き出す。
(1) 2022/06/06(Mon) 23:27:57

【人】 跼蹐 カナイ

>>+0 >>+1 弓日向

以前二人で歩いた道程を、今は一人で歩いている。

会議室を後にして、空気の良いとは言えない廊下を少し歩いて
一回、二回、角を曲がって、……

────三回目の角を曲がった所に、あなたは居た。

その凄絶な姿を見て、
あなたの代わりに悲鳴を上げるように軋む音を聞いて。
ああ、と。
息を吐くようにやるせなさを吐き出した。

──追想。
……気味が悪くとも、こうして確かに利益を齎しているのなら。
けれど、益にならないなら?……

……そしてあなたのそれは、あなたを何処まで、
どういったものにまで変化させ──変異させてしまうのか。……
(2) 2022/06/06(Mon) 23:28:44

【人】 跼蹐 カナイ

>>+0 >>+1 弓日向

「………弓日向さん…」

自分が協力しなければ、あなたはそうはならなかったのだろうか?
そんな事を今考えたところで、もはや何にもならないだろう。

「もう……戻れませんか?」

だからたった一つだけ、問いを投げ掛けた。
あなたがもう後戻りできないのだとしたら──
このままでは、恐ろしいものに成り果ててしまうのだとしたら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
きっとあなたは、その答えを行動で示すしかないのだろうけど。
(3) 2022/06/06(Mon) 23:30:00

【人】 跼蹐 カナイ

>>+2 弓日向

人体には存在し得ないパーツが床へ近付いていく。
悲鳴じみた音を立てて、ゆっくりと。
その様相を見て胸の内に湧いたものは、恐怖ではなくて。

「…ああ……また僕は」

「死で何かを得た分、死で何かを失うんだ…」

ヒトとは異なる形状の骨。
四足歩行の──凡そイヌ科の特徴を呈するそれは。
唯一の慰めであり、拠り所だった、飼い犬あの子を想起するものだった。
あの子も自身が恐怖から解放されたすぐ後に旅立ってしまった。

「……でも、これは」

「きっと、おれにしかできない事だから」

どうせもう引き返せない自分がやるべき事だ。
それに、あなたの状態は、自身の内にある力で対処する事が。
恐らくあまりにも──適切なものだったから。

そして何より、同じ理不尽を受けた被害者のあなただから。
こんな形でも、その願いの一つくらい、
えたくて。

やりたい事・・・・・だ。だから引き返せない、引き返さない。
(4) 2022/06/07(Tue) 1:12:10

【人】 ハリの豺狼 カナイ

>>+2 弓日向

だから逃れる為ではなく、向き合う為に。

その四文字を確かに認識したその直後、
また一つばき二つべき、まるであなたの心の軋む音のようなむごい音。
それを聞きながら、叶はやはり逃げなかった。

──恐怖を呼び起こし、研ぎ澄ます。

殆どあなたの理性による制御を外れた意思が、
どのような行動を取ろうとも、それを回避しようともせず。

恐れるものは、あなたではなくて。
これまで、そしてこれからの自身の行いと、その発覚だ。

この力はある程度対象を目視できなければならないようだった。
だから回避などに感けている余裕など無くて、
何れにしてもあなたに正面から向き合うほかなかった。
(5) 2022/06/07(Tue) 1:13:54

【人】 ハリの豺狼 カナイ

>>+2 弓日向

──そして、それを向ける先は──叶うのであれば。

檸檬色の結晶でもなく、葡萄色の結晶でもなくて。

────パンッ!!!!

あなたの胸元を覆う、血色をした結晶が、一瞬にして爆ぜ散った。

皮膚を切り裂き、肉を突き刺し、骨と骨の間に潜り込む。

その部位を狙ったのは、元を断つ為に。
その次に、長く苦しませる事の無いように。
とはいえ今のあなたにとって、
それが確かに致命の一撃足り得るかはわからない。

そして、たとえそれが束の間の夢だったとしても、
まだ平穏だった頃の思い出を苦痛に変えたくはなかったから。
(6) 2022/06/07(Tue) 1:14:42
カナイは、この力を使う時の感覚が恐ろしくて。
(a4) 2022/06/07(Tue) 1:17:01

