08:44:31

人狼物語 三日月国


124 【身内P村】二十四節気の灯守り【R15RP村】

情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:

全て表示


到着:灯守り 芒種

【人】 灯守り 芒種

  ここは、いつでも水の匂いに満ちている。

  いっそ溺れてしまえたのならば、楽になれるのだろうか

  そんな、くだらない夢を、
           ずっと、ずっと見続けている。
(202) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:09:46

【人】 灯守り 芒種

 ​── 領域内 ──


[ 風を伴わず静かに真っ直ぐ落ちる細かな水垂れの音は
 しとしとと鬱陶しく耳鳴りのように頭の奥に張り付いて
 すり硝子で覆ったみたいな半透明の景色は
 こころのうちを何時だって薄灰色に染めてゆく。

 本当に、気が滅入る。
 こんな場所を欲しがるなんてどうかしていると
 子供の頃からずっと、今でも思っている。

  本当に、どうかしている。
 彼らも、そして、わたし自身も。 ]


( でも、そうね。これしかないのだものね )


[ 哀れに思う。
 すべて投げ出してしまえばいいのに。
 それができずに囚われている
  彼らと、そして自分を。 ]
(203) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:10:53

【人】 灯守り 芒種

[ 前略、あほみたいな希死念慮が有る。
  正直、あっても仕方ないなと冷静に思うし
  なくなるのは気が狂った時だと思うので
  いまのところ特別、医者には罹っていない。

  環境を変えろと言われて終わる話だ。
  それができないのならば、
  抱え続けるしかないのだと思う。おそらく。 ]


 ……あら、いいかおりね。
 これ、この間あの子が送ってくれた茶葉かしら?


[ 雨音と同じくらいに麻痺するほどに聞かされてきた
 偉ぶりたいだけの年寄りたちの中身のない説教を
  聞き流して、ひとこと、そう呟けば
 途端、雷鳴のように劈いたのは、癇癪を起こした怒鳴り声。

 思い通りにならないと、大きな声で脅かして脅すだなんて
  まるで赤子のようだと微笑ましさすら覚えた。

  この環境で心安らかに在れるほどの
  図太さや鈍感さと同義のおおらかさの持ち合わせはなく
  けれど持ち前の無駄すぎる反骨精神を捨てることもできない。

  生き辛くて当然だ。
  ここで生きる適性を、わたしは持ち合わせていない。 ]
(204) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:12:53

【人】 灯守り 芒種

[ 目上の、そして男であるだけで、
  女よりも強く偉いのだという漠然とした思い込みを常識と強い
  許しもなしに押しかけてきて、散々ひとをこき下ろしたうえで
  望んでもいない教えを解こうとする慇懃無礼な年寄りに
  ゆったりと、皮膚一枚で微笑んで返す。
  そう、事実偉くも強くもないわたしの武器はこれしかない。

 ならばいっそ抗うことをやめてしまえば
  甘えて懐いたふりをして、
 ただ命じられて断れなかっただけの飾りとして
  適度に頼って自尊心を満たしてやれば
  きっともっと平穏に過ごせるのだとは思う。けれど。 ]


 いいえ、『大伯父様』。
 勿論聞いておりませんわ。


[ 媚びるなんて、向いていないのだ、生憎と。
  それこそ今以上の心労で、禿げ上がるかもしれない。何かが。

  目の前の禿げ上がった頭が急激に近づいて
 生意気な『小娘』と罵り掴みかかろうとした。
 喉元に伸びてきた嗄れた手はほかの二人が押さえ込んで止め、
 横に控えていたわたしの猫が庇うように間に入る。 ]
(205) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:14:18

【人】 灯守り 芒種


 あらあら、たいへん。
  そんなにお顔を真っ赤になさって。
  血圧のお薬、今日は忘れずきちんとお飲みになった?


