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人狼物語 三日月国


167 【R18G】海辺のフチラータ【身内】

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視点:


【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

一般人みんなが呑気なのはいいことだよ。僕たちは何も圧政を敷きたいわけじゃない」

男は特別家族を愛したけれど、家族以外に排他的で冷徹なわけではなかった。そこらにいる人々ともよく話したし、君の勤め先のチョコラテリアでも従業員と親しんでいた。今だってすれ違う者がいれば声をかけていたんだろう。Notte d'oro!良い夜を!だとか言って。

「ふうん。静かなところだ」
「探してくれたの? いいんだよ、どんなに綺麗なところだって、君がいるだけで霞むんだし​────」

周囲を軽く見回し、吹きさらしの地面を確かめるようにその場で踏む。もう祭りの声も届かない。ここにあるのは二人の男と、肌を撫でる風だけだ。ぬるい風は優しくもないし、何かを攫ってもくれない。
今宵に限っては、それで。

君の顔を見た男は、やっぱり笑うのだ。なんて顔を、と言わなかったのは、そこに安堵を見て取ったからだろうか。

「優しいね、ドニ」
「いいとも。それなら長く、君の顔を見ていられそうだ」
(-15) 2022/08/25(Thu) 14:19:14

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

「そうだけど。あ〜あ、羨ましいこったな……」

こう言っている本人の普段の立ち振る舞いこそ呑気に見えそうなものだが。その実ずっと気を張っていることは、本人だって自覚していないかもしれなかった。
『やる気のある期待できる人間』だと思われたくない男は、いつもやる気のない振りをする。

改めて人気のない事を確認する。
夏の夜闇が重たく漂っているこの場所には、やはり、どうやら自分達しかいない。

「……お前は昔から冗談がうまいな。サヴィ」
「別に苦しませたい訳でもない。お前の綺麗な顔が歪むのを見るのもまた良いかもしれないが」

一歩、近づく。
すいと伸ばされた手が、貴方の首を指でつう、となぞる。

「そんな趣味も無い」

そのままもう片方の手で撫でるように首を包む。
貴方がいつかこの男にそうやって触れたように、優しく。
力は籠められないまま。

「……死ぬのは怖いか?」

きっと変わらない表情を浮かべているのだろう貴方に。
ふと聞いた。
(-24) 2022/08/25(Thu) 21:50:04

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

男はよく君を褒めた。
例えば仕事を終えた時。例えば一緒に飲む際の夜食を作った時。例えば店で依頼通りのチョコラータを見繕った時。男は必ずさすがだとかすごいだとか言って、それからありがとうと笑うのだ。
それだってある種の期待ではあったのだろう。のしかかる重い期待ではなく、信頼する人間を自然と信じる程度の期待。それを男は君にかけていた。

「冗談だなんて。信じてくれないの? 悲しいなあ」

軽く揶揄う言葉を吐く。本心だよ、なんて蛇足を付け足したりはしない。君がどう思おうと、自分がそう感じていることに変わりはないのだ。だから大抵の事は、それでよかった。
首を撫ぜれば、擽ったいのか喉が震えたのがわかる。実際男はそのまま、くすぐったいと小さく声にして笑った。君が触れやすいように顎をあげれば、やや見下すような目付きになってしまうのは仕方がないことだろう。

「どうだろう」
「考えたことなかったな……」

落ち着いた声は酷く能天気だ。

「君にこうされてるっていうのは不思議な気分だね。そう、今から死ぬのか」
「なんとなく自分はずっと死なないような気がしてたんだけど、そうもいかないみたいだ」
「家族に二度と会えないのは寂しいけれど……」
「君がどうしてもって言うなら、仕方ない」
(-34) 2022/08/26(Fri) 4:48:43

