「――さて」
今日はここからが本番だ。最後の、かはともかく。

傷はすべて治してきた。考えられる準備も全て行った。
ショットガンを手に、処刑室へ向かう。

処刑の時間。男は今日も自室にいる。

自室に居るにも関わらず扉は薄く開きっぱなし。
動く人の音の行く先を心臓で追っていた。

「…………、」


完成した曲の楽譜を乱雑に片付け、中継を繋いだ。

さて。
誰よりも早く処刑室で待っていた最後の狼は、手に軍用ナイフを一つ握っていた。
指先で刃を少しなぞる。薄ーく皮膚が切れる。これは幻ではない。

「僕はな」

人が増え、大体揃ったかというタイミングでいつも通りの声色で紡ぎ始める。
ゆっくり、笑いかけてくれた世捨て人ハーミットに近付いていく。

「僕は死ぬのがとっても怖い。治るとしても。でもこうして死ぬと分かりきっていると」

にこり、とハーミットに笑いかけて。


「なんでも出来そうな気がする。」

もしハーミットが傷を受けてくれるなら、ナイフを引き抜いて出入口付近に突き飛ばしにかかる。塞ごうとするように。
その傷は、即死はしないだろうが、放っておけばじわじわと命を蝕むものだ。　［▽］

声を張り上げる。
途端、アルレシャの周囲足元からが噴き上がる。
一拍後、頭上に高く手を掲げる。を呼ぶように。

処刑というより、これは討伐だ。
処刑室をステージとした、この狂った狼を殺してみせるといい。

>>2>>3 討伐対象
「――、」

　自分の周囲にアルレシャの幻想に抗う風を吹かせながら、男は僅かに後方へ。この無礼講を通じて自分を信じる力を養った一方、大切なものに対しても信じる力を養ってしまったのだ。気軽に話せる同僚のもたらすそれらを幻想だと思いながらも、すぐさま完全に信用に値しないと切り捨ててしまうのは難しかった。

「戦えない奴はとっとと出ろ。戦える奴でも気乗りしないなら外行け、アイツ相手に庇うとかふざけたこと言ってられねえ。
　殺る気も殺られる気もある人間……と、
　意思のある人間は残れ」

　周囲がどう動くか次第で男も動きを変えようかというところ。そもそもとして白兵戦向きではないため処刑室の外から攻撃できねえかな……と思いはするも、流石にそれが無粋であることは理解しているため口には出さない。

>>2 夢幻アルレシャ

君が歩み寄るのを、変わらぬ微笑みで見守っている。

静かに、穏やかに、佇んだまま、ナイフを腹に受ける。
柄までも、埋め込むことは叶うだろう。

「あ゛ッ……」

呻き聲。それは君に力を与えるだろうか。
衝動を。暴力。それは生への欲求への裏返し。


「はっ……ミラージュ……。それだけでいいのかい？」

ナイフ一本。動きに支障はない。深い傷は血を失わせ死に至るであろうが、これだけではまだまだ時間がある。ならば。



埋め込まれたナイフを握り、引き抜く。
出血が酷くなるが、構いやしない。……残り時間が丁度良くなるくらいのものだ。

君の幻想が処刑室を塗り替える。

「――アルレシャ。宴は終わった。これは夢幻だ。」

凍傷を齎すような金属めいた声。君の見せたいものを見続けて来たコレは、初めてその幻想を否定する。


、の中、コレは平然と佇み、赤く濡れたナイフを君の腹へと向けた。

「殺される訳にはいかないが……困った。今回は守ってくれる人間はいないか」

大振りの盾をその場に立てる。
もちろんこの会場から去る気はない。仲間えものの最後の見せ場だ。
自分が殺されては困るし、すぐに
銃口はアルレシャへと向け。

「一体何人残る？」

>>5　隠者ナフ

「だって、お前、俺が暴れるの見たがってたじゃん」

そこで転がっておけば、出入り口付近なんて絶好の場所で見物客になれたのにな。
でも、刃が返されるのは嫌ではない。するりと避けて、ナイフ握るその腕を掴もうと。あわよくば、ナイフさえも取り戻してしまいたい。

「……俺さえも？」

何もない、というならば。
腕を掴むのが成功していても失敗していても、貴方の足を払うように蹴る。もし転がりでもするのなら、その血が滲む腹につま先蹴りでもお見舞いしたいところ。

「守りが足りないならそっちに回る」

柄に片手を添えながら、腰にもう片方の手を回す。
二つ。キューブを開ける。
水の塊が浮かぶ。浮かぶ。

「遊び相手が足りないなら構ってやる」

折角のステージだ。踊らにゃ損ってやつだろ？

>>7　幻想アルレシャ

ナイフはすり抜け、君の腕に捕まれる。
獲物は簡単に奪えるだろう。明け渡したかのように。
何せ君は今のだ。

「あはっ！……君がそこに在るかどうかは、。」

腰に巻いて下げていた鎖が解けて広がる。床に水平に、二重、三重に君を取り巻こうと。
夢幻アルレシャを捕えようと。

足払いを受ければ君は手を離すだろう。床へ落ちる勢いを利用して受け身から転がるように君との距離をとり、追撃を遮るように鎖を間に置く。飛びこめば絡めとられるだろう。

「…最悪ね、幻想とはいえ肌によくないわこんなの」
自分がこの炎を炎だと認識してしまった以上、思った通りの影響を受けてしまうだろう。

「んー、了解。私は戦うの嫌だから出ていく事にするわ」
くるりと踵を返す。数秒も歩けば、処刑室の鉄扉の外だ。
「───ただ、折角だし」
数秒で立ち去れるなら、残った数秒は抗ってもいい時間だ。
その手には、投擲用のナイフが握られている。