人狼物語 三日月国


98 【身内】狂花監獄BarreNwort【R18G】

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「そういえば、この通信使えるんだった!」

「紅華〜!!呼んだだけ!えへ♡」
「こうしてお話ができる役割だったの、すっごく嬉しかったんだよねぇ」

ーーーそれはそれとして。

【報連相という言葉、お二人はご存知ですか?】


音声メッセージではない、短い文章。
目の前にいようとそうでなかろうと、表示された端末が向けられている。

そう。何も言わなかった二人にこの狼は拗ねている。

「えっ」

えっ と思った。

「ど、どれについて」

困った。

「え……」

え……になっている。

「それはセファーがトムを殺したことか? それともセファー達がジャックに加担したことか? 
他に何かあっただろうか……

「私が死んだ時のことかな……アマノが拷問に向いた能力だからって思って頼ったんだけど」

指折り一つ。

「それともチャンドラが復活すること知ってて…結果的に秘密になってた件かな……」

指折り二つ。

「……心当たりが……多いな……?」

残りの指も彷徨っている。

【そんなにたくさんあるのですか?】


あるの?

【セファー様がトム様を殺した事、驚きました】
【オリオンはトム様が何を望んでそのようにしたのか……何を聞いてセファー様がそうしたのか、知りませんから】

【事件の時もです。……オリオンは、オリオンは】
【チャンドラ様と対峙するセファー様と、それを支援するトム様を見て、酷く驚きました】

思い出して羽がぶわっ……したり、しょも……したりしている。顔よりも羽に出るタイプ。

【もしかすると、他にもなにかあるのでしょうか?】

「いやー、私が死んだ時はね。『殺してくれる?』『いいよ』くらいのもので、特に深い何かも無かったというか…… 強いて言うなら、君たちに絆されかけたから、絆されてなるものかと思って。基本的に私、他殺願望わりとあるから」

情報量のないやりとりが明かされてしまった。
要約するならばそうなのだ。

「あとジャックの方はなんも聞かされてないから知らなかったね……あの……血飲む?たまに支配するけど、って言われて、いいよ飲むー、しただけで……」

情報量のないやりとりが明かされてしまった。
こいつその場の勢いしかないのか?

「セファーがトムを……もうこれゲーム終わったからいいな、私がトラヴィスを殺したのは本人の申告通り。じっくり殺す羽目になったから
大分私も堪えた


自業自得である。

「ジャックのほうは……ルヴァの知る完璧に少しでも近づきたかったのと、ルヴァの普段置かれている状況に腹が立ったのと、監獄に疑問を持っていたのと、こういう事件を起こすことであちこちで見られるであろう知情意に期待したからで……」

ジャックのほう、ガッツリ関わっている。なぜなら共犯者なので。レイドボスAだったので……。

【絆されそうな相手に願望を叶えたもらったのですか】

完全に絆されてはいませんか、それ。

【たまに支配されるのは駄目ではないでしょうか?】

その場の勢い、支配する側としては確かに助かる。取り戻す事も容易かったため。
助かるけど、今回は裏目に出ているので駄目ですよ。

そんな顔で新たな拘束具のついた首を横に振った。

「他は多分なかった気がする……
 ああ、ゲームの前半でチャンドラが弱っていたのを君に教えなかったのはすまないと思っているが……
 実のところジャック以降は殆ど心身どちらかもしくは両方死んでいたからそれ以上のしでかしはしていないはず……?」

隙あらばしていたかもしれないのはよくないよ。

「ジャックの方はねえ、あの、私、
放送聞いて初めてそうなんだーって知って
……だから事前準備も何にもなくて、ナフとアマノがメンバーなのも知らないし2人に話通ってたのも知らないし武器捨てていけば身内なのわからなくても攻撃されないかなってその場の判断でやったくらいで……」

ほんとになんも知らん人でした
集合場所も知らん さまよってた

【私は、ルヴァ様の普段を知らないためそれについてはよく存じ上げません】

そもそも普段は常時拘束を受けている。そしてその状況に異を唱える事が無い。それが普通であると考えるからだ。
ーーー無知は罪であると、キンウは以前口にした。
知恵があるからこその苦痛を、キンウは知らない。

【……ただ、監獄に不満があるからと今回のような事件を起こす事は悪手であったとオリオンは考えます】
【失敗した時にどのような影響が出るか、セファー様のような方ならご存知でしょう】