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

貴方が褒める度、アベラルドはそれを拒むことなく受け入れた。
誰が自分の事を評価してもそうだ。受け入れた。
その度に居心地が悪いような気がしたけれど、
それでも感謝をされるのは悪い気はしなかった。
期待があれば失望がある。失望が怖いわけではないが、
勝手にかけられた期待を裏切り勝手に失望されるのが非常に面倒臭かった。
思えばアベラルドは、貴方に失望されることを考えていなかった。
それもきっと貴方に対する信頼だったんだろう。そして、甘えの一つだ。

「そうかい。でも懲りないんだろ、お前」

軽くあしらえど貴方はまたそういう言葉をこちらに掛けるのだ。
……明日からは、こういう事ももう誰も聞けなくなる。

「……そうだよ。どうしてもだよ」
「死なない訳ないだろ。お前も、俺も、家族も、いつか死ぬ。遅かれ早かれいつか死ぬ。それが今ってだけだ」

旧知の友を手に掛けるとなれば怖気付きでもするのだろうかと思ったが、案外自分に迷いは無いらしい。
貴方の首をぐるりと包む手付きに震えはなかった。その上を走る動脈の位置を確かめるように、親指が皮膚を撫ぜた。
自分を見下ろすアメジストを見つめる。

「俺も不思議な気分だよ。……安心しろ。うまくやる。苦しいのは短くて済むようにさ。他の奴に殺されるよりきっとずっと楽だ」
「……ハハ。そうか。お前、死ぬんだな」
「俺も惜しいよ。ありがとう」

他人事のような言葉を皮切りに手に力を籠める。
壁に押し付けるようにぎゅう、と。
貴方の最期の体温を掌に感じながら。
(-63) 2022/08/27(Sat) 13:56:54

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

君の甘えを男は際限なく受け入れた。
君だけではなく誰の甘えもそうだった。それが家族に乞われるものであれば、求められるものであれば、欲しがられるものであれば、どこまでも与えた。注いだ。そこに微塵の躊躇も、遠慮もなかった。
​結局は早い者勝ちだった。


笑顔は肯定。いつだって男は笑顔を浮かべて、いつだって君の言葉に肯う。

君の言葉は正しい。
今だって失われる命がある。昨日だって誰かが死んだ。そもそもこの波乱は相手の頭が飛んだことから始まっているし、そうでなくても日々何がしかで人は死ぬ。それら喪われたものを悼む男の姿を見たことはあるだろうし、もしかしたら一緒に花を手向けに行ったこともあるのかもしれない。
だから、やっぱり。
男の言葉は甘い。まるで使い古された陳腐なフィクション、或いはぬるま湯で生きる市井の人々に通ずる無頓着さがあった。

「そうだね」

今、彼は君に命を明け渡す。無防備に無遠慮に差し出してしまう。
性別なりに喉仏の浮いた首元に指を這わせれば、橙の瞳と紫の瞳がかち合った。酷く殺風景で寂しい路地裏のこの空間で、互いの瞳に灯る夕暮れと夜の手前だけが鮮やかだった。
最期の交わりが途切れないように見据える。
男が少し唇を噛んだように見えたのは気の所為かもしれない。


そして。

「どういたしまして」を告げる猶予は果たしてあったのか。


首が絞まる。気道が潰される。空気の供給が絶たれる。息が、詰まった。
(-67) 2022/08/27(Sat) 15:28:19

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

欲した者から与えられるのであれば、今貰い受けようとしているこの手の中の命も早い者勝ちだったのだろうか。
いや、きっとそうだ。そうだと思っているからこそ、
自分は今ここでこうしている。許されるままに。

貴方の骸が遺れば悼む者はきっと多いのだろう。
自分だって貴方の墓標があれば毎日花の一つでも添えるだろう。花屋で買う花が一本増えていた事だろうし、
この話はこれからの未来で起こり得ぬことだ。


