人狼物語 三日月国


150 【R18G】偽曲『主よ、人の望みの喜びよ』【身内】

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【秘】 日の中 フカワ → シャッタードグラス カナイ


間に合うかどうか、とかそういう問題では既にない。

間に合わなくなる前に自ら終わらせたのだから、
今からすることは単純な自己満足に過ぎないのだろう。

何かの慰めにはなるか、と思って。
薬を片手に貴方の身体の前まで辿り着く。

「……誰でもいい、ことは、いいんです。

 けれど、選択の余地なんてものを寄越されたら、
 結局、貴方のことしか思いつかなかったんだ」

今手に持つこれは決して幼い頃に見た蘇生薬とか、
そんなファンタジー的な代物ではない。
曲がりなりにも薬物に精通している人間が、
そんな夢想なんかするべきでもない。

ただそれでも、万能薬にはなり得る。
相手にではない。己の無様に足掻く心に対するパナセーア。

「……頼むよ、ホント」

祈るように。暫し瞳を閉じて。

手の震えが収まったので、
徐にそれを、脈の止まった血管に突き立てた。
(-0) backador 2022/06/13(Mon) 18:49:27

【秘】 シャッタードグラス カナイ → 日の中 フカワ


取り返しが付くか、取り返しが付かないか。

今になってそれを論じる事に大した意義など無いのだとしても、
ただ仮定としてそういったものを問うのであれば。
両者がこれまでに歩んで来た路の、
おおよそ大半は取り返しの付かない事に分類されるんだろう。

死んだ事実は無かった事にはならない。
死んだ事を受け入れた。

殺した事実は無かった事にはならない。
殺した事を受け入れた。

自らの行いは無かった事にはならない。
自らの行いを受け入れた。

犯した罪は、無かった事にはならない。
犯した罪を受け入れた。


取り返しの付かない事を認め、受け入れた。


一度生じた瑕疵罅割は決して無かった事にはならず、
それに対してできる事と言えば、痛みを和らげる事だけ。

この痛みを和らげる為に、また痛みを重ねる。
傍から見ればそんな愚かな行いだとしても。
(-2) unforg00 2022/06/14(Tue) 2:16:07

【秘】 シャッタードグラス カナイ → 日の中 フカワ


逃げて、逃げた事が瑕疵となって、また痛みを重ねる。
そんな生き方は、もうきっと断ち切られたのだろうから。
これまでの自分に、決別できたのだとしたら。

たとえどれほど痛みが伴おうとも、これからは。
向き合って、乗り越える事から逃げない。

だから今なら、これもきっと。
自らが恐れる何もかもに見ないふりをして、
無かった事にして逃げる為じゃない。
向き合って、乗り越える為の一歩だと思えるんです。
(-3) unforg00 2022/06/14(Tue) 2:17:10

【秘】 シャッタードグラス カナイ → 日の中 フカワ


けれど死者の歩みは止まったまま。
西日の路は覚束なくて、一人では日の下を歩けない。

人を殺しておいて、人に罪を背負わせて、その報いを受けもせず
のうのうと生きて行くなんて、できるわけがない。

──ひゅ、と かわいた空気の音がして


でも、それでも。

人を殺しておいて、人に罪を背負わせて、その責任を取りもせず
一人安穏と死んで居るわけにだって、いかないじゃないか。

指先が、ほんのわずか、痙攣じみて身動いだ。


けれど生者の歩みは止まらない。
その手を引いてくれる誰かが居るなら、きっとまた歩き出せる。
(-4) unforg00 2022/06/14(Tue) 2:17:38
カナイは、いたい場所へ戻る為に。
(a5) unforg00 2022/06/14(Tue) 2:17:46

【秘】 クラックドグラス カナイ → 日の中 フカワ


──死者が一切の瑕疵無く戻って来る事は無い。

現実は絵空事のように自分達に都合の良いものではない。
突き立てられる針が、自らに何を齎すものであったとしても。

死せる愚者は、 の ・・・を享受する。



朝日と共に、涼やかな風が吹き込むような。
冷たくて、けれど心地よくて、微睡みを拭い去るような清爽さ。

色なんてあるはずもないのに、
なぜか清浄な
青白さ
を感じ、そう認識するその感覚に
安らかで、けれど抗いがたい眠りから意識が引き戻されて。
胸の内に蟠っていたものが氷解していくような、感覚。


「────、」

重たい瞼が震えて、死の眠りから覚めた者の時間は動き出す。

死の間際の記憶が、フラッシュバックのように想起される。
神経を灼く激痛、寒気、遠退く意識、それから、──それから?

