人狼物語 三日月国


87 【身内】時数えの田舎村【R18G】

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竹村茜! 今日がお前の命日だ!

青嵐は自宅には帰らなかった。

どこにも見当たらない。

今日も神社で足を揺らしている。

 
 あまり手の入っていない、雑木林の中を分け入って少し。
 今はもう、誰も参る事の無い、寂れた神社。

 その高欄に腰掛けて、一人ふらふらと足を揺らしていた。

 何かが欠けているような、輪郭の不明瞭な感覚。

「……ああ、そっか」

「あの人は来てくれなかったんだ。」

 ぽつりと零して、それでもいいと思い直した。

 今は来なかった。けれどいつかは来るのだから。

「それに、キミが来てくれたんだものね?」

 欠けているものがそれだけのはずがないのに。

 

「……あれ?」

気づけば境内で立ちすくんでいた。
昨日は……海に行って…。
遊んで…、そうだ。遊んで。
その後、家に……

………?

「帰ったんだっけ?俺。」

…まぁいいか。兎に角昨日は凄く楽しかった。
このままずっと楽しいのが、続けばいいのに。

少女は、望む者の意志を覆して。

現実を放り出して、夢に浸る。


ここには、皆がいるんでしょ?
皆も、婆ちゃんもいてくれるんだ。

一緒にいよう。ずっと、ずっと―――

神社にいる事を疑問にも思わなかった。会いたい人達がいるのを知っていたから。

「本当、しょうがない人たち」

現実の未来地図も、夢の揺蕩いも、
どちらも抱えている青年/少女は、
これからのことを考える。

田舎のことは話をかけて一層大好きになった。
叶うなら、ずっとここにいたいと本気で思っている。

だけど、『田舎が大好きなこと』と『田舎から帰った後を想像すること』は両立するから。

みんなとの停滞も、
みんなとの未来も、
等しく大切なものに違いないから。

やることを、いくつか考えて。

「帰りたくないなあ」

それでも、
帰らなくちゃならなくなったときは、仕方がない。

自分はただ、四角形の思い出にみんなを詰め込みたいだけだから。

 
「誰だって、楽しい時間はずうっと続いてほしいはず」

「でもねきっと、それってみんなで居るから楽しいんだ」

「ねえ、みんな!」

みんなは誰と遊びたい?


「アタシ達、きっとみんなが連れて来てほしい人を連れて来るよ」

「一番に遊びたい人を呼んで、それからいろんな事をして遊ぼう」

「──いつまでも!」
 

/*
という事で本日の墓下のお二人に襲撃先のアンケートなのじゃ!

とは言っても妾、黙狼どのの襲撃先は自由にしてほしいと思っておるからの
だから絶対に連れて来る事ができるとは言えないのじゃけど、
妾一人で決めてしまうのも勿体無いから是非お聞かせ願いたいのじゃ!

あくまでも参考にしたい程度のものじゃから
ロール的にはこの人が居てくれたら嬉しいな、くらいで
あまり気負わず答えてくれると嬉しいなのじゃ!
妾、このままみなを連れて来れるかの〜!?

「俺は、あなたの作る四角形に、
 収まり続ける気はどうしてもないんだ」

矛盾するものをいくつも抱えている。
田舎は好きだけど、そこに導くものは気に入らなくて。
都会は息苦しいけど、その先の未来は掴み取りたくて。
そんな危うい上に、卯波の思考は立っている。

「時任の姉さんは。決闘相手
≪きみ≫
は今の俺を、今の皆を愛してるって言ってたけど。
 今の『いま』はまだ……正しくない形だからさ」

胸に手をかざす。

『ずっと男らしくなったけれど、それでもまだ追いつくに足りなかった青年』か、『男らしい先輩たちに近づこうと、性差は覆せないのに、女の身であることを見ぬ振りした少女』か。正直俺にはどっちでもいい。

あの頃の少年の面影は、ここにあってはならないだけだ。

時任のきょうだいや、自分をここに連れてきたあの人も歪だ。歪だらけで、矛盾だらけだ。

小さな写真家は、その綻びたちをずっと見つめている。

何かに気がついたようにふと振り返った。

大好きな田舎にしがみつき、愛し、それでいて心の奥で否定している。

メモを貼った。

「……?」

誰かの返事が聞こえたような気がして、振り返る。
振り返っても、誰もいない。
サワサワと木々が擦れる音が辺りに響いている。
気のせいか。…気のせい、なんだろうけど。
…そうでなければいいな、と思った。

