「・・・・・・。」

沈黙！
笑顔は変わらなかったが、「君すごいね……」って顔に書いてある。
行動力カンストボーイによる磁気嵐エンカウント事件が起きそうな未来は覚悟決めながら震えて待つとして。

その後の回答を全て聞いた使用人は、小さく息を吐きだした。

「……カストル殿にとっては、どれもがまだ道半ば。これから分かるからこれからに期待！という感じなんだね。
…………分かった。じゃあ、当面の間は『ゲームを捨てて俺を吊ってくれればいい』なんて言わないことにする。ゲームを通してみんなが何か分かるというのなら。俺はそれを手伝うよ」

でもね。
小さく付け加える。

「途中で潰れる人が出てしまったとしたら。ただひたすらに傷つくだけの人がいたとしたら。
俺はやっぱりこんなゲーム良くないって……そう思ってしまうだろうね」

そう言葉を締め括るだろう。

「サルガス〜……」
端末越しではなく、直接。
あなたを探してやってくる。

「今いい？占いの……」

「……ん。ああ、構わない。
　どうだった？」

其方の方を見て、聞く姿勢。

昨日より緊張する。隠すことなんかできていないから、あなたの目にもそれはわかるだろう。

「昨日は……キファが、」

「人、だった」

「だから、……いや、占いの理由話すときに言ったほうがいっか。
……もうみんな結果教えてくれた？」
もしかしたら自分が最後だったかな、と思いながら。

「……了解した。理由は後程議論の場で説明して貰えれば、其れで構わない。
　他の報告状況に付いては……余り此方から言うのは良くないのでは、と判断している。
　ただ、そうだな。急かす様な真似をしてしまい申し訳ない。」

貴方の緊張の色を含んだ様子に、出来るだけ穏やかになる様努めつつ。

「あっ、そうだよなぁ〜……ごめん聞いちゃって！もう発表なのかなぁとかさ……思っただけ、だから！
謝んないで……」

更に何か口を開きかけて、閉じ。結局何も言うことはなく。
「……じゃあ、またあとでね！」
ばいば〜い、と手を振り去った。

「……。
　ああ、また後で」

疲弊しているのは目に見えて分かった。
けれど此方も何を言えばいいのか分からず、そのまま去っていく背を見送る。

「バーナード！あさ……」
部屋の前まで行って、ボン、ボン、と低めの音を鳴らし。
なにか弾こうかな、と思ったところで、気づいた。

「……バーナード？」
応答は、あるだろうか。

あなたがドアの前まで来るならば、中から嗚咽が聞こえてくるのが分かるだろう。
ギタロンの音色とあなたの声を聞いて、一度息が潜められ。

「……カストル……？」

と泣き濡れた声が投げかけられる。ドアロックは解除されているので、入ろうと思えば入れる。

「そ……そうだよ！オレだよ……入るね！」
言うが早いか、ドアを開けて部屋の中に入る。
あなたの姿を見つければ、すぐに近くに行く。

「バーナード……」
大丈夫？とは聞かなかった。ただ、心配だけを声色に乗せて。

ベッドの上に座り込み布団に包まったバーナードがあなたを出迎えた。
顔はほぼ布団に埋もれているが、赤くなった目はじっとあなたを捉えている。

「……ちゃんと、起きてるよ。後で飯も食いに行く、から、大丈夫」

普段ならそんなに心配してくれたの？なんて茶化すところではあるのだが。そこまでの言葉は出ず、ありがとうを小さく伝えるのみだ。

カストルにとって、どうしたの、も、どうして、もあまり重要なことではなかった。

「いいよ……起きなくても。ご飯なんかちょっと食べなくてもさ」
今悲しいとか、苦しいとか、あなたがそういうことを感じていることが問題だった。
ギタロンを置いてベッドの上に上がる。

