【秘】 ただいま 御山洗 → 貴方の隣に 宵闇>>-40 >>-41 >>a11 宵闇 「でも――」 形のないものを恐れてまだ駄々を捏ねようとしていたのだと思う。 変わらないままでいればいい、変わらないままでいることがいいと信じてきたから。 喉の奥に封じ込めてきた思いを飲み下してしまえば丸く収まるのだと思っていた。 だからこそ何も聞かずに逃げ出したのだし、何も耳に入れようとせず。 じっと蹲ったまま時が過ぎるのを待っていた、それでいいと思っていた。 自分の上背が落とした影の中で睫毛が動くのを見ていた。 息のかかる感触があって、触れ合うものがあって。 指折り数えるようにそれを確かめて、声の近さに気付かされて。 「――」 まだ胸の奥で都合のいい事を押し込めるものがある。 それを、彼の声がそうではないと引きずりあげるのだ。 俺にとって都合のいい夢がそこにあるのではなくて。 情けなく蹲った俺に、自分で選んで手を伸べてくれたのだ。 歩み寄って、声を掛けて。いつだって、そうしてくれたように。 立ち竦んでいる腕を引いて光のある方に連れて行ってくれたのはいつだって。 (-44) redhaguki 2021/08/20(Fri) 20:35:14 |