「今日は何すっかね。
まぁどうせ今日もどっかでなんかやってるだろ。」

呟いて歩き出した青年の口元は、僅かに綻んでいた。

「夏祭りか…皆と行きたいな。
 かき氷食べて金魚掬って…ふふ、楽しみ〜♪」

にこにこ、これから待っている楽しみに思いを馳せて家に戻っていく。
女の子には、用意したいものが沢山あるのだ。

 
 歪だらけで矛盾だらけ。

 今居る『アタシ』はこの村を愛していたあの人の
 その面影を滅茶苦茶に継いで接いで作った張りぼてだ。
 自分も嘗てはそうだったけど、もうそんなふうには居られない
 そう言って捨ててしまったものを、もう一度拾い集めて。

 自分に自信が無いから取り繕う。
 自分はこの場所がそんなに好きではないのかもしれないと
 そんな不安を塗り潰す為に人の殻を借りる。
 借り物だらけで不格好、そんな一人ぼっちの王様だ。
 

 
 それの何が悪いというのだろう?

 人はいつか絶対に、誰もが見て納得するような
 きれいな形に収まらなければならないのだろうか?
 きれいな形になれない人は、決して存在してはならないのか?
 ああ都会では確かにそうだった、でもここではそうではない。

 どんなに不安定で不格好でも、今こうして
 ここに立つ事ができているのだからいいじゃないか。

 この場所で、こうして変わらずに在り続ければ
 きっと、何も憂鬱に思う必要なんて無いはずだ。

 それを正しくないと切り捨ててしまえるのは、
 歪で正しくないその支え無しでも立てるから。
 欠けた四角形、正しい形を失った自分達は─
 

「………あれ?」

 雑木林の中、ふっと現実に引き戻された、ような錯覚。

 失ったものなんて、無いはずだ。
 思い出の中そのままの村があって、
 成長こそすれど、その優しさは何も変わらない皆が居て。

 皆の中の、自分の知らない一面が顔を覗かせるのは
 彼らが何処か遠くへ行ってしまったようで怖かった。
 それでも変わらない一面もあって、だからそれで良かった。

 自分にだって、変わった所が無いとは言わない。
 けれど、歪な支えに頼らなければ立って居られないほど
 何にも代えがたいものを捨て去ってしまった覚えなんて無い。

 その上で今、


 自分の傍に無いものと言えば 
姉の存在
くらい で、

 
そんなはずがないんだ

 

写真を見ている。

世界の果てみたくハッとするような澄んだ空気の中、
田舎の皆で集まって撮った、何より大切な集合写真。
様々な表情で、様々な姿勢で切り取られた四角形の。

『  』

慈姑婆ちゃんも、時任の さんも、呼子姉も、
この中にはみんないる。何一つ欠けていない。
誰もがあの頃の美しさのまま、そこに写って。

彼が、あの子が作ろうとしている枠の中とは、
決しても似ても似つかない。哀しそうに笑う。
今それをどうしようもなく愛してしまうのは、
やはり矛盾した心の、不自然な気持ちの動き。