目の前に居るのは誰だ・・・・・・・・・・


定まらない視界、ぐらぐらと揺れる意識の中
目の前の誰かを混濁し混乱した思考のままに、
(-5) unforg00 2022/06/14(Tue) 2:19:07

【秘】 クラックドグラス カナイ → 日の中 フカワ

取り押さえようとして、けれど。
先まで死の淵にあった身体がそう言う事を聞くはずもなく。

「──ぁ れ、……?」

きっと伸ばした手はあなたの服を掴んだけれど、
逆に言えばそれだけがせいぜいだった。
力を入れ損ねた手足は身体を支えるバランスを崩して、
あなたに倒れ込むか、あなたと一緒に倒れ込むかの何れかだ。

「………ああ…」

視界が漸く像を結んで、
小さく掠れた声が零れた。

『私も……もう一仕事してから、そちらに行きますから。』

「…随分…はやかった、ですね……深和さん」

或いは、ずっと傍に居たのかもしれないけれど。
眠っている間の事まで把握しろなんて無理難題は言わないだろう。

ひどい悪夢を見て、飛び起きた後のようだ。
ずっとあなたから、あなた達からしていた嫌な気配がしない。
もう何も感じない。あの懐かしくも恐ろしい感覚も、何も。
けれど、けれど全てが些末な悪夢だったと思えはせず、
そして何より、そのようにしたくもなかった。

叶 西路にとって今自分が認識しているこの全ては現実で、
神も地獄も煉獄も天国も存在せず、比喩として在る概念だ。
つまりはきっと、今この現実こそが自らの歩むべき地獄なのだと。
(-6) unforg00 2022/06/14(Tue) 2:21:26
カナイは、針の路を歩く。
(a6) unforg00 2022/06/14(Tue) 2:21:33

