「君、の最期に、拘りが？」

処刑の最中、順番と状態を指定してきた君にそっと話しかける。

「拘りっつーか、頼まれたからなァ」

踊る翠と琥珀から視線を外さないまま答える。

「僕に殺されるなら間近で太刀筋を見たいんだと。
　目が潰れたり意識失ってちゃ、見れないだろ？」

「へぇ。相変わらず優しいことだ。」

「まぁ、それを望む気持ちはわからないでもないけどね。
　留意しておこう。」

君の要請通り、最後は譲るつもりだ。

「そんぐらいなら望むも叶うも自由だろ？」

「あァ、頼んだ」

ありがとなと小声で付け足し、目の前の『処刑』に意識を戻した。

「頑張ったなァ」

「おやすみ、ムルイジ」

「あっ、」

探していたあなたを見つけ思わず大きな声が響く。
男はあなたの元へひょこひょこと駆け寄り。

「アンタのこと探してた！」

「……」



「…………俺……死ぬの？」

「分かってるよ、俺がまともじゃないことくらい。
　"賭け"は簡単だよ。期間内に『相手に捧げても良いと思ったら負け』。互いのを賭けたシンプルなゲーム。……もうすぐアレが俺のものになるんだあ」

　男自身も『命人生』を賭けているのだ。負ければ全てを捧げることになるにも関わらず、当然自分が勝つような口ぶりである。

「君はまともな人間だからそんなことが言えるんだよ。俺みたいなのはまともじゃないからまともじゃない奴等の掃き溜めじゃないと探せないの。
　へえ、それだけの理由でよくもなあこんなところに……素直に尊敬するよ。じゃあ、無礼講に参加した理由も？たまたま？」

「ありがとうございます。…楽しみだな。

成程、高山地帯に…。幼い頃の教えが抜けないのは良くわかるような気がする。…俺が仕える道しか考えられないのと、少し似ている気がするから。

貴方も、俺を知ろうとしてくれるのですね。…紅茶はいいですよ。あの紅もとても綺麗だし、何より香りが良い。落ち着くのに、何処か心躍るようなあれは何度だって楽しめる」

貴方との約束にはしゃいだままの男の声は弾んでいる。

「……ありがとうございます。
後で目を覚ましてくれるのなら安心して出来てしまう…かもしれないな」

けれど、もう大分貴方を独占してしまってるのだと時計を見て気づけば慌てた様子で。

「…っ、すまないシトゥラ様。俺はつい、時間も考えずに貴方を独占して…」

「探してたって、僕に用事かァ？」

「……あァ。そう話してんのが聞こえた」

聞こえたからと何ができる訳でもない。
守る者の心当たりはなく、シトゥラは襲撃者達の思惑通りに進む様を見ているだけだ。

「ルールは『相方』に聞いてなんとなく理解しただろ？
　此処はそういう場所だ。……死はまだ慣れねェか？」

「…………ああ」

用事なんて特に無かったんだけど。
どこまでも素直な優しさを持つあなたが気になったから来ただけで。

「…………そっかあ、俺……死ぬのかー……」

言葉に噓が含まれていないと理解できる。
自分が死ぬのだと理解できる。

「…………ッハハ」

理解できたからこそどこか上の空。乾いた笑いが空を揺らす。


「こんなトコで中途半端に……死にたくは、、」

ぐらり。崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

「どうだろうなァ。僕は忘れてなくてもアンタみたいに一途じゃない。自分から出てきてるしな。

　アンタならうまいの淹れてくれそうだ。僕も楽しみにしてよう」

ひとつひとつに喜色を滲ませる様子は子供のようだ。
微笑ましく、そこまで喜ばれるとなんともむず痒い。

「ちゃんと責任持って覚ましてやるから安心してやってきな。

　ん。もうそんな時間か。そんなに気にしなくていい。
　ま、無礼講はまだ長いんだ。続きはまた今度な」

そうして、この日のやりとりは終わっただろう。

すぐに蘇生はしてもらえる。
なんてのは、励ましにゃならないんだろうなァ。

「っておい、大丈夫か！？」

崩れ落ちるのは予想外だった。
強かに膝などを打ち付けないように支えて、ゆっくりその場に座らせただろう。

「悪ィ。そこまでショックを受けるとは思ってなかった」

大丈夫かと、落ち着かせるように背中を摩る。

蘇生が終わり、そろそろ目覚めるかという頃。
シトゥラは蘇生室へムルイジの様子を見に来ただろう。

「……」

装置の中を覗こうかとしてやめ、ムルイジが起きるまで近くに座って待っていた。

「…ん…、ぅあ………？」

意味のない音を僅かに零してぼんやりと意識が浮上する。
蘇生装置の中、ゆっくりと目を開けば軽く手を動かしてみようとしてみるだろう。

音を聞き、蘇生装置に再び寄る。

「……おはようさん。もう起きても平気なのかァ？」

ムルイジより明るい翠を揺らして、シトゥラは蘇生装置の外から声を掛けた。

何処か定まりきらない瞳で貴方を捉えて。

「シトゥラ、さま…？」

声色もまだ微睡むように。けれど確かに貴方の名を呼ぶ。

「……すこし…眠たいような、不思議な感覚だ…」