［夫が食糧を用意してくれるという。>>$0］


　　　　……ああ、……有難う


［言われてみれば、空腹だ。

　良く動いていた彼と裏腹に俺は
　彼の下で喘いでいただけだが……、
　自力で支度をする余力はなかった。

　申し訳なくはあるが
　素直に世話を焼かれることにして礼を言った。］
　

　
［布で包んでもらい>>$2
　汗をかいた身体が寒さを知らずに済んだ。

　「お前"たち"」と
　胎の仔を含めて気遣ってくれる彼は
　すっかり良き夫の顔をしている。
　
　数刻前の掴み所のなかった男とは
　もう別人のようだ。

　────愛おしい。］
　

　

　　　……ん。……行ってらっしゃい


［頬への口づけはあたたかく
　胸がきゅんと高鳴って嬉しくなる>>$4

　けれど］
　

　
［彼を見送った後
　徐に起き出して温泉で軽く汗を流した。
　慣れぬ体勢だったからか腰は痛んだが
　それすらも愛おしく感じてしまう。

　此処で暮らすことを考えていなかった。
　故に着てきたものの他に着替えはなく。
　掛下ではあるが端折りを作り
　裾を引き摺らないように着た。］


　　　　……、


［そうして目を閉じ
　瞼の裏に描くは取り戻したばかりの記憶。

　人の世と魔のものの世の境界線
　沢を越えたところでの出逢い。］
　

　
［――あの時もう、俺は心を奪われていたのだな。］
　

　
［彼は……、あの時も優しかった。
　身勝手な動機だったかも知れないが
　俺にはそう見えた。

　思い出すことができてよかった。
　けれどもっと早く思い出せていたなら。

　……そんな風に思っていると、
　水の流れる音、匂いがして慌てて目を開ける。］


　　　……え？


［周囲の景色があの沢へと変じていた。
　仕組みがわからずに>>$3
　砂利の上、戸惑いを浮かべ。**］