[ 彼が喚き呼んだ通りの生意気な女の顔で嫌味ったらしく
  白々しく場違いな案ずる振りをしてみせる。
  強くも偉くもない何も持たない弱者であるがゆえに
  虚勢を張らずにいられない自分の滑稽さに吐き気がする。

  ああ、うんざりする。
  きっと、誰かが死ぬまで変わらない
 退屈な、いつもの光景。 ]
(206) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:15:04

【人】 灯守り 芒種

[ 暇さえあれば教育と称しご高説を垂れたがる年寄りは三人。
  先代の頃からのそれぞれの蛍を務めるご老体だ。

  彼らがわたしを灯守りと認めないように
  わたしが彼らを蛍名で呼ぶことはない。
  出て行く気がないから追い出さないだけで
  必要なわけでもなければ無礼に礼を返す可愛げもない。

  血族に拘り続け途絶えぬように枝を広げた芒種の家系には
  蛍の代わりなんて余る程にいくらでもいるのだから
  挿げ替えられた頭が気に入らぬのなら
  さっさと他に押し付けて辞めてしまえばいいものを……

  ああ、それでも。
  このために生まれこのために生きて
  このために学びこのために尽くし
  このためだけに過ごしてきた時間が長すぎて
  もう身動きも取れないんだろう。

  なんとも気の毒なことだ。同情はする。 ]
(207) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:17:17

【人】 灯守り 芒種

[ 先代は大叔父、現在賑やかに激昂している老人の兄だった。
  次は自分だと信じて疑わずにいた席を、
  ある日『小娘』にかっ攫われては
  血圧くらい爆上がりもするだろう。

  それはとうぜんだ。それはわかる。 ]


( けれど、仕方がないじゃない。 )
( 向いていなかったのだから。 )


[ 何を以て、向き・不向き、を定めるかは
  生憎とわたしにはこれっぽっちもわからない。

  代々受け継ぐ役目を御大層な何かと思い込みたいがために
  特別な素質が必要だとか一族総出で夢を見ているだけで
  受け継がれる能力さえあれば、素質も、血筋も問わず
  子供にだって出来る役目と個人的には思っている。

  あえて大伯父が『不向き』だったことを挙げるのなら
  先代に選ばれることが上手くなかったのだろうと思う。
  本当に気の毒だけれど、本当にそれだけの話だと思う。 ]
(208) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:20:49

【人】 灯守り 芒種

[ あとのふたりは従伯父と族伯祖父だったか。
  覚える気もなければまるで覚えきれず、年齢順に、
  『おおおじさま』『おじさま』『ちいおじさま』と
  勝手に呼んでいるが今のところ特別支障もない。
  どうせなんと呼んでも気に入らないのだし。

 『おじさま』と『ちいおじさま』は
  今までは、次を継ぐ大伯父のその次をと意気込み
  大伯父の腰巾着をつとめてきたが
  大伯父よりはまだ若く、まだ年齢的に時間もある。

  大伯父の脱落を待った上次を狙える可能性もまだある。

  ゆえにそのまま大伯父につくか、わたしにつくか
  不惑もとおに過ぎただろうに、惑いに惑い続けている。
  難儀なことだ。 ]
(209) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:24:07

【人】 灯守り 芒種

[ 先代はわたしに最初に教えた。
  芒種の蛍は、次の芒種候補ではないのだと。
  横に並べて競わせれば、どれかが秀でた瞬間に
  残りが足を引っ張るのは目に見えていた。
  競い合い潰されぬのならそれでもいいが
  わたしが次の芒種の候補に挙がったのは
  まだ数えで齢7つを迎えた年だった。

  故に次の芒種と育てる弟子のわたしを、
  ほかの蛍と競い潰し合う、蛍にする気はないのだと。

  傍系から偏ることなく、対等に機会があるかのように
  次の候補ではないと告げず蛍を取ることで黙らせてきた。

  彼らはそれを知らずに仕え使われ続け
  それを知らぬまま居座り続けている。

  長く役目を勤めてきた彼らは
  わたしより余程仕事ができたので
  代わりはいても引継ぎが億劫で、
  黙ったまま、居座る限りはと使い続けている。 ]
(210) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:28:19

【人】 灯守り 芒種



  ……ところで。おじさまがた。
  わたし、いい加減出掛ける支度をしなくてはいけないの。
  だから、 そろそろお引き取り頂ける?