「サヴィ」

返事は出来ないだろうに、声を掛ける。

「お前、人は死んだらどこへ行くと思う。天国でも、地獄でも、あるだろ。もしかしたら、どこにも行かないのかもしれないけど」

声音は努めて冷静でいつも通りだった。込められる力ばかりが強くなる。貴方の瞳が閉じるその時を見逃さないように、一時も目を逸らさずに。

「俺、お前と一緒に地獄に行きたいよ。お前はもしかしたら天国へ行くかもしれないけどさ」

いつ貴方が自分の声を聴きとれなくなるのかもわからないのに、世間話のように続けるのだ。

「道の途中で待っててくれよ。サヴィ」
「お前と言葉を交わせなくなるのは少し惜しいんだ。お前と話すの、嫌いじゃなかった」
「嫌いじゃなかったんだよ」

それで、いつもみたいに笑うのだ。
貴方が事切れるその時まで。
(-68) 2022/08/27(Sat) 17:01:07

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

​────息が苦しい、


今更になってそんな当たり前のことを思う。
涼し気な顔をしていても、穏やかな物言いをしていても、男はただの人間だった。ロボットでもアンドロイドでもないのだ。息を絶たれれば苦しみを感じる。死に瀕すれば痛みを感じる。緩やかに弧を描いていた唇の形が歪んで、ぱくりと開くまでにそう時間はかからない。強ばった指が震えて衣服を掻いた。

酸素が回らない。

頭が割れそうに痛む。このままでは死んでしまうと訴える。顔が酷く熱いのに身体の内側はやけに冷えていた。足の感覚は既に消えてしまって、自分が今立っているのかも分からない。行き場のない諸々が身体の中で暴れ回るようで、酷く痛くて五月蝿くて、それでも君の声だけは呪詛のように聞こえてくる。いつもの癖で返事をしようとしても咳すら出ない。

​────ああ、


死ぬのだ、と。
不意にはっきりとわかったのは、ようやくその時だった。それで一瞬頭が晴れて、それから限界を迎えたように霧散していく。意識がゆっくりと溶けていく。意思の束がほつれていく。とろとろと思考がほどけていく。

ああ、くるしい。
あたまがいたい。


陽がもう落ちる。夜が来る。
暮れる瞳から生理的な涙が零れ落ちた。
消える直前の火は一際強く輝くという。


いきができない。
とてもくるしい。​────


閉じようとした双眸は最後にもう一度、一際大きく、大きく開かれた。

「​────   、」

(-69) 2022/08/27(Sat) 19:10:03

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

色を失った唇が微かにうごく。

Baciami,キスして、

Baciami, キスして、​────mio,僕の、



" Baciami, amore mio. " 
キスして、僕の愛しい人。



色を失った手が緩慢に伸びる。
男の手は真白の手。君の守った無垢だった。
(-70) 2022/08/27(Sat) 19:18:38

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

貴方の表情の変化を、苦しげな様子を、夜さりの頃のようなその穏やかな色から雫がころりと零れ落ちるのをじっと眺めていれば、そういえば人が死ぬ様子をこんなにゆっくり見た事は無かったな、なんて頭のどこかにぼんやりと浮かんだ。
人を殺すのにこうやって首を絞めるのも初めてだった。
普段であればこんな面倒な事、しないのだから。

ただ、貴方の命を仕事のように簡単に終わらせたくないと思った。
これは仕事でもなんでもない。
ただの私情で、甘えで、エゴだ。
どれも貴方以外にはあまり見せなかったものだ。
貴方の命を大切にしたくて、こんな事をしている。
これは矛盾だ。判っているとも。


命の灯が一つ消えて暗澹とした帳が意識を覆い包むのも、
また一つの夜の訪れとも言えるのだろう。
月の明かりも碌に届かないようなこの場所でも、
この男の瞳の色は尚も明るく。

「………………、si」

伸ばされた手を最期に握ってやれないのは少し残念だった。
汚れのない貴方のその手は、頬にでも伸ばされただろうか。

Volemtieri勿論だよ、 tesoro.俺の唯一の人

そう言って、貴方の首を絞める手はそのままに。
少しだけ背伸びをして、冷たくなってしまった貴方の唇に口付けた。
僅かに残った貴方の命を啄んでいるかのようだった。
(-76) 2022/08/27(Sat) 21:15:31

