[生に何の執着もないとしつつ、


一度、人の狂気に飲まれて死んだ俺は、意識せず、この煉獄では地獄に堕ちる場所を求めていながら、興味深い死が訪れることを――――そうでない死は自ら斬って捨てることを、微かな喜びとしていた。
少なくともハレムの女と兵に囲われたような日々はつまらん。

此度、やってきたのは件の獣の匂いをさせる男だった]


なるほど、召使でなければ告死の者として来たか。
正面からシ合いをするのを好む輩だと思っていたが、そこまで血に飢えているのか？

……匂い、か。つくづく獣よ。
俺のシの匂いを嗅ぎつけてやってきたというか？

フッ…………俺は貴様がシ合いたいを思えるような強者かな？

……妙な気分だ。
それもこれもこの鎖と天使どもの趣向のためよ。

俺は貴様のような強弱の価値なぞ下賤の者と見くびっていた。
が……今はそれも一興と思う。

俺は強い。そして俺は弱い。
強弱とは一つの線に乗せて決められることではない。

つまらぬ死なぞ認めぬ強さがありながら、死をもってすべてに幕を下ろすもよしとする弱さがある。

だが貴様はシンプルだ。それが強さであり、だが、俺が認めたくない強さでもある。

貴様がもたらそうとする死は、俺のどちらも飲み込むものか……改めて、確かめてみたいと思えるほどには興味があるぞ、フフフッ……。

愛……愛……。

それはやはり狂気だ、天使よ。

アレが真実の愛だとて、神はアレを地獄へやったのだろう？
そして貴様の言も、眼差しも……俺には狂気にしか見えん。

神の慈悲こそ、世の真理こそ、狂気ではないか、とな。
俺は鎖の者らと語り、あの死の境を想い、そう結論した。


して、な。
俺は知った。

その狂気こそが俺の退屈を紛らす、最後の手段なのだと……！
フフフフフッッ……！

俺は知らず狂気に飲まれ煉獄に堕ち、そこでようやく狂気を知った。
愛＝狂気――――いいだろう。
地上にはたった一つしかなかったものだ。それを与えられるのが煉獄ここというなら、いてやろうではないか。

片翼のない歪な天使よ、貴様は俺を導くに相応しい。守護天使として認めてやる。
さあ、裁きの時は、まだか――――。

状況：ラナーにめちゃくちゃ絡んだ
結果：能力が暴走してうやむやになった
---

いつになく酒を呑んだ。
浴びるほど呑んだ。
案の定酔っ払った。

「……だからさぁ、ラナーは天使なんだよ。
かわいいしかわいいしかわいいし？
内側にキラキラの宝石がいっぱい詰まってて
その光が溢れて零れてるみたいな？
サーリフみたいに何考えてんのかわからんのと違って、
『未来は明るい！』ってことしか考えてなくて？
俺もラナーに導かれたかった…。」