【秘】 ラストリゾート フカワ → クラックドグラス カナイ


「───」

力の赴くままに押し倒される。

また映画か劇かを見ているようで、
それを現実のものと認識するには、暫し咀嚼が必要で。

最後の手段ラストリゾートに頼っておいて、なんとも情けない。

「ああ……思ったよりあっけなかった、な」

ここでの戦いも、ひとりで決めた決意も、
誰かの望みの、己の祈りも、その全てが、
実にあっけなく終わって、叶って、それだけ。

所詮自分は筋書きを変えられるほど強くなくて、
だから、ご都合主義とか、誰かの献身とか、
そんなものに頼らなくちゃならなかった。

日向と西への路を、遠くまで延ばした悪夢は、
冷たくて、苦しくて、怖くて、寂しい。

  ───だから この現実地獄で、貴方といたかったんだ。
(-7) backador 2022/06/14(Tue) 6:46:14

【秘】 ラストワード フカワ → クラックドグラス カナイ


「後悔していることが、沢山あるんです」

「やらなくちゃいけないことが、まだ沢山あるんです」

もう心の音が勝手に代弁してくれるわけじゃない。
あらゆる考えを、自ら言葉にしなくてはならない。

ああなんて恐ろしくて、わくわくすることなのか。

「何からやればいいかわからなかったけれど、
 やはり、真っ先に貴方を起こして正解だった。

 ひとりじゃないから、怖くないと思える」

「叶さんが守ってくれたから、
 あの後……誰も欠けることが無かったんですよ。

 貴方のせいです。
 貴方のせいで、隠し事なんて出来なくなっちゃいました」

「だから───ありがとう。

 既に取り返しがつかなかったのだとしても、
 これ以上失わずに済んで、本当によかった」
(-8) backador 2022/06/14(Tue) 7:01:20

【秘】 クラックドグラス カナイ → ラストワード フカワ


倒れ込んだ先、その肩にとんと額をつけて。
ぐるりと目眩く視界に耐え切れずまた暫し瞼を閉じた。
死の間際の痛みも、寒気も、まだ名残のように身体に蟠っている。

「…………」

深く息を吐いて、その間も確かに鼓膜が音を拾う。
あの時と違って、けれどあの時と同じに。
その声が、その体温が、どうしようもなく安堵を齎すのは。

それで、いいんだろうか。

「……どうして、…」

なんて、それこそ愚問なんだろうけど。

「どうして、おれなんですか……
 …どうして、ありがとうなんて言うんですか。
 おかしいですよ……ほとんどは、おれのせいなのに」

あなた達を守ったのは、結果としてそうなったに過ぎなくて。
誰かを傷付け、不安を広げる者が居なくなったなら
その後誰も傷付く事が無いのは当たり前の事。

ここであった悲劇の大半はきっと、自分のせいなのに。
それじゃあまるで、ただそれだけじゃないみたいじゃないか。

自らの愚かな行いの、その責任を負う為に。
その為だけに起こされた、だけじゃない、みたいじゃないか。
(-9) unforg00 2022/06/14(Tue) 18:00:28
カナイは、いたいけれど、いたいだけではなくて、
(a8) unforg00 2022/06/14(Tue) 18:00:55

【秘】 クラックドグラス カナイ → ラストワード フカワ


赦されたみたいだとは、思わない。
罪が帳消しになったとも、思わない。
幾度も過った後悔や罪悪感、後ろめたさ。
それらが無くなったとも、思わない。

ただ、それだけじゃないように感じた、それだけ。

「………ねえ、深和さん。
 おれは……このまま生きていたら、きっと。
 いつか、また人を殺します」

一度踏み越えてしまった一線は、得てして抑止力を失うもの。

これが強さなのだとしたら、それは実に間違ったものだった。
恐れるものを、自分に不都合な筋書きを遠ざけようとして
ただ闇雲に猜疑と爪を振るい、牙を剥いていただけだった。
それが死の間際、漸く悔悟に至っただけの。

「そうならないように……そうしなくていいように。
 どうしたらいいか、今度は一緒に考えてください、ね」

自分達は同罪で、一人ではない、
互いに頼る事のできる仲間。そんな関係が、今も続いているなら。

もう一度、ゆっくりと息をして、緩慢に身を起こす。
調子も気分も良いとは言えないけれど、幾分ましになった。
であればこれ以上寝ているわけにもいかなくて。
(-10) unforg00 2022/06/14(Tue) 18:05:10

【秘】 晴の再路 カナイ → ラストワード フカワ

──この意思はそれらの疵を戒めとして残す事を選んだ。

あなたに疵だらけの右手を差し出して、引き起こす。
こんな疵と血に塗れた両手でも、もう嫌とは言わせない。

「あなたが生かしてしまったんですから」

あなたが再び同じ日の中へと手を引いたのだから。

「それもこれも、おれのせいだから」

あなたに同じ罪を背負わせてしまったのだから。

「責任を持って……責任を取らせて、くださいね」

きっと、まだ。
終わっていない事も、叶っていない事も沢山あって。

だからきっと、この路の先は、長く遠く。
(-11) unforg00 2022/06/14(Tue) 18:06:40
カナイは、晴の路を歩く。
(a9) unforg00 2022/06/14(Tue) 18:06:47