事を起こすならば、成功させなければならなかった。
起きたという事実は、締め付けを強化する方へと向かいがちなのだから。

【……トム様……】

間が悪いと言うべきなのか。
それでもそこにいた事で治癒や蘇生が速やかに行われたのも事実であり。
難しい顔で端末を握り締めた。羽がバサバサしている。

「……ああ、あれね。【大損をする勝ち目の薄い可能性】に【賭ける】って認識だとそう見えるかもね。少なくともあれ、ルヴァは一人勝ちだよ」

肩をすくめた。
ジャックのことは何にもわからないけど、ルヴァのことは少しわかる。

「彼の希望は幾つかある。どう転がってもそのどれかは叶う。だからそうしたんだ。他のメンバーは知らないけど、彼はそうだったよ、おそらく」

「……私は報酬先払いだったから、満足してるしね」

【私は、ルヴァ様が愛のために何かを成そうとしていた事しか知りません】
【故に、勝ちも負けもわかりません】

【……ただ、】
【トム様のお話を聞いて、オリオンは思います】
【なにだか『わからない』もののために我々が巻き込まれていた事は、気持ちのいいものではありません】

……ゲーム外で大切な人達が傷付く所を見なければならない事だって、胸が締め付けられるようだったのに。

「……まあそうだな、ルヴァの一人勝ちだ。私としては……制圧するまでの間を耐え忍べばよかった上に、一対一ならそこまで分が悪いわけでもなかったのだがね」

看守二人、それも見るからに戦闘能力の高い二人を同時に相手せざるを得なかったからこその結果だと思っている。まあ実のところ看守二人以外にも様子を伺う者や働きかけを行うあなたという者もいたのだが。

「あとは……少し刑期が延びるくらいならば別にいいと思っていたのだよ。……残らねば得られない幸せがあったとしても、この狂った監獄で看守になってまで生きたいのかの自信がなかったんだ。あの話を貰った時点で、ね」

「…………それが罪だよ、キンウ」

犯罪に焦がれ、憎み、足掻いた男は笑った。

「罪とは為したもの以外のものには遠く、届かないものだ。
 知ろうと手を伸ばし、こじ開け、解体し並べても。
 そこには本人以外理解のできない理屈があるだけ。」

かつてのお前もそうなのだと言外に指しながら、トラヴィスは端末越しに話しかけた。遠い。全ては。誰に知られる必要もないと、そのくせ傷だけは振りまいて駆けるように去っていく。

「知りたいのなら、墓守の列に並ぶことだ」

だから逃さぬように埋めなければ。
あるいはそれが、口を開いて語りかけるようになるかもしれないのだと、トラヴィスはこの間、知ったばかりだ。

【私がチャンドラ様の害となる行為が目の前で行われるのに、何もしないとお思いですか】

問ではない。既に答えは示している。

【……それが、セファー様のみに留まらないとわかっていてもですか】

ーーー連帯責任を負わされる可能性を、僅かでも考えなかったのか。
否。考えても起こしただろう。そうでなければ皆を巻き込む場で、あのような事を起こしはしない。
それでも、

【この場所はそんなにも狂っていますか?】

此処で初めて『人』になれた金糸雀は、やはり理解を示せないのだ。

【……】
【これが、そうなのですね】

命じられるままに、かつてキンウ私達が行ったもの。当人すらわからぬ罪は、意味は、後から追ってきた。
何を思い告げられていた言葉だったのかは、キンウと共に燃え尽きてしまったけれど。

首に触れる。そこにある拘束具は、看守ならば知っているだろう。
これは言葉を失わせる効力を持つ。……目的は違えど罪を重ねたペナルティのひとつだ。

【それは……トラヴィス様達に並ぶ地位を得る、という事でしょうか?】

「お前もやはり犯罪者だねえ」

椅子を揺らしながらトラヴィスは頷いた。

「それを問うことが傷を作ることだというのをまだ理解していない。お前、『そうまでして嫌がるほど嫌だった』ことを、『そんなに嫌なのか』と問うことがどれほどの痛みを生むか、わかって問うているのかい?」

こんこん、と端末を叩いた。忠告するには距離が遠いな、と、現状を少しだけ憂いた。

「……思考や価値観は同一にはならないのだよ、キンウ。それが本来の世界だ。ゆっくりと学ぶことだね」

「学んだころには。
 常にチャンドラのそばにあることも、きっと許されるさ」

墓守はなにも、己だけではない。
数ある未来のうちの一つを示して、トラヴィスは目を伏せた。

男はそっと口を閉ざしている。
もうあんなものはペットではないと切り捨てられるつもりでいたのだ。友人になどなれやしないと切り捨てられてもいいと思っていたのだ。

【この場所はそんなにも狂っていますか?】というそれに男は口を開かずそれどころか目を逸らす。男の知っているこの場所は狂っていたから。
狂っているのが常ではないと学んだのもつい最近の事で、だからジャック前の男にとっては頷けてしまう言葉だった。今は、違うけれど。