  ああ、『小娘』の着替えを傍で見たいというのなら
  べつにいいのよ、そのまま居てくださっても。


[ 老人が居座るせいで蛍にもなれぬ増えすぎた枝のあいだでは
  先代から変わらず蛍を務め続けることになった三人は
  色狂いの小娘にからだで飼い慣らされているとか
  よくない噂されているそうな。
  故にお互い見ても見られても心底どうでもよかろうとも
  こう言えば追い払えることはわかりきっているのに。

  かわいいわたしの猫が 決して赦さないと
  鋭い目つきで威嚇をして、哀れな年寄りたちを追い払う。
  先ほど掴み掛ろうとしたのが腹に据え兼ねているのだろうと
  止めもせずに好きにさせておいた。

  拾った時は仔猫だったのに、
  いまではすっかり番犬のようになってしまった。
  猫のままのほうが、ずっと愛らしかったのに。 ]
(211) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:30:16

【人】 灯守り 芒種

[ 少年を引き取ったのは数年前の話だ。
  両親を同時にわたしが送った。
  身寄りがないわけではなかったが、領地も違い、
  疎遠で、何処からも歓迎されてはいなかった。

  居場所を選べず歓迎もされない
  自分に重ね感傷に浸ったわけではない。
  冗談のつもりで尋ねたら、頷かれてしまって、
  結果としてこうなっただけだ。

 「犬猫の仔でもあるまいに気安く拾ってくるな」と
  一緒に住むわけでもない老人どもに怒鳴られて
 「犬か猫の仔ならいいんですって」と声をかけたら
 「じゃあそれでいい」と心底どうでもよさそうに答えたのが
  なんだか気に入って、他の引き取り先を探すことなく
  そのままずっと、傍に置いている。

  存外美しく育ったせいか、
  或いは猫だなんて呼んで愛でるせいか
  若い燕だなんだと言われているらしい。
  下世話な噂は割と好みなので好きに言わせている。
  低俗であるほど愚かしくて面白いのだと笑う飼い主に
  大きく育った飼い猫は、心底呆れた顔をする。

  ここに居座るわたしに伸ばされるものはどれも
  じめじめと暑苦しく、うんざりするほど陰険で。
  振り払っても鬱陶しく絡み付いてくる息苦しさの中
  いつまでも適度な距離を保ったままの
  ひどく冷めたその視線だけが心地がよかった。 ]
(212) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:35:07

【人】 灯守り 芒種

[ 追い払っておきながら急ぎもせずに
  温くなったお茶でのんびりと、一息つく。
  時間の管理がまるでできない飼い主を手伝うのは
  いつだってよくできた賢い猫の役目で
  今もてきぱきと着替えと手荷物の支度をしている。

  どちらが飼い主かわかりやしないし
  いっそ世話を通り越して介護のようだ。

  そこまでさせる程の恩を売ったつもりはない。
  気が向いた時だけ気まぐれに、少し可愛がっただけだ。
  気が済んだら、好きな時に出て行って構わないのに
  大層な高利子で返してくれるつもりのようだと
  気付きながらも拒みもしなかった。

  ひどい詐欺だと思う。この子に対しても、彼らに対しても。
  でももうどこから正せばいいかわからなくて、
  楽をしている今を抜け出し身を削ってまでてまで
  なにもかもに誠実であろうと変わることなど
  到底出来はしなかった。 ]
(213) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:37:51

【人】 灯守り 芒種


  会場で、逢ったらお礼を言わなきゃね。
  困ったわ、覚えていられるかしら……


[ 思い出させるために出した茶を前に既に忘れる心配を
  心にもない声色で呑気に奏でる主を、
  頭を抱えた胡乱な目の猫が睨む。

  かわいそう、本当に。
  わたしなんかに拾われて。

  哀れで、憐れで、かわいらしいわたしの仔猫。

  手を放して幸せにしてあげるには
  今がわたしにとって心地良すぎたし
  自分よりこの子を優先してあげられるほどの
  愛や正しさは持ち合わせていなかった。  ]
(214) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:38:20

【人】 灯守り 芒種

[ いい加減着替えて支度をしろと急かす猫を
  手を伸ばして、そっと撫でる。
  毛並みをもたない肌に、冷え切った指で
  無遠慮に触れても、喜びもしないが拒みもしない。 ]