カナイは、それと同時に、どうしようもなく安心する。
(a5) 2022/06/07(Tue) 1:17:16

カナイは、多分、前に力を使った時からあまり時間が経っていない。
(a6) 2022/06/07(Tue) 1:18:24

【人】 ハリの豺狼 カナイ

>>+3 >>+4 弓日向

いつか見た決意を宿した瞳のように、真っ直ぐに、一直線に。
迫り来る勢いに、ほんの少し気圧されて。
それでも確かに視界に入ったものを見逃さなかった。

「…………ッ、…」

一瞬の集中の後、短く鋭く、残響を耳に残す破裂音。
結晶とも血飛沫とも、或いは肉の破片ともつかないような
ただただ赤いものが瞬時に飛散して、
もしかすると、硬い破片が幾らか自分も傷付けたかもしれない。
それはなるべくしてそうなる事だから。


西へ、太陽の沈む方角へ。
陽が傾いて、日向が翳る。
いつかまた陽が昇るその時まで。
(7) 2022/06/07(Tue) 5:03:52

【人】 ハリの豺狼 カナイ

>>+3 >>+4 弓日向

そうして刹那に嵐は過ぎ去って。

再びの静寂と、それから徐々に血臭に満たされ始めた廊下。
ゆっくりと広がっていく血溜まりと、横たわる少女を見た。

能力の起源に紐付いた奇妙な安堵は長続きしない。
だから今この胸の内を満たすものは。
その思いを理解できたばかりの少女を失った事によって齎された
喪失感と、悲しみと、それから人を手に掛けた罪悪感だった。

「………弓日向さん」

ほんの少し軽く、けれど脱力しきって重く。
まだ温かい身体をすぐ近くの仮眠室へ運び込んだ。
野晒しは忍びなく、けれど会議室へ連れて行くには憚られた。

「あなたはあの時自分の事を薄汚い人間と言ったけど、
 おれはそうは思いませんでした」

寝台へと寝かせて、瞼や唇が開いたままなら閉じさせて。
その横で殆ど唯一の遺品となるであろう端末に指を滑らせた。
連なる望みと、呪詛と、それから。
そして、あなたの最後の言葉を思い返して目を伏せた。

「おれの方がずっとどうしようもない」

そんな人殺しに感謝するだけでなく、生きろと言うなんて。
いったいこれから何処へ生きて行けと言うのだろう。
(8) 2022/06/07(Tue) 5:05:59

【人】 ハリの豺狼 カナイ

>>+3 >>+4 弓日向

「何にしたって。
 あなたが死んで泣く人間の一人くらいは、……
 ……事実として、居るみたいです」

どうせ誰も聞いていないのだから、
随分湿気を帯びた声を取り繕う必要もないだろう。
自分で殺しておいて悲しむなんて、
人殺しには身勝手すぎる気もするな、なんて思いはしたけど。
(9) 2022/06/07(Tue) 5:06:52

【人】 ハリの豺狼 カナイ

>>+3 >>+4 弓日向

だからそんな身勝手はすぐにしまい込んで。
きっとまた少し血に汚れた白衣の裾で目元を乱暴に拭った。

「神様なんて居ないかもしれないけど」

深く息をして、仮眠室を後にするべく立ち上がった。

「居ない方がいいのかもしれない」

だって、もし仮に、そんなものが居たら。

おれはそれを殺さなきゃ気が済まないから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

たとえばこれが、誰かの描いた筋書きであるのだとしたら。
自分はその誰かを怨まずにはいられないだろう。
そしてきっと、それを殺さない限り。
自分に本当の意味での平穏が訪れる事は無いんだろう。

でなければ、真に恐ろしいものを取り除けはしないのだから。
(10) 2022/06/07(Tue) 5:07:37
カナイは、静かに電気を消して、仮眠室を後にした。
(a10) 2022/06/07(Tue) 5:08:01

カナイは、また声を聞く。きっと仮眠室を出て少し後の事。
(a11) 2022/06/07(Tue) 5:20:35

【人】 ハリの豺狼 カナイ


仮眠室を出て、誰かの声を聞いた後。

弾かれたように廊下を駆け出して、
その傍らに気配を探る。読み取ろうとする。不安定な気配を。
今明確に排除すべき恐ろしいもの──奈尾の気配を。
進行方向がわかるのであれば、その背後に回り込むように。

