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![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌサレナは、迷いを見せずに、歩き出す。歩を進めるごとに、人だかりが増えてくる。人々は、異様な騒めきを見せ、各々、有る事無い事をささめき合う。 それは、寂れた路地裏だった。 サレナは、身を屈め、何かを拾い上げる。 (0) 2025/06/30(Mon) 21:32:24 |
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![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌ昨日、ある男に渡した、黒い人形だ。白とのコントラストが、眩しい。 人形の洋服は、ズタズタに切り裂かれている。まるで、鋭利な爪を一振りしたような。 視線を上げて、野次馬が取り囲む空間を見つめる。 麻布に覆われた人が運ばれていくところであった。 (2) 2025/06/30(Mon) 21:43:01 |
![]() | 【人】 人形技師 サレナ・アントワーヌー黒い人形 人の死期を察知し、人形の意思で、その者と、縁を結ぶ。 黒色は、元々、「孤独」を意味する。 「孤独」との「縁」を結ぶ。 * (3) 2025/06/30(Mon) 21:54:52 |
![]() | 【人】 今宮 水芭九月一日。 それがいつの年の九月一日で、その日何が起きたのか、などということは東京府民であれば語らずとも知り尽くしているに違いありません。 もし彼らにこの日についての話を振れば、何気ないふうを装いつつも、その裏にしこりのある、気重げな顔色を見せることでしょう。 その頃の私は、家より少し歩いた処にある、とある府立中学に通う五年生でした。中学校の最終学年らしく、多くの同級生と同じように、この国で最も有名な高等学校への進学準備に邁進する日々を過ごしていました。 幼少より縁側の虫の音を背景に鉛筆をはしらせ、分別がつくようになってからは阿羅々木を知り、子規を知り、さらに彗星のごとく現れた若き文士らによる文壇というものに強く惹かれるようになった私が、その黄金道に数えられる帝大・一高にも憧憬を抱くに至ったのは当然の成行きでした。 (4) 2025/07/01(Tue) 1:05:02 |
![]() | 【人】 今宮 水芭成績は、学内ではせいぜい中の上といったところ。とは言え私の中学校からは半分以上の生徒がその高校に進学できるくらいです。日々の学習を怠らずにいれば然程問題ない、などと、私としては気楽に構えながら、学校と、進学のための補習校を往復する毎日を送っていました。 その頃より、時折、風景画のような絵図を夢に見るようになりました。 超現実的で、油絵具で暖色に濃く塗ったようで、さながらキリコの絵画を思わせる情景です。 私はいつも、どこか高い所からその情景を見ています。 ただその場に佇み、遠くの地平を茫と眺めているのです。やがてその場がふわりと重さを失くしたかと思うと、私は地平に向けて放り出されます。鳥のように空を割き、そのまま、でこぼことした岩並に着地して夢は終わるのです。 恐ろしさは露も感じず、むしろ己の詩的感性がここに現れたのではないかと満更でもない思いで、床に就けばそれに出逢うのを楽しみとするくらいなのでした。 (5) 2025/07/01(Tue) 20:14:26 |
![]() | 【人】 今宮 水芭中学五年の暑中休暇、その最後の日に、学友と浅草の展望台に行こうということになりました。 中学生が足を踏み入れるには憚られる土地です。 並び立つ胡乱な呑み屋とカフェーに、まだ昼だと言うのに客を引こうとする売笑婦風情が入り乱れて私の心をおそろしくさせ、早くも学友について来たことを後悔していました。 蒸籠の中に閉じ込められたような湿度に、酒の匂いが四方八方から押し寄せていて、妙に風の散らかった正午前でした。 目的地の凌雲閣はひときわ混み合っており、エレベーターは諦めてひたすら階段を登ります。運動の方はからっきしな私は一段上る度に蒸した熱気が重く脚に絡みつく心地がし、もうろうとしてきました。 (6) 2025/07/01(Tue) 20:17:43 |
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