  ね、脱がせて。


[ 結んで貰った帯が自力では解けないだけだ。
  着替えを手伝って欲しいと伝えるだけの言葉に
  わざとらしい艶を溶かして、ほしいものを強請る。

  うんざりと潜める眉、眉間に深く刻まれる皺が愛らしくて
  与えられる心地よい無関心を安心して貪った。

  これから目眩がするほど真っ直ぐすぎる不可解な好意と
  胸焼けするくらいの愛情を呑み干さなければいけないから
  いまだけは、もうすこし、このままで。 *]
(215) yahiro 2022/01/17(Mon) 4:41:45

【人】 灯守り 芒種

 ​── 会場手前 ──


[ >>112元気いっぱい賑やかな事故現場を
  >>194眺める視線よりさらに数歩外側で足を止める。

  賑やかすぎて気後れしたのもあるし
  今駆けつければ気遣わねばならないのが億劫でもあったし
  それより、なにより…… ]


 
( ……くっそしんど。 )



[ 機嫌も芳しくない猫を撫で回したのがいけなかったか。
  コルセットもかくやというくらいに
  きつく締め上げられた帯のせいで息が苦しい。いっそ殺せ。
  お陰で捻り潰された蛙のような酷い悲鳴も散々吐き出したし
  今だって若干愉快な顔色をしている気がする。

  しかし元より薔薇色には程遠い名前負けの陰気な面だ
  気がするだけで案外、普段と大差ないかも知れない。

  ふわふわと辺りを漂う人魂めいたシャボン玉の中の
  虹色の薄い膜の向こうには、菖蒲色の炎がゆらめいて 
  青白い明かりの影になる顔はどうしたって常に昏い。 ]
(269) yahiro 2022/01/17(Mon) 15:48:32

【人】 灯守り 芒種

[ 恐らく。おそらくは。
  嫌なら体調不良を口実に退席しろということなんだろう。
  敏い子だ。
  全力全身で来たくなかったのはきっと筒抜けだろう。

  けれどなにもいわれていないのだから
  気付かないふりをしておくとする。
  嫌でなくとも意識混濁で強制退去できそうなので
  気遣いでもなんでもないかもしれないし。

  あのこから与えられるものを都合よく解釈してしまうのが
 
……​───期待して、落胆する自分に気付くのが

  耐え難くて、そっと思考の隅へと追いやった。 ]
(270) yahiro 2022/01/17(Mon) 15:50:08

【人】 灯守り 芒種

[ どこの誰にも快適であるはずの会場から流れる空気は
  わたしには少しだけ肌寒くて、乾いて感じてしまって
  あの馴染んだ纏わり付く不愉快さこそが自分にお似合いだと
  誰にともなく言われているような心地がして、肩身が狭い。

  嘲笑を含まず弾む笑う音がそよ風みたいに耳を擽る
  和やかで明るい話し声がそこかしこに花開いていて
  『この場所に』或いは『この場所にわたしが居ることに』
  違和感しか、覚えられなくて。

  言葉の通じない異国にでも放り出された気分だ。
  まだあの子の顔も見ていないのに一足先に眩暈がしてきた。

  きっとここに無理なく自然と溶け込む
  誰からも愛される愛らしいあの子。
  できれば逢いたくないと思う。
  けれど見つかってしまえば駆け寄ってきてしまうのだろう。

  嫌いなわけでも疎ましいわけでもない。
  可愛いと思う
( それ以外の適当な形容がみあたらないから )

  愛おしく思う
( そう思っていなければ罪悪感を抱くほどに )


 それでも、 憂鬱で、しかたがない。
  『あの子に慕われる姉』でいることが
  死ぬほど似合わない自分を、
  これ以上嫌いになるのが、億劫で…… ]
(271) yahiro 2022/01/17(Mon) 15:52:10

【人】 灯守り 芒種

[ ……
うん。鬱だな
。医者でなくともわかる。
  原因は多いにある。患うになんら不足なく。
  故になんの不思議も不安もない。自然なことだ。

  放っておけばどこまでも沈みそうな気分を適当に切り上げて
  いやだわ、更年期かしらね。なんて
  自嘲を含んだため息を零そうとして
  吐く息が足りない物理的な息苦しさを思い出した。

