不安を一つずつ塗り替えるように。
紡がれる言葉は、あまりに甘く、魅力的で。

………眩暈がする。

「どうして…出会ったばかり、なんですよ。
このゲーム中、僕が貴方を殺す可能性だってある。
危険を冒してまで、僕の手を取る必要なんて、無いはずなのに」

だって、貴方の話が本当なら。あの資料の通りなら。
今の貴方はあまりに無防備じゃないか。
それなのに、撫でる指先も、胸が苦しくなるくらい優しくて。

恐ろしいくらい、満たされるから。

「……」
「……」

「出会ったばかりの俺に自分のこと教えてくれたのはお前じゃん。お前の寂しさや苦しさ知らなきゃそもそも手袋脱いでまでスキンシップしてねーのよ俺。フツーに話してフツーに笑ってハイサヨナラ、にならなかったのはお前自身が手ぇ伸ばしたからなの！」

あなたが望むものをぼかして語る、あるいは嘘を混ぜて語っていたのならば着地点は大きく異なっただろう。

「で、殺されるんならそういう役割だったかーってだけじゃね？ゲーム外にゲームのこと持ち出す気はないし、俺達個人間の話ならお前は向き合ってくれると思ったし実際に向き合ってくれてただろ」

無防備になるリスクを負ってまで手袋を外せたのは、あなた個人の感情を自分に伝えてくれたからだとバーナードは語る。
あなたの一言には満面の笑みを浮かべて、……指先に触れるだけのキスを落とした。

「お前が望んでくれるなら何処までだって連れていく。」

「…手を伸ばしても、欲しがっても。
いつも通り、触れる事も。手に入ることもない筈だった」

眩しいくらいの貴方には、きっと、もっと似合いの相手がいるだろう。僕の事なんて見なかったことにして、立ち去ることだってできたのに。


「こんな僕の手を取ってしまうなんて」

▽

指先に触れた唇の感触。夢ではないのだと、信じきれなくて。
臆病な僕は、まだその言葉を口にできないけれど。


「馬鹿な人」
「…もう、僕からこの手を離してさしあげる事はできませんから」


「…覚悟、してくださいね」

「誰かと共に居るという事は、とても心地いいものだからな。俺にも覚えがある。

俺の実家は出会いと別れを繰り返す事が当たり前だったから、ラサルハグが感じる辛さと多少異なるかもしれないが……その気持ちもわかるつもりだ。
機会があればうちの牧場に遊びに来るといい。大きくて最初は恐ろしいかもしれないが、牛や馬も可愛いものだ」

ブランケットをかけるしぐさであなたにそっと近づいて、

「おやすみ」

とだけ囁いておく。

「ふふ、ではゲームが終わってから訪ねてみましょうか。

牛…はその、食べる事もあるので罪悪感が出てしまいそうですけれど。馬に会ってみたいのです。…彼ら、賢いと聞きますし、端末にある映像で見た、彼らの走る姿がとても美しかったから」

「そうだ、黒鹿毛の子もいらっしゃいますか？」
資料で見たときに特に綺麗だったから、とふと思い出して尋ねた。

「おやすみなさい」

小さな声で返して、ブランケットの下、こっそりと指を絡めた。

「上等、しっかり掴まってろ。振り落とす気は全くないけどすり抜けられても困るからな」

寧ろ助かるよ、くらいのニュアンスで話している。
見ない振りも当然できたしバーナードとて完全硬派な男というわけでもない。
そういった諸々の選択肢もあった上でこの道を選んだのだから、あなたへの情の深さも伺えるかもしれない。

その後、妙に甘い雰囲気にくすぐったさを感じたのか、処刑時間が近づいているのをきっかけにおずおずと離れようとするバーナードの姿があったことだろう。


/*バーナードPLです！このあたりで切るのが綺麗＆日付更新が入ったのでこれはここでフェードアウトがいいんじゃないかと思い一旦畳ませていただきました！
その上で……まだ話し足りないので……3日目時空に移行させていただけませんか？というお誘いです！忙しい等の不都合なければぜひご一考ください！

/* 綺麗に畳んでいただいたので連絡のみで失礼致します。
3日目移行了解、というか歓迎です！沢山お話してくださりありがとうございます〜！相変わらずのマイペースですが対戦宜しくお願いします！

「あぁ、ぜひ来てくれ。美味いものも多いぞ」

牛を見せた後に牛肉を出せる人種。

「黒鹿毛の馬、か。いるぞ。先日、丁度仔馬も生まれてな。そいつも黒鹿毛だと言っていた。親子で走っている姿を見せられるかもしれないな」

「………オススメ、乳製品とかもあります？」

こちらはちょっと躊躇いがあった人種。

「本当ですか」
思わず弾んだ声でそう口にだして。やや恥ずかしそうにいつものトーンに戻す。

「親子で…、ふふ、きっと可愛らしいのでしょうね。
触れたり、乗ってみる事も可能ですか？…その、経験はないのですけれど」

あのような会話をしてから、すぐに訪ねるのは重たくないだろうか、何度も思考を繰り返して。
そこへ処刑への葛藤が織り交ざるうちに眠れなくなっていた、なんて。貴方が聞いたら笑うだろうか。

昼寝をして幾分かマシにはなった頭でも、結論は出せぬまま。
…気が付いたら、貴方の部屋の前にたどり着いてしまって。

「…あの、いらっしゃい…ますか…？」

躊躇いがちにノックする。

あなたがノックをすれば室内の気配が動き、暫くして扉が開く。

「おーラサルハグじゃん。やっほ。いるいる、どうした上がってく？」

すっかり勝手知ったる我が家みたいな雰囲気だ。

上がってく？と聞きながらも部屋に入れるよう道を開けている。大歓迎だ。

出迎えてくれる貴方の様子に小さく安堵して。

「はい、是非。
………会いたくて、来てしまったものだから」

伝える口元がふわりと笑うのが分かる。
開けてもらった道へ、静かにすすむだろう。

『もしもし！占…………』

『……あっ違うじゃん！忘れて！』
急にかけたのは、間違い通信だった。

「……へへ。そう言われるとめちゃくちゃ嬉しい。来てくれてありがと」

少しくすぐったそうに笑いながらお礼を言って、部屋に再度ロックを掛け直した。
部屋はほとんど物が置かれていない無機質なままだ。
必要最低限の荷物しか持ってきていないらしい。

テーブルの上に両手の手袋とゴーグルを置き、ベッド脇に持ってきたコートハンガーにコートをかけながら口を開く。

「悪い、何も用意してなくて。シャトにコーンポタージュ^drinkあたり頼もうか？」

お返しを嬉しそうに受け取って。
離れていった貴方をまっすぐに見つめる。

「えぇ、僕は忘れない。
貴方が逃げずにその優しさを持ち続けていたことを」

「……さて、大分長居してしまいましたし、僕はこれで」

また遊びにきます、そう伝えて。なにもなければこのまま立ち去るだろう。

『大丈夫、何も聞いていませんよ』

穏やかに通信を返して。
お役目をきちんとしているのだな、と微笑ましくなっているのは内緒だ。

無機質な部屋は然程気にはしていない。
けれど、貴方が気を許してくれているのだと分かるから。装備を外していく様子を嬉しそうに眺めている。

「いえ…、お気遣いなく。貴方がいてくれるなら、僕はそれだけでいいから」