カナイは、いつかその中で、同罪とか、同族とか、責任とか。
(a10) unforg00 2022/06/14(Tue) 18:06:53

カナイは、それら建前が無くとも、同じ路を歩めたなら。
(a11) unforg00 2022/06/14(Tue) 18:06:59

カナイは、あなたを、あなた達の事を、正しく好きになれるのだと思う。
(a12) unforg00 2022/06/14(Tue) 18:07:06

【秘】 日がな向き合う フカワ → 晴の再路 カナイ


「貴方がそうならないように。
 今度は決して取りこぼさないように、
 オレももっと、しっかりしていきます。

 お互いに大事なことを突然頼んだり、
 あるいは一人で抱え込んだりしなければ、
 きっと───もう繰り返さないはずです」

勿論全てが上手くいくわけじゃないだろう。
やはり当たり前のように悲劇的な事は起こるだろうし、
また、追い詰められてしまうことだって、きっと。

それでも、過ちを認めて、逃げずに立ち向かい、
頼るべきものに頼るなら、同じ結果には絶対にならない。

掴んだ手をあの時のように両の手で握って、
確かにそこにある人肌の熱が、こんなにも嬉しくて。

「オレだって……結構、頭がおかしいんだと思います。
 ええ、貴方の言う通り。間違いはなくって。
 だから、だからこそ必要なんですよ、叶さんが」

思わず、皮肉気に言う。何を言っても、
我々は端から一人では生きていけない、強くない人間で、
力を合わせればそれなりに頑張れる、弱くもない人間。

分かってしまえば、やはりそれだけの簡単なことだ。
(-12) backador 2022/06/15(Wed) 12:48:10

【秘】 晴の再路 カナイ → 日がな向き合う フカワ

「おかしな人ばっかり」

そういう約束、ではあったけれど。
この罪ばかりを重ねた手を必要として、
こんなどうしようもない人殺しに『ありがとう』なんて言う。

罪人として西へ行き着く絞首台へ上る事よりも、
その罪咎を背負って、なおも日の下で生きて行く事を望む。
気付けば周りはそんな人間ばかりのようだった。

「…真っ当じゃないのは、同じなんです。
 だからまたあなたを間違った事に巻き込むかもしれないし、
 暗闇の中で咄嗟に進んだ方向が合ってるとも限らなくて……」

結局のところ、叶 西路は歪な人間だ。
けれど正常な道徳観は持ち合わせていて、
モラルに反した行いを咎める良心や理性もある。

やりたくない事を、それでもやらなければならないと
そう思い詰める事さえ無ければ普通の人間で居られた。
そんな、何処にでも居るような、運の無い人間だ。

「だから……おれにできる事は、過ちを認めて、向き合って
 もう繰り返さないように。それを忘れない事と、…」

「これからも、あなたと一緒に。
 二人で同じものを背負って、分かち合う事だけです」

結果として、やる事は初めから何も変わらない、簡単なこと。
一人で抱えるには重すぎるものを、二人で抱えるだけ。
(-13) unforg00 2022/06/15(Wed) 21:08:19
カナイは、決して強いとは言えない人の事が結構好きだった。
(a13) unforg00 2022/06/15(Wed) 21:08:29

カナイは、理由は言ったら怒られそうだから、言わないけど。
(a14) unforg00 2022/06/15(Wed) 21:08:36

【秘】 晴の再路 カナイ → 日がな向き合う フカワ


「でも、」

一度、するりと手を離して。
片手を床について、もう片手は壁に添えて立ち上がる。
まだ少しふらつくけれど、どうにか一人で立てそうだ。

「…おれがそうしたいから、
 だから一人で責任を果たしたい事が、まだあるんです。」

自分にとって、この場所は。
逃げてしまったり、途中で投げ出してしまった事ばかりで。
だから、それらを拾い集めて来る事くらいは、自分の手で。

「それでも、あなたに話してない事もまだあって、だから……
 全て終えたら、ちゃんと戻って来ますから」

「それだけは、一人でさせてくださいね」

その路に、何があったとしても。
もう言った事を、言われた事を、反故にはしない。

だから──この先は、自分だけで。
(-14) unforg00 2022/06/15(Wed) 21:11:03

【人】 晴の再路 カナイ

>>7 古後

「────へ、」

ざっくばらんに現状把握を終えた後。

反射的に受け取った、手の中のものに一度視線を落として。
それが何であるか、そして掛けられた言葉の意味を理解して
既に先の事を見据え、
自らのすべき事へと再び行動を移しつつあるあなたの方へ。

「……あ、あの、古後さん!」
(8) unforg00 2022/06/16(Thu) 1:38:40

【人】 晴の再路 カナイ

>>7 古後

「あの時、……僕達の事を
 助けてくれて、ありがとうございました。」

少し以前の事。会議室のやや手前、廊下での一件。
そこでの出来事は、
少なくとも自分達にとっては些細なものではなくて。

あの時、確かに自分は多少なりあなたに恐怖敵意を抱いていて。
それを知らずとはいえど、
そして、あなたにとってはそれが当然の事だったとしても。
寄る辺など何処にも無いと思っていた自分達の事を、