  もう、ほんとうにむり。
  うえかしたからないぞうがでそう。
  いっそだしてらくになりたい。
  車輪に潰された蛙みたいに、ひといきに。

  都合のいい言い訳を手にして漸く
  踏み入れる気になった会場へと
  足を踏み入れてすぐ、迷いもなく
  一直線に逃げ出した。

  出迎えになんと挨拶したかも朦朧としているけれど
  中にいればあんなに針の筵でも、一歩外に出れば
  誰からも愛され認められ支えられている風になっている位
  揃いも揃って外面がよく、呼吸するように嘘を吐く
  そんな面の皮が厚い一族の、これでもいちおう末端だ。
  だから今日も 形式通り普段通り、無意識だろうと
  挨拶くらい行儀よく振舞うこともできただろう。 ]
(272) yahiro 2022/01/17(Mon) 15:55:22

【人】 灯守り 芒種

[ ちゃんと顔を出して、挨拶もした。
  引き返してもいない。
  だから少しくらい手洗いに引き篭っても
  少しくらいは許されるはずだ。

  あの子が自慢できる姉としての振る舞いは
  少し休んで、それからがんばれたら頑張ろう。
  頑張れない時の言い訳の嘘はきっと
  呼吸するように自然に吐き出せる筈だ。

  今できないのは、わたしが悪いのではない。
  だって、帯が苦しいから悪いんだ。
  呼吸すらままならない。

  用意された乱暴な言い訳に、今は素直に甘えておいた。* ]
(273) yahiro 2022/01/17(Mon) 16:00:38
灯守り 芒種は、メモを貼った。
(a56) yahiro 2022/01/17(Mon) 16:35:12

灯守り 芒種は、メモを貼った。
(a57) yahiro 2022/01/17(Mon) 16:36:49

【人】 灯守り 芒種

​── 御手水 ──


[ 芒種になって最初の会合も、こうしていたな、と
  手洗い場の鏡の前、辛気臭い顔を眺めて思う。
  もっともあの時は実際に内臓が出そうな程
  ど派手に吐きまくっていたけれど。

  慣れぬ酒の加減を誤り気分を悪くした不出来な娘と
  若さ故の失敗を寛容に受け止め甲斐甲斐しく支える蛍
  なんて老いぼれどもが思い描いた構図は
  微塵もアルコールを受け付けなかったわたしの体質によって
  なかなか愉快な大惨事になったのは
  黒歴史でもあり、気に入りの笑い話でもある。

  今以上にただのお飾りとして、黙ってにこにこしていろと
  命じられるまま、逆らうこともせず、息を殺して過ごした。
  次々と知らない相手に挨拶をされ
  普段知る顔とは打って変わって愛想よく話す年寄りの後ろで
  文字通り、『黙ってにこにこ』し続けていれば
 『大人しい子』で『緊張して』いて言葉が出ないのだと
 『温かく見守ってやって欲しい』なんて
  年寄りどもが庇うふりをして代わりに挨拶をし
  勝手に会話に花を咲かせていた。 ]
(406) yahiro 2022/01/18(Tue) 5:19:50

【人】 灯守り 芒種

( わたし、いなくていいじゃない )


[ ここにも必要ないのだと再確認したようで
  何もかもがばかばかしくなったわたしは
  便器に顔を突っ込んで胃の中身をひっくり返しながら
  酔っていかれた情緒でげらげら笑い転げて、
  おしとやかな箱入り娘という
  爺の求める飾りとしての役目を早々にぶち壊した。

  面汚しめと罵られ、恥をかかされたと激昂した面々に
  なるほどそれが嫌がらせになるのかと学んだ結果……
  ひとりで出歩けるようになった今がある。
  来たかったわけではないが、来たくはなかった訳だが
  爺の飾りにされるよりは幾分ましだと思っている。 ]
(407) yahiro 2022/01/18(Tue) 5:20:16