「ずるいよ。俺にはないもの。
 俺だって、みんなをここに閉じ込めて、誰も前に進まない場所で、背中に追いつきたかった」

警察の兄さんたち。ひとつ年上の人たち。
目を離せば、随分遠くを行く彼らだって、
ここに止まれば等しく『田舎の人間』だ。



「俺は田舎が大好きで──でも、
 それと同じくらい、前に進む皆が好きだから。
 
 ここにみんなでずっと残っていたいし、
 ここから出て様々な道を行く皆を見たい。

 酷いよ、ほんとに。この先どうなっても、
 俺は叶わなかった願いに心を痛めることになる」

十年前の写真。
ここで撮った写真。

それと──十年経つ中で、
己の人生をいくつも切り取った、
晶兄の名を借りたカメラが映し出した写真。

息苦しかったり、嫌なことがあったりの日々から、
美しく、甘く、優しいものだけを切り出したもの。

ここにあるのは人生の歩みだ。
並べて、ただひたすらに並べたら、
一ノ瀬卯波という人間の楽しく思う部分が全部詰まっている。

ここから先はもっとみんなを撮りたいから。
夢に浸りたいと願う人にも、現実に帰りたいと願うにも。俺は逃げたりしない。

誰でもない、一ノ瀬卯波の人生を、誰よりも美しく思っている。

「じーちゃんばーちゃんいってきま〜す!」

紺色の浴衣の上からカーディガンを羽織り、
上機嫌で家屋から、下駄をころころと慣らして出てくる。
首には勿論、大事なインスタントカメラを引っ提げて。

「男前になった?ふふ、お世辞を言っても何もでないよ、おじさん。屋台は……あっちですね?ありがとうございます!」

手持ち花火セットを受け取って、
いざ祭りへ。みんなもう居るかな、と逸る気持ちは、そのまま急ぎ足の歩幅に映っている。

ずっと遊んでばかりだからか、
一日一日過ぎるのが早い気がする。

時を数えるのも、忘れてしまったみたいだ。

夕凪は、声をかけました。

「青嵐くん、お祭りにいったら今日は何食べたい?
 お腹壊さないようにするんだよ」

話を早く区切って、誰かの元へ。

「茜ちゃん浴衣は着る?
 着付けして欲しかったら夕凪に任せてね」

せわしなく、何かに焦っているようにまつりを楽しみにしている。

「……卯波、あのね。
 夕凪たちの写真もっと撮って欲しくて、あれ?」

ずっと続くと、楽しいと思っていた世界にひびが入ってしまったような気がして不安で仕方が無い。
だから、できる限りのことをしようと思った。

「……大きくなってる?
 う…うん? ……前よりも、ずっと。
 お世辞じゃないよ、素敵だと思う……」

ここにみんなでいたいという祈りは、間違っているのかな。
夕凪たちは、閉じ込めたいとでも、おもっているのかな。
だんだんと変わっていく皆の心に、亀裂は溝を深めていった。


「時任の さん、どうかした?」

最初に境内に訪れた時と比べて、
ほんの少し背が伸びて、髪も伸びて。
こころなしか、体格もしっかりしている。

卯波は確かに、田舎でみんなで居られたらどんなにいいことだろうと思っている。
だけどそれはまるで、もっと外へと飛び出そうとする、子どもの、眩しい成長のような──

「勿論、写真は沢山撮りますよ!
 フィルムはいっくらでもあるから、寧ろみんな俺が撮りすぎてイヤになったりしないか不安だな。
 ……ふふ、皆の着物や浴衣、今から凄く楽しみ」

そう笑う顔には、他でもなく卯波少年の面影を色濃く残していていた。

行く道で編笠にも「晶兄〜!」だの声をかけた。

「そっか今日夏祭りか」

並ぶ屋台を見て一言。
生憎水着も持ってこない男だから
浴衣なんてあるわけないのでTシャツで失礼。
夏祭りならみんな来るんだろうな。と期待に胸を膨らます。

「なーおじさんもうやってる?たこ焼き食べたいんだけど」

みんなを待ちながらたこ焼きを食べている。

 編笠

「え〜、折角久しぶりのお祭りなのに。
 楽しみなのはそりゃ当然として、
 さらにテンションあげてきましょうよ」

先輩ら二人が普段着なのは何となく予想がついていた。瞬兄は良くも悪くも変わってないし、晶兄もまわりに流されたりするタイプじゃないように見えたから。

「これじゃあまるで俺だけが望んで……違うな、楽しそうみたいじゃないですか。普通逆ですよ、俺は撮る側」

ほら、とインスタントカメラを掲げてみる。
今なら、空気のなかで弾けるような、賑やかでどこか寂しい笛や太鼓の音までも切り取れそうな気がする。気がするだけだけど。

 
「………みんなを連れてこないと」

「みんなを連れて来ればきっと、」

「きっと、みんなとここで待っていれば」

呼子お姉も来てくれるはずだから

 