あなたは確かにその身を挺して助けてくれたのだ。

その事は、確かに皆が行き着く先を変えたのだと思う。

「それから…今もまた、こうして助けてくれて」

年甲斐も無い、助けられてばかりだな、と思う。
とはいえ事実今の自分にできる事が何かと言えば、
あなたのその行いを、その言葉を裏切らない事が最上だろう。

「ありがとうございます。
 あなたが、皆が無事で、本当によかった」

手渡された希望は、届けられるべき先へ。
だからあなたに返すのは、この言葉だけ。
(9) unforg00 2022/06/16(Thu) 1:40:25

【置】 晴の再路 カナイ

──この先は、自分だけで。

話を終えた後、預かったものを二つ持って、資料室を出た。
その用途を委ねられた注射器と、今ここには持ち主の居ない、
ロックされたファイルばかりのタブレット端末。

ふと、こんなに心細いものだったかな、なんて思った。
安全な場所を離れ、一人で行動するなんて
この数日の間で何度もしてきた事なのに。

とはいえそれも当然の事で、そもそもの話。
これまで自分が形振り構わずあちこち出歩く事ができたのは
ただあの力の殺傷力に頼り切っていただけなのだから。

人気は無く、人以外のものは遠く。
実際はもう自分達以外に動くものは少ないようだけれど、用心深く慎重に。
気配を感じ取るなんて事ももうできないから、頼りになるものは五感だけ。
資料室を後にして、随分静かになった廊下をやはり恐る恐る歩いて、
一回、二回、角を曲がって、……

三回目の角を曲がっても、
今そこにあるのは幾度か見た事のある扉だけ。
(L0) unforg00 2022/06/16(Thu) 3:37:50
公開: 2022/06/16(Thu) 3:40:00

【置】 晴の再路 カナイ


「職員仮眠室」のプレートが掛かったその扉を開けて、
いつかこの場所を後にした時同様、静かに電気を点けた。
あの時からどれだけ時間が経っているんだろう、
なんてふと過った詮無い考えは答えがあるはずもなくて。

神様なんて居ないと思っている。

少なくとも、子供心に思い浮かべるような都合の良いものは。
もしもそんなものが居るのだとしたら、
どうしてもっと早く、他の形で助けてくれなかったんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうはならなかったから至った今を否定したくはないけれど、
弱い自分は、きっとそう思ってしまうのも事実だろうから。

神様なんて、居ない方が良いと思っている。

けれども居ない事を証明できはしないから、
自分以外の誰かが居ると思う事を否定するわけじゃない。
自分にとっては、居ない方が良いものというだけだ。

もしもそんなものが居たとしたならば、
起きた悲劇を"それ"のせいにしてしまえるものだから。
(L1) unforg00 2022/06/16(Thu) 3:39:00
公開: 2022/06/16(Thu) 3:40:00

【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ


「…………」

やっぱり、まだ少し明るい場所は眩しくて。
再び室内を照らす明るさにほんの少し目が眩んで、
暫しの後、目が慣れれば仮眠室の中へ歩いて行く。

これまでの全てを、悪夢だったと思いたくはない。

「………弓日向さん。
 …すみません……すぐに戻るつもりだったんですけど」

だからあの時、確かにこの手で寝台に横たえたあなたが。
眠りから覚めれば忽ちに消えてしまう夢のように、
何処かへと消えてはしまわず、今もそこで待っているのだと。
返る声は無くたって、確かにそこに居るのだと。

「また…待たせちゃったみたいですね」

約束したわけでは、ないけれど。
許されるのであれば、叶うのならば、そう思っていたくて。
(-15) unforg00 2022/06/16(Thu) 3:40:39

【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ

曲がり角を三度曲がったその先の扉の向こう。
もう、すっかり慣れてしまったでしょうか。
開け放てば、むっとするような濃厚な死臭が漂います。

他の……つまり、開放されている廊下だとか、
そういう場所と比べると、この部屋は随分静かで、
閉じられたままで、それこそ遺品を取りに来られた時以外は、
一切の光もなく、音もなく、ただ暗闇が蟠り。

ここは、大きく肉が裂けた胸元を淀んだ空気に晒しながら、
満足気な微笑みを浮かべて眠る、納められた死者の為の部屋。
……随分短い間で、部屋は大きな棺に変わっていたようでした。