殺さなければきっと殺される。
真に恐ろしいものから逃れるには、殺すしかない。
自分ならきっとできる。自分がやるしかない。


何れにしても脇目も振らず会議室への道を突っ切っていく。
元はドッグトレーナーを目指していたのだ。
犬と共に駆ける為の日々の名残は、まだ身体に残っている。
(11) 2022/06/07(Tue) 7:35:45
カナイは、猟犬じみて廊下を駆けて行く。狩るか狩られるかは、まだわからない。
(a15) 2022/06/07(Tue) 7:36:58

カナイは、逃げない。
(a25) 2022/06/07(Tue) 13:50:17

カナイは、逃さない。
(a26) 2022/06/07(Tue) 13:50:21

【人】 ハリの豺狼 カナイ


──ひゅ、と風を切る微かな音がして。

────パンッ!!!!


苦痛による、血を吐くような凄絶な絶叫が響いた後。
銃口より発せられる乾いたものとは異なる破裂音。

脇目も振らず廊下を駆け抜けた先でまず視界に入ったのは、
ナイフを振り被る長身痩躯のその背中。
ひどく焼け爛れ崩れた肉とそれが変質したらしき何か、
その間から時折顔を覗かせる白いもの。

惨憺たる有様となった奈尾の背中、その上部。
ともすれば頸にほど近い箇所で、
ともすれば剥き出しの骨に罅が入り、或いは砕けるような。
無防備な背に飛来した何かを避けられなければ、
奈尾はそんな凄まじい衝撃を感じる事になる。
痛みは無くとも。


音と衝撃の出どころは、
叶が咄嗟に奈尾の背に投げた、掌大のガラス片・・・・・・・
それが忽ち膨張するように体積を増し、炸裂したためだった。
(23) 2022/06/07(Tue) 18:07:17
カナイは、その鋭く透明な意思の形は、断ち切る為に。
(a30) 2022/06/07(Tue) 18:07:27

カナイは、きっとどうしようもない人間だけど。
(a31) 2022/06/07(Tue) 18:07:32

カナイは、誰も幸せにならないこの筋書きを断つ事はできる。
(a32) 2022/06/07(Tue) 18:07:39

カナイは、向き合って、終わらせる。自分ではなく、あなたの罪を。
(a33) 2022/06/07(Tue) 18:07:45

【人】 ハリの豺狼 カナイ


直撃すれば、ともすれば脊髄を傷付けたかもしれない。
たとえ仮にあなたが痛みによって怯む事は無くとも、
幾らかその部位を損傷してしまえば、恐らくは。
脳が身体に信号を──意思を伝える事が妨げられる。

それは意図した結果ではなく、
完全に奈尾の自由を奪うには狙いは甘かったかもしれないが。
ただひたすらに、咄嗟に投げ、咄嗟に恐怖を掻き集めた。
そんな無茶な行使と短時間での連続使用、
そして不安定な精神では、反動はこれまでよりも強く。


それぞれの意思が交錯する、そんな一瞬の後。

殆ど蹌踉めくように踏み出し、けれど注意深く様子を窺った。
反動によってぐわんと殴打されたように意識が揺れて、
視界がちかちかと明滅しても、動きがあれば見逃さない。
あと二回。
(24) 2022/06/07(Tue) 18:08:24

【人】 ハリの豺狼 カナイ


「────あ、」

だめだ・・・


揺れる意識の中、眩む視界の中。
蠢くそれを見て、思考はただそれだけが鮮明だった。
牽制程度にしかならないかもしれないとは思っていたけれど、
その変容は、その執念は、想定をゆうに超えていた。

これは、自分でなければできない事だ。

あなたが真に恐ろしいものに成り果ててしまう前に。

あなたがこれ以上の罪を重ねる前に。

自分がこれ以上失わない為に。

信じた人を、助けてくれた人を、傍に居るものを。

僅かでも平穏な時を過ごした、安心できる場所を守る為に。


──ここで終わりにしなければ。
(28) 2022/06/07(Tue) 22:40:38

【人】 西へ行く カナイ


それからはあっという間だった。

「この──ッ、 その人から離れろ!!!」


殆ど思考を挟む間も無く、猛犬が喰らい付くように。

深和に覆い被さる異形を尋常ではない力で引き剥がし、
そのままの勢いで殆ど床に叩き付けるように引き倒した。
もはや肉薄する事も反撃を受ける事も厭わず、
ただその動きを止める為に押し倒すように抑え込む。