フラッシュを閃かせた。

メモを貼った。

メモを貼った。

メモを貼った。

夕凪姉に着付けを手伝ってもらって。
薄い水の色に白の葉が踊る浴衣を身に纏った少女は祭りに繰り出した。

少女に合うサイズの浴衣が用意されているなんて有り得ないのに。


ちょこんと頭の後ろに括られた髪が、走るたびに揺れる。

「シュンー!アキラー!うーなーみー!遊ぼーっ!」

そして、一目散に幼馴染の元へ駆けて行くのだ。

傾いた日の、光が当たる地面に立ち、
ほんの少しだけ首を傾げて。

あなたを木陰に残して、

一歩、二歩と早足で歩き、
振り返ると、微笑んでみせる。

「あるよ」

誰かにも見せた。今まで誰にも見せなかった、
恋焦がれるような、悪戯を思いついたような、
ほんのちょっぴりだけ蠱惑さを煮詰めた笑み。

「お祭りが終わった後の日々は、
 切なくて、つまらないことばかりだもの。
 帰りたくないなって何度思ったことか」

それは変わらないあなたの表情と対照的だ。
違和感は違和感だけでは終わらず、
確かに、何かの変化を齎そうとしている。



編笠

「でもね。楽しいからこそ切なくなるんです。
 お祭りも、その先の味気ない日常も、
 俺は全部ひっくるめて好きで居たい。

 ずっと同じ風景ばかりの写真じゃ──飽きるでしょ?」

俺に勝負を吹っかけた晶兄だから分かるでしょうけど、と続けて──また、昨日のように手を伸ばす。

遠くから聞こえてくる彼女の声も、また同じようなシチュエーション。きっと、映るものも似たような四角い枠の中だ。

「ね、はやくいこ?
 俺、今日は沢山みんなを撮って、遊んで、楽しむんですから」

夕焼けが後ろ髪に透けて、縁に淡い光を含む。
陰の差す顔の表情は、それでも晴れやかで、あなたを見ている。

編笠

「繋いでくれてもよかったのに」

小さく笑い声を溢して、
無邪気な声の聞こえてきた方向へ向く。

俺は帰ればまた抑圧される。
その性別らしく振る舞うことを要求される。
でもそれは、田舎の思い出を抱えたからだ。

それが嫌だと思ったことは一度もない。

「うん、楽しんでくださいね、晶兄。
 対抗心はあるし、思うところもあるけど。

 それでも、あなたには明るい顔でいてほしいから。写真のためだけじゃないですよ?心からの言葉です」

屋台をみんなと回っている。金魚掬いはあまり上手にできなかった。

目を丸くして──

満足げに、あどけない笑みを浮かべた。

祭りを回りながら、編笠のズボンのポケットにメモを突っ込んだ。



「……写真も絵も、いつまでも残るからいいよね。
 夕凪もお祭りを楽しみにしてる」

卯波の背や、髪をじっくりと見た。
嬉しいようで悲しかった。
記憶のあのままだったあなたが変わって、はっきりと気づいたような気がした。
きっと、秘密基地にいつまでもいられないのだ。
記録を残し続けたいことが、未来をしっかりと見ているようで閉じこもってる自分を自覚してしまった。

「 、お祭りに終わって欲しくないなって思っているんだ。
 卯波は、どう? また来年も、こうして遊びたいって思っている?」

見送る前、そんな言葉を投げかけていた。

浴衣を着て境内に訪れた。髪は結わずに、手にはヨーヨーを持っている。

 凪

「ずっとお祭り……ふふ、素敵ですね。
 ほんと、そうならどれだけよかったか」

今だって夢見ている。
ひしひしと感じている、迫る現実が全部嘘で、何もかもが嘘になって、夢のままでいられたら、なんて。

夢は、叶わないこそ夢だって、思い知ったのはつい最近のことだ。

「俺は……来年も再来年も、
 十年なんて時間を待たず、みんなと遊びたいと思ってますよ。おじさんおばさんになるまでずっと遊んで、撮って。

 そうなればいい。そうなるために、これからを」

晶兄の方に向かっていき、
その途中で顔を向け、歯を見せて笑う。

「歩んでいくんです」

「お。
よーうアカネ。
アキラと卯波も一緒じゃん。おっす。」

食べ終わったたこ焼きの空はゴミ箱へ。
着飾った友人を頭のてっぺんから足の先までまじまじと観察して一言。

「馬子にも衣装?
あ、卯波はにあってんね。
でもカーディガンは暑くね?卯波寒がりだっけ。」

 




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