［　ぼーっと眺めていた。
　　この波の音をこの村に帰ってきたことをまず実感する。

　　カモメが鳴いて
　　波が慰めて



　　海に浮かぶ鳥居が
　　どことなく明るく見えるのは
　　きっと祭りが近いから、なのだろうな。

　　

　　全然会えてないのは
　　俺の意気地がないだけなんだけど

　　


［　いい歳した大人が海で黄昏れている。
　　十代の子供かよ……。なんて自笑してしまう。　］


　　あんぱん食べよ





　　それでも勇気100倍にはなりたいもので。
　　お腹も減ったし。　］

　

　

［　波に持っていかれそうになる意識を
　　呼び戻したのは
　　俺のスマホ。

　　振動するソレは断続的に続き
　　それが一度ではないことを伝える。

　　急ぎの用事か？
　　なんて苦い顔をしてスマホを見れば



　

　　　は？
　　悪戯じゃないよな……
　　じゃない。


［　送り主の名前を何度見たことだろう。
　　メッセージが届いただけで
　　近くにいるなんてことは……ないのに

　　周りを見回して



　　　　　　　駆け出していたんだ

　　　　　　　　　スマホを強く握りしめて。　］


　　　

　　


　　親友を手放したのは俺だから



　　君はそれを今引き上げようとしてくれている。　］

［　砂で上手く走れないのは
　　都会の歩きやすい道路に慣れすぎたせい。

　　見つけたのは君の後ろ姿>>18
　　だったかもしれない。
　　俺が見た過ぎて幻を作り上げたかもしれない。
　　ただ、手を伸ばして
　　遠くから、遠くからでも
　　その名を叫ぶよ。　］



　　




　

　　諦めるかよ


［　砂を蹴って


　　でも、車はもうその場所にはなかった>>18　］



［　肩で息を整えて
　　道路のその先を見て
　　俺にはこれが終わりではなく
　　始まりの予感がした。

　　息を乱したまま
　　握っていたスマホへと返事を打ち始める。　］

　

　

　

［　我ながら突然過ぎたかと
　　送ってから反省して。　］





　　　　　　

［　送信。して
　　しばらくその画面を見続けたあと。



　


　　飲んで羞恥を忘れようとする狡い大人です。

　
　

　　　　

　

　

　

　　よいくん、か……


［　呼ばなくなったのはいつだっけ。
　　小学生までは呼んでて……
　　一緒に手を繋いで幼稚園まで通ってた。

　　小学生、中学生
　　宵稚は俺についてきてくれた。
　　俺はそれが嬉しくて君にとって
　　頼りになれる人間になろうと思ったんだ。　］

　　うん、俺もよいくんと一緒がいいと
　　思ってたんだ
　　二人で一緒に決めよう？

　　まず最初に俺がやりたいのを
　　ピックアップするから……
　　

［　水泳、テニス、バスケ。


　　調子のいいことばかり言って決めた部活は
　　中学までは一緒に続けられたはず。

　　いつも一緒だから、それが当たり前で


　　自我が弱いなんて思ってないよ>>20
　　それが宵稚なんだなって。
　　俺は丸ごと君を受け入れたよ。
　　だからその度に一緒に決めよう？ と提案して。　］

　

　　一人なら怖くても
　　二人で決めれば、俺が一緒だろ？
　　何かあったら俺がなんとかしてやる！


［　なんて胸を叩いて自信有り気に粋がってた頃。
　　君にはどう見えてたかな。
　　俺は楽しかったよ。ずっと一緒で。


　

　　いいじゃん！
　　俺も入ろうかな
　　べ、べつに宵稚と一緒にいたいとか
　　そんなんじゃないからな

　　俺も音楽好きだから、

　　といっても同好会か……
　　演奏とかしたいよな
　　人数集めるか？
　



［　音楽が好きなのは本当。
　　でも宵稚が興味を持たなければ>>21
　　入ろうとは思わなかったんだ。



　

［　アコースティックギターと宵稚の
　　運命的な出会い>>21
　　彼がギターを選ぶのなら
　　支えられるベースにしようと思った。

　　だって小中と俺の言うことを聞いてもらったんだ。
　　高校は俺が応援するよ。
　　二人だけでもなんとか形になるだろ？

　　コードや譜面の読み方
　　一緒に悩んで、自分達なりにあれこれ試して。
　　最初は音が変だったな。
　　段々音が出て
　　のめり込んでいく君を見守りながら