電気をつければ、血が和装を染め、ベッドから滴った血が
周囲に赤く広がっているのがよく、わかります。
ともすれば、それは赤い花を亡骸の周囲に敷き詰めたよう。

棺に納められた死者は、言葉を持ちません。返事も、しません。
あなたを責めもしなければ、許しもしません。
だからこそ悪夢のような光景は、あの時のまま。

――あなたのしてくれた事への感謝を顔に浮かべて、
ただそこにあります。まるで、待っていた、というように。
(-16) shell_memoria 2022/06/16(Thu) 10:42:43

【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ


そこにあるのは、今や静謐な死の気配ばかり。
死者は何も語らない。死者は生者の罪を咎めも赦しもしない。
そこに何かを見出すのは、そして如何なる行いをしたとして。

──結局のところ、やはり生者の身勝手でしかない。

「…………」

肌に纏わり付き、息をする度肺に蟠るような重苦しい空気。
これまで幾度も自ら作り出して、けれど。
人殺しの狂人とて、終ぞそれに慣れる事は無かった。
いつだって我に返れば後に残るものは恐ろしいばかり。
(-17) unforg00 2022/06/16(Thu) 19:29:07

【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ


「…ずっと考えてたんです」

それでもやはり、今も恐れるべきはあなたではなくて。
だから徐に、けれど迷わず死者の傍へと歩み寄って
手向けのような赤の中、ただ安らかに眠る表情に視線を落とす。

あの時、あなたはもう、変われていたんじゃないかって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

悲鳴のような想いが書き連ねられたタブレットは、その傍らに。
血に汚れていない、まっさらなシーツを掛け直して
そうしながらに、誰に届くかも知れない、身勝手な独白を零す。

「あなたにはもう、自分の抱えるものを誰かに打ち明けて」

文字だけの言葉の裏に何があったとしても、
あなたがあの時自らの背負うものを打ち明けたのは事実で。

「誰かを頼る勇気があったんですよ」

あんな形になってしまったとは言えど、
あなたがあの時、誰かの助けを求めた事も事実なのだから。

そうして変われたからある今が、きっとそれを証明してくれる。
(-18) unforg00 2022/06/16(Thu) 19:30:52

【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ


「…後悔が無いなんてとてもじゃないけど言えなくて」

結局、あんな形であなたを助ける事になってしまった。

「やらなきゃいけない事、終わってない事も沢山あって」

ここから無事に出たとしても、良い事ばかりではない。

「せっかくできた約束だって、
 まだ全部は果たせていないんです」

それでも、まだこれからだったはずなのに。
もし無事に外に出られたら、なんて。
あの時は、口約束未満の皮算用だったかもしれないけれど。

それでも。

あなたがこれから先の事を話してくれたのは、
実は結構、嬉しかったんですよ。
(-19) unforg00 2022/06/16(Thu) 19:31:37

【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ


「……おれはやっぱり、神様が居るとは思いたくなくて」

また一つ、息をして。
重く停滞した空気を鼻腔に肺に感じながら。

「でも、わかったんです」

助けてくれる人は、案外居るんだって・・・・・・・・・・・・・・・・・

眠り続ける少女の、冷たい腕をとって。
確かな一人の意思によって、向ける先をこの手に委ねられた希望。
戒めでも、断ち切る為でもないその針を皮下に潜り込ませた。

それが再び同じ結果を齎してくれるとは限らない。
けれど、深く昏い眠りの中に、ほんの少しだけでも。
あなたが導とできるような、光を落とす事ができればいい。
それを導として、暗い森を抜けた先が何処であったとしても。

叶 西路は、あなたの味方だ。
行き着く先が何処であったとしても、これからも、ずっと。

一人では沈み行くばかりの西日でも、 
一度は砕け、罅割れの残るガラスでも。
誰かの光を受け、反射して、ほんの僅か。
あなたに光を届ける事は、できるのだと。

身勝手だとしても、今だけは。
誰の赦しが無くたって、そう信じる事だけは。
(-20) unforg00 2022/06/16(Thu) 19:33:22
カナイは、晴の路を歩く。
(a15) unforg00 2022/06/16(Thu) 19:38:16

カナイは、日向から暗い夜へ、その光を届けに行く為に。
(a16) unforg00 2022/06/16(Thu) 19:38:30

【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ

あなたの独白が、棺の中へ降り積もります。
もう噴き出すほどの血も残っていないのでしょう、
まっさらなシーツは微かにその白を赤に染めただけでした。
傍で見れば尚更、血の失われた青白い肌が目立つのです。

