［決意を秘めて
　彼に歩み寄っていると
　ふいに目があった。>>1:19



　　　（ぇ…？　気づいてくれた？！）



［自分みたいな目立つのが
　ぐいぐい近づいてきたら
　気になって見てしまうのも道理だろうから
　期待すまい、とは思っても

　なんだか嬉しくなって
　ついつい歩調が軽くなる。］
　

　
［飼い主を見つけた犬よろしく
　ぱたぱた寄ってしまったせいで
　少し近づきすぎてしまったかもしれない。

　逸る気持ちのまま
　低くなった声で問いかけると
　目がまぁるくなって不思議そうに瞬く。>>1:20

　ガラス越しの綺麗な瞳に
　自分が映っているのを見つめながら
　頭の中は大忙しだ。


］
　

　


　　　



［懐かしい呼び名で尋ねられて、>>1:22
　心臓が止まるかと思った。］
　

　　
［萎みかけてた気持ちが
　ぶわっと膨らんで
　吸い込んだ息が弾けるみたいに飛び出した。］



　　　うんっ、えまだよ！　しろうくんっ！！



［あの日、約束した時みたいに
　何度もこくこく頷いた。>>0:18>>1:5

　ずっと逢いたかったキミに
　ようやく逢えたんだって実感も
　迫り上がってきて
　嬉しいって撓む目元が潤みそうだ。］
　

　
［でも、
　浮かれてばかりじゃなくて
　こんなに変わってしまった説明は
　ちゃんとしないと。］



　　　話したいこと
　　　ものすごく沢山あるんだけどさ。

　　　ここじゃなんだから
　　　とりあえず、車んとこ行こ？


　

　
［出世払いって親に前借りして
　18歳になってすぐ取った運転免許。

　宅配の荷物を仕分けたり
　30kgの米を積み上げたり
　休みごとのバイトで返済が終わったとこだけど
　おかげで、初心者マークは外れて
　危なっかしくない運転はできるようになってる。

　いつ迎えに来てくれても良いように、だったけど
　しろうくんには、まかり間違っても
　怪我だけはさせたくないから、
　慣れておいて正解だ。］
　

　


　　　荷物、持とうか？



［差し出した手は
　受け入れられたかどうだったか。］
　

　
［空港の目の前にある駐車場には
　いつも以上の車の波。
　空きがなくて奥の方に停めた
　真っ黒な軽は親のやつ。

　次は、自分で貯めて買いたいと思ってる。
　藍色が良いか、白が良いか。

　いや、しろうくんが
　乗りたいって思ってくれる色を
　聞いておこうかな。

　気が早いかもしれないけど、
　絶対また来たいって思ってもらいたいし
　自分からも逢いに行きたいし。］
　

　


　　　荷物はこっち！　で、しろうくんは前ね！



［後ろ側の扉を開け
　自分が持っているならそのまま
　しろうくんが持っているなら受け取って
　ボストンバッグの指定席はここ、と
　後部座席を占拠させるのは
　もちろん助手席に座ってほしいから。

　隣に座ってくれる日を
　どれだけ妄想したことか。
　それが叶うんだって思ったら興奮しすぎてやばい。

　１時間ほど置いただけで
　熱気のすごい車内と相まって
　くらくらした。

　鼻血吹かなかったのが奇跡なくらいに。］＊
　

　
［こちらに向かって来る大きなひと。
　目があったかと思うと
　雰囲気がぱっと華やいで>>0

　頭の上と背後に
　三角の耳とふさふさの尻尾が
　見えたような気がした。>>1

　錯覚かな……？］
　

　
［えまちゃん？　って確認すると
　いつかと同じように
　こくこく頷く>>3のに合わせてそれらが

　ぴょこぴょこ、ぶんぶん、
　元気に動き出したような気さえして。

　僕は眼鏡を新調した方が
　良いのかも知れないね。］
　

　

　　　ええ、え、えまちゃんっ！？
　　　大きくなったねえ……っ！？


［混乱しつつも
　失礼のないように言葉を選んだら
　久々に会った親戚のおばさんみたいな
　コメントになってしまった。］
　

　
［男だったの？！　って
　内心驚いてしまってたけど……、
　僕が独りでに女の子だと思い込んでた
　だけかも知れないし。

　会わない間に何かあって
　性転換？　したのかも知れないし。

　……いやそもそも、男なんだろうか？

　
　って言葉があるじゃないか。

　今の時点で女性の可能性を切るのは早計。
　早い男は嫌われる、ってね。
　］
　

　
［じーんとしてたら、
　移動を提案された。>>4

　そうだ、こんな人混みより
　ゆっくり話せる場所が良い。

　大学生になってから手に入れたスマホは
　いまいち使い方がわからなくて
　えまとは通話もしていなかった。

　会った時に、と取っておいた
　話したいことがいっぱいだ。］
　

　

　　　うん、行こっか
　　　荷物は大丈夫だよ


［ありがとうってお礼を言って。
　差し出された手には
　荷物じゃなくて
　自分の手を重ねてぎゅっと握った。>>6

　……だって、いつもそうしてたから、
　当然のように、つい。

　手も身体も大きくなったえまには
　嫌がられたりするんだろうか。］
　

　
［というか、アレ？

　もし性転換したなら
　男の僕とは
　結婚したくないってことなのかな。

　アレ？

　約束はどうなってしまうんだろう。］


　　（ああ、それも
　　　話さなきゃいけないよね……）


［手繋ぎも結婚も、拒まれることに
　怯えてしまう自分が居た。

　えまの現在の姿を見ても
　僕の気持ちは
　少しも変わってないから。］
　

　
［手は繋いだままでも離していても、
　駐車場には並んで向かって。

　荷物は指示通り後部座席に置かせて貰って
　財布だけ取り出してジーンズのポケットに移したら
　助手席のほうに回る。>>8］


　　　お邪魔します……！


［人の車って緊張する。
　免許は取ったけど、
　休日に偶に親の車を運転するくらい。
　初心者マークを外して良い時期を過ぎても
　怖いからつけたまま。
　……これは恥ずかしいからえまには言わずにいよう。］
　

　
［車内は、かなり暑くなっていた。
　ハンドル、火傷しないか
　心配なほどに……。］


　　　もしかして、随分早くから来て
　　　待ってくれてたの？

　　　……って、ふふ……


［シートベルトを締めて運転席をちらり。

　軽の中は思ったより広くて快適だけど
　えまは頭が天井につきそうなくらい
　身体が大きいから、窮屈そうに見えて。

　思わず微笑ってしまった。］
　

　
［ああ、気を悪くしないでくれると良いんだけど。］


　　　ごめん、車、
　　　やけにちっちゃく見えるから……
　　　変とかじゃなく、かわいすぎて

　　　えまちゃん、かわいいね
　　　髪も、相変わらずきれいだし


［赤茶に手を伸ばして触れて、撫でようとした。
　……大好き。って気持ちを込めた手つきで。*］