【人】 灯守り 芒種

​── 回想 ──


[ 先々代が最も芒種に相応しいと定めたのは
  芒種を継いだ大叔父ではなく
  無論蛍止まりの大伯父でもなく
  傍系の早乙女に嫁いだ祖母だったそうだ。

  それでも女に継がせる事はできないと
  先々代は二番目の大叔父を選んだ。
  灯守りに男も女も関係ないが
  そういう考え方の人だったらしい。

  一番になれなかった先代は後継を
  一番であった祖母の血筋に拘った。
  祖母の息子に生まれた父をたいそう欲しがり
  けれど、灯守りの役目も、芒種を継ぐ血筋も
  なにもかもを放棄したかった父は、身代わりを作った。

  先代が、血筋だけは満足する女との間に、わたしを。
  母が誰なのかはわたしもしらない。
  聞けば知る機会もあったかもしれないが
  聞かなければ未だに知らぬままなのだから
  もし生きていたとしても、きっと
  父と同じ思いで何もかもを投げ出し
  外に嫁いだ誰かなのだろうと思い、探していない。 ]
(408) yahiro 2022/01/18(Tue) 5:42:41

【人】 灯守り 芒種

[ 父にとってのわたしは自分が好きに生きるための生贄で
  先代にとっては男に生まれなかったことが気に入らないが
  渋々納得している父の代替え品で
  3番目にもなれなかった大伯父やその他
 『芒種』になりたい雑多の枝にとっては
  先代が引き取り育てる、先代に気に入られた
  扱いの面倒な目障りな娘で。

  幼い日、自分を取り巻く環境が
  なかなかにクソだな、と気付いたとき
  一度はわたしも全てを投げ出そうとした。

  父のように身代わりを用意もせず
  従順なふりをして、先代には継ぐ気があるふりをして
  先代がわたしに少しでも期待し始めた頃に
  突然、姿を消してやろう、と。

  聞けば父は血筋に関わらぬ惚れた女を娶ったそうだ。
  そんな父のように自由になりたかった……わけではない。

  やりたいことなんて思い浮かびもしなかったし
  それでも漠然と窮屈なここから逃げ出したかったし
  あとは、ただ、父が困ればいいと思った。
  欲しいものを見つけ、手に入れた父が
  何もないわたしには、羨ましかったから。 ]
(409) yahiro 2022/01/18(Tue) 5:45:15

【人】 灯守り 芒種


[ 逃げ出したところで生活していくあてもない。
  自由はなかったが不便もないくらいに箱入りに育てられた
  恵まれた小娘のわたしに一人で生きていけるだけの
  能力や知識などなにひとつ備わっておらず
  けれどその頃から漠然と、
  先代に送られることが業腹でかろうじて生きていただけで
  いつ死んでもいいと無気力に生きていたから、
  あとさきなんて、何も考えずに逃げ出した。
  散歩にでも行く気持ちで、ふらりと。

  いつもどおりに耳鳴りみたいな雨が降っている中
  傘もささず、履物も履かずに窓から逃げ出した。
  もう少しましな出掛け方もあっただろうけれど
  あの時は今より若く、『かわいそうな自分』に
  今以上に、そりゃもう心地よく酔いまくっていたから。 ]
(410) yahiro 2022/01/18(Tue) 5:46:27

【人】 灯守り 芒種

[ 鬱蒼と茂る森の中を好き勝手に散策して
  無駄に健康だが軟弱な体をしこたま濡らしたおかげで
  さほど寒くもない日に器用にも低体温で意識を混濁させ
  死なない程度に行き倒れていたはた迷惑な箱入り娘を
  拾った人の良すぎるもの好きは『素敵な旦那様』なのだと
  目覚めた時に傍にいたかわいらしい女性に聞いた。

  表情豊かに、ふわふわと、綻ぶ花のように微笑む顔も
  おっとりとした穏やかな話し声も
  スキンシップが過剰でやたらと抱き締めてくる体温も
  適度な距離を保つ世話係の愛想笑いしか知らぬわたしには
  奇妙で、とても気持ちが悪かった。

  しらないものは、怖くて、不快だ。
  まるで別な星の生き物みたいで、気味が悪かった。

  彼女は無知で恩人に無礼なわたしにも親切で優しく
  着替え方すらままならない事にもおおらかで、
  けれど甘やかすことなく、適度に雑に扱った。

  必ず失敗すると分かっていても尚
  手伝いにならない手伝いを任せられたりしたし
  信じられない声量で喚く爆発物みたいな赤子を
  ちょっと見ていてと渡されたときは正気を疑いもした。 ]
(411) yahiro 2022/01/18(Tue) 5:47:41