──果たして。
この場所は以前に刃の雨がぶち撒けられた地点の近くだろうか。
そうであるならその破片が。
そうでないなら、また一つ、すぐ近くの窓が爆ぜ散って。
あと一回。

床に散乱した破片が、ぴしり、めきめきと耳障りな音を立てた。

その直後、その全てが瞬時に成長し────

「────う"、あ っ" 」

無機質に冷たく、鋭く、透明な無数の杭となって、
異形と化しつつある奈尾を自分諸共にずたずたに刺し貫いた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから一拍遅れて熱く鉄臭い塊が喉の奥から込み上げ、
鉄臭さが口の中いっぱいに広がって溢れ出す。
想像を絶する痛みが身体の中を、神経を、脳髄を灼いた。
お仕舞い。
(29) 2022/06/07(Tue) 22:43:28

【人】 西へ行く カナイ


たとえるなら、そう、針の筵。

──無間地獄の刀山剣樹・・・・・・・・・


ねえ、奈尾さん。

自分勝手に、身勝手に、自らの欲求で。

どんな理由があったとしても、確かに人に害を為した。

どこまでも罪深いおれ達に似合いの地獄だと思いませんか。

あなたが悪人かどうかだとか、
どうしてそのような事をするのだとか。
そんな事は論じるにはもう今更な事だ。

どのような理由があれ、あなたは罪を犯した。
どのような理由があれ、自分は罪を犯した。
その罪深さを突きつけられる時が今だった。
おそらくこれはたったそれだけの事だから。
(30) 2022/06/07(Tue) 22:43:53
カナイは、それでもまだ生きていて、奈尾を抑え付けようとする。
(a38) 2022/06/07(Tue) 22:45:01

カナイは、当たり前に、死にたくなんかなかったけれど。
(a39) 2022/06/07(Tue) 22:45:09

カナイは、逃げ場は無くとも、足を止めたくはなかったけれど。
(a40) 2022/06/07(Tue) 22:45:15

カナイは、生きてと、そう望んだ少女を裏切ってしまうのは、嫌で仕方なかったけれど。
(a41) 2022/06/07(Tue) 22:45:22

カナイは、死ぬ覚悟は、もうできた。
(a42) 2022/06/07(Tue) 22:45:28

カナイは、それでも、伝えなければならない事があるから。
(a43) 2022/06/07(Tue) 22:45:34

カナイは、この地獄の中で、もう少しだけ生きている。
(a44) 2022/06/07(Tue) 22:45:40

【人】 西へ行く カナイ


斯くして人と異形の間と化した者はその動きを止めた。

臆病者はそれを見て取って暫くの後、
漸く殆ど硬直したように掴み掛かったままの手を脱力させ、

────ぱきり、


罅の入るような微かな音がして、
その後に透明な凶器が一斉に砕け、
両者は束の間この現に創られた地獄から解放された。

「い"、ぁ う"ぇ ぇっ、」

砕けた拍子に破片が再び肉や臓腑や神経を傷付けて、
倒れ込んだ事によってそれがまた深くへ潜り込んで、
言葉にならない悲鳴を上げ、血反吐を吐いて嘔吐いた。
これも、あの人にした事が自分に返って来ただけの事。

怖い。
怖い。
怖い。
死ぬのは怖い。
逃げたい。
けれど死からなんて、逃れられるわけがない。
(34) 2022/06/08(Wed) 0:20:03

【人】 西へ行く カナイ


「──、……深和さん…」

焦点が定まらなくて、前がよく見えない。
血がどんどん流れ出ていって、寒気がする。
全身から力が抜けていって、指先一本動かすのも億劫だ。
ああ、怖くて仕方がない。


「ぶじ、ですか そこにいますか……?」

それでも余計な思考を追い出して、
理性を掻き集めて、唯一正常な思考に意識を集中する。
まだ、伝えなければならない事がある。
(35) 2022/06/08(Wed) 0:20:50

【人】 西へ行く カナイ


「…仮眠室、に、……弓日向さんが、います」

迎えに行く・・・・・と行って会議室を後にしたけれど、
その後にこうして駆け付けた叶は少女を伴っていなかった。
そのわけを、自らの罪を、話しておかなければならなかった。
あなた達に無用な不安を与えてしまわないように。