「ああ、これ私も使えるようになったんですね」

「はい、白雪様」
「こうしてお話しできたこと、私も大変嬉しかったです」

―――

【はい】
【キンウは犯罪者囚人だから、ここにいるのです】

首を傾ぎ、黒檀の髪がさらりと落ちた。

【傷を作るのですか】
【……いいえ。キンウはわかりません。けれど、わかりたいと思っております】

とん、とん。
まだ覚束無い動作で端末を操作する。

【故に】
【教えてくださいますか、トラヴィス様】
【許されずとも、キンウは知りたいと思うのです】

刑期は元より長かったと記憶している。
あれからどれほど経ったのだったか。
今回の件で幾ら加算されるだろうか。

……それでも、いつかの未来。
こうなれたらいいと、掴みたいと。
思える未来がひとつ、できたのだ。

これは紛れもなく『私』のものだ。

【セファー様……いえ】
【アマノ様】

口を閉ざした狼の名を、呼ぶ。

【あの後、チャンドラ様とお話はしましたか?】

あの後、どちらも慌ただしそうにしたり蘇生されたりしていたから。……少しばかり気になったのだ。

「……私はね。傷であることを知られたくなかった。私はそれを気にしていると言いたくなかった。過去に何があるのかも、それが自分にどう影響していたのかも……言いたくなかった。『役割を果たせない』ということを指さされれば、きっと魂ごと死んでしまうと思っていた。傷を自ら切り開くような痛みがあった。傷は弱点だ。辛いことは傷だ」

端末を叩いていた指で、自分のこめかみを叩いた。
少し前のこと。今は少しだけ置いてきた景色。未だ痛みは鮮やかで、振り返るたびに膿んで崩れていくようだった。

「包帯に血が滲む他者の傷を、君は手を出して握ったりはしないだろう。心も、同じだ。傷つけたいのでなければ、不意に突いてはいけない。『その傷を知りたい』と思った時、真っ先に傷を持つ当人に問うことは、それに近い」

ゆるやかにね、と、トラヴィスは囁いた。
ゆるやかに、隣人の治癒を願うことだ。

「……待つことだよ。そして進むことだ。学び、歩み、お前たちの傷が癒えたら。傷を振り撒くような生き方のほかを、選べるようになる。我々はその日を待っている。チャンドラも、私も」

「……私は結局、まだ。まだ、あれ以降チャンドラと話せてはいないよ。避けているわけではなく、先に話に行くべき相手がいたからというのもあるし……
ジャック以降に死に過ぎている


一日一死ペースで死んでいるのだ、恐らく蘇生室で眠っている時間のほうが長い。会議でほんの少し言葉を交わした程度で、本当にそれだけで。……故に少しばかり目を伏せて。

「君がチャンドラの味方でいてくれたことを嬉しく思っている。これは本当だ。私も……少し合流は遅れるかもしれないが、まだ『ペットちゃん』の任を解かれたわけではない。彼の都合のいい時にでも、話に行きたいと思っているよ」

静かに、咀嚼する。
他人の傷を、今までどうしただろう?
―――考えるまでもない。
全部に触れた。全部を包んだ。そうしてそっと前を向かせ続けて。

結果が、今だ。


ゆるやかに、見守る事。願う事。祈る事。
それだけなら、ずっとキンウがし続けてきた事だ。
……癒える事なく腐れ落ちてしまったらどうするのだろう?
キンウはまだわからない。
もしかすれば、確実な事は未だ傷の残る男にも。
学び続ければ、見えないものも見えてくるのだろうか。

【きっと、長くお待たせしてしまうでしょう】

償いの時間はまだ多く残ったまま。

【けれど、期待は裏切らないよう尽力いたします】

待っていてくれるほどには期待してもらっているのだと、解釈した。
並べるようになる頃には……今の言葉をもっと理解できるようになっているはずだ。

【何故そんなに死んでいらっしゃるのですか?】


毒殺の経緯は聞いたけれど、なんで?
短期間で死にすぎではないかと流石に不安になる。
あとで羽セラピーにでも行った方がいいでしょうか。

【傍にいると、キンウは約束をしましたから】
【……ちゃんとお話をされてくださいね】
【きっと、アマノ様とお話できないままであればチャンドラ様も寂しいと、キンウは思います】

アマノ様自身も。
呟きが空気を震わせることはなく、ただ唇だけが動いた。
……どんな思惑があったのだとしても、キンウは互いに悔いが残らなければいいと、思うのだ。

「……ちょっとナフとトレーニングルームでやりあって負けて殺されたり……メサの襲撃に行ったら15tが飛んできて衝撃で吹き飛んだり……」

ちょっとどころじゃない死に方をしている。毒殺から爆散までなんて本当に蘇生の時間と蘇生後の移動時間とあとちょっとくらいしかなかったんじゃないか。死のRTAである。
ただでさえ大丈夫じゃない男の精神がそりゃあもう大変なことになっているので、羽セラピーは素直に嬉しいだろう。実際に手はもう今虚空をもふ……になっている。
癒しがほしい。


「……ああ、そうだな。ありがとうキンウ。……全く、いつの間に寂しがり屋になったのやら」

彼も私も。唇の動きだけで呟いて笑った。

 




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