「今日はオレがお兄ちゃんやったげる」
あなたの顔を隠すように抱きしめて、頭を撫でる。あなたがいつか言っていた『甘やかす』だ。

あなたの行動に抵抗も拒絶も示さずされるがまま。癖のある栗色の髪がふるふると震える。

「一回りも違うお子様が何言ってんだ……、……ああでも……お前本っ当かっこいいなぁ……。かっこよさに免じて、今日は俺が弟、やってやるよ」

ぐす、と鼻を鳴らす。布団越しにあなたの服の裾を強く掴み、再度嗚咽が漏れ始める。
あなたの服を濡らしてしまうかもしれないがそこまで意識も回らず、ただ声をあげて泣いて。

「ゔ、ううう……ッ、苦しい、つらい……！アイツ、死ぬの嫌って、嫌って言ってたのに……！」

「うん……うん、ありがとう」
相槌を打ちながら、髪に指を通し、布団に埋もれた背中を軽く叩く。
これで合ってるかな、本当の弟にはこんなことしたことはなかった。『アイツ』はシェルタンのことだろうか。今朝報せが来ていたラサルハグだろうか。もしかしたら、見たのかもしれない。そんなことを考えている。

「うん……嫌だよね」
頷きながら、同じ言葉を返して……それで、ちょっとだけ泣きそうだった。
……バーナードが苦しんでいるのが、わかる。相槌以外のことを話したら、今は謝ってしまいそうだった。

バーナードにきょうだいと呼べる人間はいない。だからこれが兄から弟にする行為である確証はないけれど、痛みを和らげる行為だとは知っていて、実際に今痛みがほんの少しだけ和らぐのを感じている。

「誰だってしたくないし、されたくないじゃん、こんなの……シェルタンも、怖いですよって笑ってたよ。怖かったろうなって、思うよ。……アイツも、ラサルハグも！死ぬのが怖くて、嫌で、碌に寝れてなくて……怖かったろうなって、」

シェルタンのことも、ラサルハグのことも痛いのだ。ラサルハグに至っては懇ろにしていたから更に痛い。
泣きながら呟く言葉には嫌だのクソゲーだの苦しいだのやめたいだのクソゲーだのと言ったワードが挟まれつつ、暫く泣いて落ち着いて来たのならばおずおずと服の裾を引っ張り。

「……その。なんだ、……ありがとう」

これはシェルタンが皆様へと起床の挨拶を送る前。
そして、今宵の処刑までの何れかの時空のお話にございます。
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シェルタンはカストル様が心配でした。
ですから探しておりました。

鈴を返す という建前に心配という本音を隠して。
探しておりました。カストル様を。

あなたが落ち着いてから、仕上げとばかりにぼんぽんと頭を叩く。

「どういたしまして〜……あのさ、二人帰ってきたらまた昼寝とかできたらいいかも。ね！」
できるだけ楽しいときのことを思ってほしいからそんなことを言い。
こちらの顔を見られないうちに袖で目をこすった。

「あと……、え〜と、……また必要だったら、言って！」
ヒョイ、とベッドから降り、背中を向けてギタロンを拾った。

カストルを見つけるのは、そんなに難しいことではない。
彼の手遊び程度に鳴らす音がいい目印になるだろう。

カストルは白紙の楽譜を前に、曲でもなんでもない音をただ鳴らしている。

「はは、そうだな。昨日みたいに皆で昼寝してさ、……昼寝と言えばお前ギタロンで睡眠BGMは面白すぎだよなんだアレ」

眠りに落ちる前に聞こえていた低音は心地よかったけれど、それはそれとして面白かったのでそう笑う。先程よりも幾分か元気になった様子だ。
あなたがベッドから降りるのならその背を視線で追って。

「おう、どうせこのゲーム中はビービー泣くだろうからな。……あ、でもその言葉はそっくりそのままお前にも返すよ。必要なら言え、情けない大人がお届けされてやるからさ」

「バーナードだって歌ってたじゃん！ノリノリでさ〜〜！」
ベベベボン。子守唄の出だしだけを演奏しながら振り返る。

「じゃあ泣き虫バーナードって噂が広がってもオレのせいってことにはなんないんだな〜よかった〜安心して言いふらせる！」
あ！悪い！

「あとね、そんなこと言うと毎日呼んじゃうからね！ほんとに！
オレは自慢じゃないけどこまったときはすぐこまったって口に出しちゃうんだ〜……」