「奈尾さんと、…おなじ、ようになってて」

「どうすることも でき、なくて おれが、やりました」

「……あの子が使ってた端末、
 あの部屋に おきっぱなしに、しちゃって」

抱えていた願望、そして呪詛。
叶わなかった望み。

それを与り知らない所で他者に知られるのは嫌だろうから、
大半のテキストファイルにはロックを掛けたけれど。

それでも、唯一の遺品と呼べるものだから。
生きて行く人に託したかった。
(36) 2022/06/08(Wed) 0:22:00

【人】 西へ行く カナイ


「…あはは……」

「頼まれたこと 全然、できなかっ た」

無事で、と言われたのにこのざまだ。
頼んだと言われたのに、迎えに行った少女の事も救えなかった。
生きてという最後の望みさえ叶えられなかった。

当たり前に頼まれた事を、
当たり前にやってのける事すらできなかった。
ああやっぱり、自分はどうしようもなく不甲斐ない人間だ。

「おこられ、るか なあ……」

それなら、怒られても、仕方ないかな。
(37) 2022/06/08(Wed) 0:23:14
カナイは、罪の重さは自身が計るものではなくて。
(a52) 2022/06/08(Wed) 0:28:47

カナイは、与えられる罰も自身が決めるものではないと思っている。
(a53) 2022/06/08(Wed) 0:28:58

カナイは、それは、罪悪感の有無に関わらず。
(a54) 2022/06/08(Wed) 0:29:19

カナイは、だからこれは、なるべくしてそうなっただけの事。
(a55) 2022/06/08(Wed) 0:30:29

【人】 西へ行く カナイ


「あは、は」

あったかい手だなあ、なんて思って。
自分の手が冷たいだけだと気付いて、おかしくて。
その後に続いた言葉が、なんだかもっとおかしかった。

「おれが、あなたにとって……恐ろしいものじゃ、ないって
 保証もないん、だから。喜んだっ て、いいのに…」

零れ落ちる涙が少しだけ手を濡らしたような、ないような。

自分が二人の秘密を暴露する可能性だってあっただろう。
自分があなたに危害を加える可能性だってあっただろう。
不確定要素が減るのは、喜ぶべき事だ。

「でも、」

「よかった」

あなたが無事でよかった。
でなければ今こうして正気は保っていられなかっただろう。

許さないでいてくれてよかった。
平気な顔をしていたら、恐ろしいと思っていたかもしれない。
(44) 2022/06/08(Wed) 3:27:52

【人】 西へ行く カナイ


そう言う深和さんだって、
さっきも今も急に呼び付けてばっかりだったくせに。


そんな子どもじみた反論は、
あなたとは逆に、心の内だけのものとなった。
いよいよ力が入らなくなってきて、
息を吸って、声を出す為に腹部に力を入れる事も難しい。

安堵するにつれ、意識が遠退いていく。
それはきっと、この臆病者を最も強く突き動かす意思が
不安や恐怖から成るものだからなのだろう。


曰く、死の間際、最後に残る感覚は聴覚なのだと言う。
そうは言っても限度はあるもので、
そもそも音として聞こえていたとしても
夥しい量の血を失った脳が意味を理解できたかは定かじゃない。
(45) 2022/06/08(Wed) 3:28:20

【人】 西へ行く カナイ


────けれど。

頭の中に直接響くような声に、
心の内にそっと、深く染み込むような安堵に。

能力の行使に必要な触媒は、恐怖の対象。
恐れるものが無ければ、この力は無いのと同じ。



「     」


きっと、ここに来て初めて、やっと。穏やかに笑って。
(46) 2022/06/08(Wed) 3:29:16
カナイは、そっと瞼を下ろした。
(a60) 2022/06/08(Wed) 3:29:24

カナイは、待っている。
(a61) 2022/06/08(Wed) 3:29:30

カナイは、いつか日が昇る事も、いつか日が沈む事も。
(a62) 2022/06/08(Wed) 3:29:36

カナイは、静かに眠ったまま、そのどちらをも、待っている。
(a63) 2022/06/08(Wed) 3:29:41

西へ行く カナイは、メモを貼った。
(a64) 2022/06/08(Wed) 3:30:04

西へ行く カナイは、メモを貼った。
(a67) 2022/06/08(Wed) 5:45:47

カナイは、それで満足だ。
(a68) 2022/06/08(Wed) 16:12:39

 




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