ラナーの隣に陣取り、
すぐに抱き寄せられる位置（ラナーの右斜め後ろ辺り）に
さりげなく手を置いてグダグダと管を巻く。

「二度もラナーの肌を見てしまったわけだし、
この際もう俺が責任とってだな……」
　

困り果てるラナーを見かねて、
シャフリヤールが割って入った。

「ジンよ、もうその辺りにしたらどうだ？
愚にもつかぬ口説き文句を並べるより、
《本音を話してみろ》？」

──あれ？いまなんか能力使ったろお前？？

「……なんでサーリフってあんな目が離せねぇの…？」

──やッッべぇ、無理これ無理！！

自分がそれ以上なにかを口走る前に
慌ててぱちん、と指を鳴らした。



家まで飛んで帰るつもりだった筈が
何故か現れたゴーレムが酒席をひっくり返して
大暴れした………らしい。

すっかり記憶を飛ばした俺は、翌日
ラナーとシャフにめちゃくちゃ怒られました。
土下座。

状況：実はアルバリについて少し困っていることがある。
結果：こっそり、目標を増やした。
---

ふらふらとバザールを散歩していると
アルバリを見かけた。
つい先日、あの妖刀を手放したらしいのだが
なんというか……危なっかしさがヤバい。

めちゃくちゃ憑かれてるとは思っていたが
なんやかやバランスが取れているようにも
見えていたんだが。
まぁラナーに導かれたのでは仕方ないか。

「アルバリ」
声をかけるとすぐに気づいて振り返った。
「ナディル…なんだよ」
相変わらずの憎まれ口が可愛い奴だ。

「腹減ってんのか？」
「減ってねぇよ」
「何か食うか？」
「減ってねぇってば。用がないなら俺行くから」
ぷいっと行ってしまった。
　

なーんか邪魔っけにされた気がする。
いやいいんだけど、さ。
妖刀がなくても、っていじましいのな。

……「ただのナディル」としては
結構感謝してるというか……、
ちょっとお礼がてらなんかしてやりたいというか。
そんなふうに思ってたりするんだが。

てかあいつ、どうやったら
俺の前で笑ってくれるんだろう？

タコ・ヤーキでも作れるようになろっかな、
なんて考えてしまったから
俺も相当ヤキが回ってるかも知れない。

………ひとつ触手狩りにでもいってみるかな…。

>>2:67　


[俺は酒に弱い。しかも酔う前にすぐ眠くなるもんだから、楽しいことが始まる時はいつも蚊帳の外になっちまってつまんねぇ。だから基本、酒を飲まない。
けどその日は、飲んでも良いと思った。やっぱシャフのオッサンは面白えなって。

『妖刀を手放せ（奪って金に換えてやろう）』って言葉は散々浴びたけど、『妖刀と共にいろ（呪われて生きてろ）』>>12ってのは、初めて聞いたかも知んない。]



　……オッサン、煉獄、似合ってんねぇ……




[そんな自分の声を聞きながら、気持ち良く微睡んだトコまで覚えてるけど。なう、再び目を開けた俺が見ているもの、知っとく？





俺も愛刀も沈黙に沈黙を重ねる。
なんか周りのザワつきも変なんだ。四方八方から感嘆が聴こえてくる。なんで？　えっ────怖い。もっと正しいザワつき方があるだろがよ？？？

この異様な光景、夢じゃないのかなって、愛刀で皮膚を裂いてみたけど、痛え、夢じゃ、ない。
ぽたりぽたりと零れる赤に導かれるように、その影は、振り返る。ゆっくりと。上方斜め45°、天を頂く下弦の月の角度で。]
　
　

「──……ああ、起きたか。

　フ……やはり月を見上げる角度が一番退屈せんな
　クク……どうだ？　貴様にもわかるk」





[俺は無我夢中で、手近にあった『魔法の絨毯』──みさいるwithみはいる──を、股間に目掛けて投げつけて逃げた。


──わかんねぇ、わかんねぇよ。

煉獄ってオカシイ大人ばっかりだ。

地上の平和の為に、ずっとココにいてくれよと、俺は初めて『お願い』をした。]
　

シャフリヤールは語る。
この俺にじゃれつかれた殺されかけたというのに余裕がある。

やっぱり只物じゃねえな。

　「へへっ…………
　　お前となら試合ってもいいけど、ここじゃ勿体ねえよ」

シャフリヤールの話を聞いていると、
俺の中の獣どもが飢えに唸り出す。
ここは闘技場ではないんだが……やば、……楽しい。

刺激を求め、生に戯れ、死に遊ぶ。
彼も俺と似たような素質があったのだと思う。

ただ違ったのは、彼は生でなく死に向かっていた。
何回とは繰り返せなかった。、、、、、、、、、、、

>>35続き

彼は彼の弱さゆえに、ヴェールで幾重にも覆い隠して、
一度きりの鮮烈な暴露に焦がれていたのだ。

そのただひとつの"死"を、この手に掴むことが出来たなら。

　　「おまえを殺した女、幸せ者だな……」

この男に、もっと早く出会いたかった。
煉獄の短いひと時、俺に構ってくれたことが嬉しかった。

次は地上でも来世でもどこでも、絶対見つけ出してやる。
魂に刻んだこの匂いを辿ってな。


再び闇夜へ姿を消す前、俺は振り向いて、言い残した。

　　「───────また遊びに来るぜ！」