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

愛した全てが行き過ぎる。面影が去来する。
朧な人の影がいくつも眼裏に現れて消えた。


涙も、見開かれた瞳も、これほどまでに冷えた温度も。
君はきっと初めて知って、それと同時に最後になった。
包むように絞めながら、啄むように口づけて奪うのだ。


男の手から力が抜け落ちる。
長いまつ毛が淡く震えた。

掻き毟る指が動きを止める。
瞳から残光が失せてゆく。

両の足がゆっくりと頽れた。
穏やかに今、幕が下りる。


それで、終い。
それで、終り。


結局男は一度さえ君の行いを否定することなく、
抵抗どころか逃避を試みることさえしなかった。

息絶えたかんばせは酷く穏やかで、
その面差しには幸福が綻んでいた。


きっと聖母の腕ですら、これほどの安寧は得られまい。
 
(-92) 2022/08/28(Sun) 2:49:53

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

「…………」「サヴィ?」

「サヴィ」

ぐ、と手に人一人分の重みを感じる。
自分より身長が高いというのに少し吊られるようになった貴方の身体を、乾いた地面の上にゆっくりと降ろした。
壁に背を預けるように座らせている間、なんだか人形みたいになってしまったな、と思う。

脈は無かった。呼吸ももう無い。体温はとうに失われて、ひどく冷たくなっていく。名前を呼べど、午睡の後の陽だまりのような声で返事が返ってくる事も無い。
貴方の紡ぐ愛は、今から全て過去になる。
あるいは残された者に息づき続けるのか。

事切れた。死んだ。────
殺した。

間違いようもなく、今目の前で笑えて来るほど安らかに眠った彼の命は自分が奪った護った

「サヴィ、……ありがとなあ」
「痛かったよなあ。苦しかったよなあ」

……酷く優しい手つきで、貴方の髪を撫でる。
自分の髪とは違う、ゆるく癖の付いた髪を整える。
それからそのまま頬を撫でてこちらを向かせる。

──なんとなく、なぜかは分からないけれど、そこから暫く動けなくなってしまった。

殺されたってのに。こいつ、なんでこんな顔してんだ。


そう思いながらじっと、
……じっと、屈んだまま貴方の顔を眺めていた。

(-100) 2022/08/28(Sun) 20:27:01

【置】 陽炎 アベラルド

昔なら涙の一つでも流しただろうか。

妹が殺されたと知らされた時だって、死体すら見ちゃいないのにやるせなさと哀しみで馬鹿みたいに泣いた覚えがある。
だというのに。

幼なじみが目の前で息絶えたというのに、
頭はどこか冷たく冴えていて穏やかだった。
哀しみよりも、虚無感よりも、何よりも凪のような気持ちがあった。
『仕事』の後のような昂ぶりも無い。

恋愛ではなかった。性愛でもない。
いちばん近いのは友愛だとか親愛なのだろうか。
そのどちらも、またどこか違うような気がした。
ただこれは「愛」であることは変わりなく、貴方が死んだとしても潰える様子も無かった。

貴方が死んでくれて嬉しい。
貴方が自分のせいで死んでくれて嬉しい。

貴方の死に顔を眺めている間、
自分はきっと穏やかに笑えていた。

奪われなくてよかった。
(L12) 2022/08/28(Sun) 20:36:06
公開: 2022/08/28(Sun) 21:30:00

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

……ふと、「残さなければ」と思った。
貴方の一部でも、自分の手元に残したくなった。
きっと貴方の身体が見つかれば、土の下で眠る事になる。
その前に、自分の傍に居てもらわなければならないと思った。

