伏せた瞳を開いて、そこへ貴方をしかと映す。
何か言いたげに唇を薄く開き───閉じた。

ふい、と視線を逸らせば、
豪華な男からは、もう貴方を見る事は無いだろう。

その動作を不干渉を示すと解釈し小さく頷いた。言葉がない以上キエは都合の良いように考えるだろう。

「……もしもの時はよろしく頼むよ？　僕らの邪魔をすれば館の主殿も黙っちゃァいないだろう。
　でも協力するなとも言われてないんじゃあないか？　もし疑われた時はそうだなァ、庇っておくれよ」

この館で選ばれた者が発する特有の囁き声がトラヴィスの鼓膜に届いた。

この場では、言葉を発せない。
貴方の声が聞こえている事実は、周囲に知られるべきでは無い故に。

……首を横に振る。
嗚呼、動作だけでは己の真意は伝わらない。


もう一度だけ、口を開く。

　　　　　　　　　　　　　　　

「……トラヴィス君は夜伽がお好みだったね。今夜は僕でどうだろうか。なァに、君さえ良ければ寝物語でも構わない。
　君、本当は只々眠りたいだけなんじゃあないかと思ってねェ？」

揶揄うような声色でキエは囁いた。価値を示そうというつもりなのだろう。

夜伽が好み。──小さく頷く。
今夜は僕でどうだ──小さく頷く。
本当は只々眠りたいだけ──………




頷くさまは、貴方へ肯定を示したつもりだが
貴方がどう受け取るかは、貴方次第。

「」

愉快さが滲む声は遠くなりやがて聞こえなくなる。キエの視線がトラヴィスを見ることは暫くないだろう。
いつかはわからないが陽の沈まぬ此処では時刻など大した意味を成さない。