それでも、幾つも、幾つも言葉を零していけば。
その空っぽになった胸にある、半分以上潰れた少女の心に
幾らかは零れず残るのかもしれません。

あなたが、考えてくれたことが。
あなたが、守った約束のひとつが。
あなたが、人に少し近づけた事実が。


そして、西へ旅立ったあなたが、叶西路が、今ひとたび。
東から現れて、傍で味方をしてくれる。それが、
きっと、少女にとっては、なにより嬉しい事なのです。
(-21) shell_memoria 2022/06/16(Thu) 21:41:48

【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ

ぶつり、冷たい身体に幾らかの抵抗をしながら針が刺さります。
流し込まれる薬液が、その腕の内部へと滲みていって。
そうして、全てがからっぽの身体に流し込まれました。
それだけでした。
血流の止まった体では、薬液が行きわたる事もありません。
神に弓を引いた少女は、 の を受け取れないのでしょうか?
変化のないまま、数十秒が経って、きっともう何も起きないのだろうと思った頃に。

「こぷっ」


と。小さな音が聞こえました。
(-22) shell_memoria 2022/06/16(Thu) 21:42:49

【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ

こぷ、ごぷ。
声ではなく、空気と血が吐き出される音。

……少女の微笑んだ顔は変わらないままに、
血が口から垂れ流されます。
それと時を同じくして、シーツの奥から音が鳴り始めました。
ぱき。ぱき。
それは結晶が生えているような音でした。

――目の前で、シーツが持ち上がっていきます。
抉れたような形だったそれは、音と共に膨らんで。
胸骨が再生しているのでしょうか、
ぱき、ぱきり。

そして、脈動の音が聞こえます。どくん。どくん――。
(-23) shell_memoria 2022/06/16(Thu) 21:45:02

【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ

心臓の稼働する音がする度、口から血が吐き出されます。
マットレスが血で赤くなり、シーツの赤がじわと広がりました。
ぱき、ぱき。
また、シーツが盛り上がります。ゆっくりと。
それを以て、シーツの赤が広がるのは止まりました。
少し形の歪んだ二つの山が布一枚を隔てて、
すっかりと元のように現れるのがわかります。

針を刺した腕の血色は、気付けば随分と人のそれに近づいて、
未だどくん、どくんと響く音は力強く。
口から流れた血は枕を重くする頃に、やっと止まりました。
腕から肩にかけて空いていた丸く小さな幾つもの穴は
きっと結晶を生やしていた痕でしょう。
それらもまた、安心して眠るように瞼を閉じて治っていきます。

そして、ひと際大きく。
どくん
、と響いて――。
(-24) shell_memoria 2022/06/16(Thu) 21:46:52

【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ

少女は、酷く混乱した様子でした。
開いたばかりの目を白黒させて、見えているのかいないのか、
手さぐりに胸元のシーツをぎゅうと掴んで、
その血で濡れた感触に肩を跳ねさせます。
未だぼたぼたと垂れる口元からの血に何度も何度も咳き込んで。
目元からは苦しさからか涙の粒が幾つも零れます。

その手が、ふらふらと辺りを探ります。
その指が、ふらふらと伸びていきます。
一番近くにいるのか、あるのか。
見覚えがある色な気がするそれに、すがるように。
はくはく、口が動きます。

「たすけて」


叶の方へ、苦しげに。助けを求めました。
あの時よりはずっと、普通に。
(-25) shell_memoria 2022/06/16(Thu) 21:49:19

【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ


針先は、蒼白な肌の僅かな抵抗だけをその手に伝えて。
そののち、ゆっくりと押子を進めていけば、
シリンジを満たす薬液はすっかりなくなってしまった。

そうして針は抜き去られ、空っぽの注射器はよそへと置かれ。
それが齎す結果を、自らの身勝手が行き着く先を。
どこか祈るような気持ちでただ見ていた。

自らが祈る神など居ないとしているのに、おかしな話だと思う。

それでも暫しの後に、そうおかしな話でもないのだと。
そう思ったのは、今この場に於いて、この祈りの先はきっと
神でもなく、運命でもなく あなた自身に、だったからだ。
(-26) unforg00 2022/06/16(Thu) 23:52:49
 




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