【人】 灯守り 芒種

[ 赤子の扱いなんて当然知らない見ず知らずのわたしに
  おぼつかないあぶなっかしい手つきで抱かれただけで
  さいしょから、ぴたりと泣き止んだ赤子もまた
  正気を疑う訳のわからなさで、気味が悪くて
  女性と赤子が正真正銘の母子であると実感できた。

  いろんな体液でぐちゃぐちゃな顔を、
  この領域では余り見ることが叶わぬ太陽みたいに
  きらきらと輝かせて眩く笑うその無邪気な笑顔は
  わたしの影を濃く際立たせるようで、恐怖を覚えた。

  どうせ花の名前なら、向日葵にしたらよかったのに。
  柔らかな亜麻色の髪をもつ、茉莉と名付けられた女の子は
  涎だらけの小さな手をよくわたしに差し伸べてきて
  汚いなと、思いながらも、
  その熱く湿った手に強く掴まれる気持ち悪さが、
  なぜだか不思議と、そんなに嫌じゃなかった。

  ……ものを知らないわたしは、わたしの正体を確かめもせず
  親切心だけで世話を焼く女性を都合がいいと思いこそすれ
  不自然と疑うこともしなかった。 ]
(412) yahiro 2022/01/18(Tue) 5:53:50

【人】 灯守り 芒種

[ 怖くて不快で気味が悪かった女性の優しさが
  わたしにとって心地よいものだと理解できるまで
  女性にとっての『素敵な旦那様』は……

  ……父は、わたしの前に、顔を出さなかったし
  父が話をつけたお陰で
  誰に探され連れ戻されることもなかった。

  逃がさず、殺さず、保護しておいて
  匿うていで恩を売って
  愛情に飢えたわたしが容易く彼女たち母娘に懐柔されて
  逆恨みをして危害を加えぬくらいに懐くまで。

  賢いなぁと他人事みたいに思った。
  クソ野郎なのはもとから知っていたし。

  事実を知らなかった妻と、夫の間で
  何やらひと悶着はあったようだが、それでも
 『娘の姉』としてわたしを容易く受け入れようとした
  やさしく、おおらかで、おっとりしているようで
  なぜだか不思議と芯の強い彼女は
  やっぱりわけがわからなくて、
  怖くて、こわくて、気持ちが悪かったけれど

  慈しみを込めて柔らかく抱きしめてくれる
  暖かな腕の心地よさを知ってしまったわたしには
  もう一度、不快だと思うことは、もうできなかった。 ]
(413) yahiro 2022/01/18(Tue) 5:56:52

【人】 灯守り 芒種

[ ある種の生存本能みたいに、或いは何も考えてないみたいに
  わけもなく無条件に、不思議と母親以上にわたしに懐いた
  熱くて湿った重たいおかしな生き物は

  今も変わらず、一度だって変わることなく
  わたしがまるで太陽であるかのように、
  ひまわりみたいに真っ直ぐにわたしの後を追いかけてくる。

  もうものを知らない子供でもなければ
  生き方だって自分で選んで望み掴み取って
  立派な一人前の灯守りになってもなお。

  ほかの道も見つからず億劫になって成り行きで
 『芒種』という名だけを継いで
  怠惰にただの飾りで有り続ける
  誇れるものなど何もないわたしを、盲目に慕って。

  あの子が盲信する幻想みたいな『理想の姉』を
  いっそひといきに殺してしまえたら……
  そうしてあのこがわたしに幻滅してくれたら
  きっといまよりずっと楽に息ができるのに。

  取り繕うよりずっとずっと簡単であるはずの
  それが未だに、できずにいる。
  あの日、伸ばされるちいさなその手の
  心地よさを、知ってしまったせいで。* ]
(414) yahiro 2022/01/18(Tue) 6:00:43

【独】 灯守り 芒種

/*
Q.いい加減誰かに話しかけては如何ですか?

A.結構よ、間に合っているわ。
(意訳:誰が誰で誰と何処で何話してるかなんもわからん)
(-130) yahiro 2022/01/18(Tue) 6:49:41