何がいいか考える。
貴方がいつも身に着けていたタイ。アクセサリ。
自分に慈愛のまなざしを向けていたアメジストのような瞳。

思考と視線を巡らせて、それから一つ思い至った。

手がいい。
自分に触れてくれていた手がいいと思った。

頬に触れる手も、頭を撫でる手も、差し伸べられる手も、どれも好きだった。だから、それがいい。
でも全ては少しずるいような気がして、指の一つだけにしておこうとした。

そっと冷えた手を取る。自分の手よりもずっと綺麗な手。
終ぞ汚れる事は無かった。

小指にしよう、と決めた。
(-102) 2022/08/28(Sun) 20:45:55

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド


殆ど一縷の乱れのないその亡骸にも、 
ほんの僅かな苦痛の跡は残っていて。
何度も爪で掻いたスラックスには皺。
きっとその下の肌には赤い傷がある。
それでも。
暴れも逃げもしなかったその身体は、
 
君が求めた。

抵抗も反抗もしなかった彼の亡骸は、
 
彼が与えた。

泡を吐くことも血を流すこともなく、
 
君が奪った。

傷を負うことも身を失うこともなく、
 
彼が渡した。

他殺体とは思えないほど綺麗だった。
 
君が護った。


眠っているよう、なんてやっぱり陳腐だ。


擦り切れて満ち足りた空間に、一つのネックレスが落ちている。
遺体のすぐ傍にあるそれは酷く汚れてみすぼらしかった。あまりにこの場に似つかわしいそれはしかし、はじめから此処に打ち捨てられていたものではない。

(-105) 2022/08/28(Sun) 22:11:41

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド


細いチェーンは銀色。
ペンダントトップはデフォルメされた白い花のモチーフ。
その中心には小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている。
それだけの、酷くシンプルなネックレスだった。


​────君が気にする必要はない。
(-106) 2022/08/28(Sun) 22:23:00

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

折り畳み式のナイフなら、万一の際に備えていつも持ち歩いて居た。これで人を殺そうとするにはあまりにも心許なく、そういった用途で使われたことは一度も無いが、よく砥がれた刃は人の肉を裂く事なんか容易だ。

「…………ん、」

それをポケットから取り出す傍ら、ふと視界の端にネックレスが映った。最初は何かわからなかったが、すぐに貴方の持っていた物だと思い至る。どういった経緯で持ち歩いているのかは知らなかったが、手放すつもりはないらしいことは知っていた。
……今ここで持ち去っていくのはこいつに悪いと思い、触れずにおく事にする。
だから、それはそのままだ。

地面に手を広げ、関節部分にナイフを当てがう。
刃を通せば薄い肉を断つ感触がした。流石に骨までは斬る事は出来ない。だから、体重をかける必要があって。
心の中で詫びながら柄に両手を添え、思い切り体重を乗せた。
ぱきゃ、と嫌に軽い音がした。
少し勿体ないと思った。仕方のない事だ。



(-152) 2022/08/29(Mon) 19:01:26

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

手を離せば小指はすっかり手から離れている。
心臓の止まった今、流れる血の勢いも鈍いのだろうか。
アベラルドはほう、と息を吐いてそれをつまんで持ち上げて、目の高さで眺めて見せた。

……ああ、自分のやる事は終わったな、と心中独り言ちて。

清潔な藍のハンカチでそれを包んで──そういえばこれも貴方がくれたものだったか────上着のポケットに、そっと入れた。

命は貰い受けた。後は去るだけだ。
貴方のその整ったかんばせを見るのも、これで最後になるのだろう。

「……サヴィ。
またな


Sei nel mio cuoreこれでお前はずっと俺の傍に居てくれる

もう一度貴方の頭をゆったりと撫でて。
すっかり冷え切った唇に、もう一度キスをして。

A prestoじゃあな

それからは、何も言わずにこの路地を去る。
一人分の固い靴音が遠ざかっていく。
そしてここに残るのは安らかな骸と傍らのネックレスだけ。
貴方が誰かに見つかるまでの時間は、穏やかな眠りたり得るだろうか。

もはや、それは誰にもわからないのだろう。
(-154) 2022/08/29(Mon) 19:05:12