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人狼物語 三日月国


167 【R18G】海辺のフチラータ【身内】

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【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 愚者 フィオレロ

「ふうん。不幸せに?」

言葉を切るのは触れるなのサインだろうか。そうなのかもしれない。けれど、それ以前に零れてしまうということこそが、きっと抱えきれないというサインだった。
サルヴァトーレは、目の前に差し出された救難信号エス・オー・エスを、見て見ぬふりはしない男だった。
それがちらつくということは、少なくともそこに何か拭いされぬものがあるということだ。どんなに些細なことでも。
それを見逃しているようでは、顧問コンシリエーレは務まらないし。

「変な話なもんか。大切な話だろ? 君にとって重要な話だ」
「あはっ。つまり花のせいで目が眩んでしまって、大切なものを見失ったってわけだ。なるほど、ほら! 大事おおごとじゃないか」

別にどう足掻いても聞き出したいというわけではないけれど、そこにあるものには応えたいと思うのが人情というものだろう。どうもこの男はそういう、マフィアには不似合いなお人好しさを持っているらしかった。アルバという組織の特性ゆえだろうか。

「へえ、それは素敵な女性だね」
「いいのかい? そんな美しい人に贈るものを、僕が手伝ってしまうなんて。ああもちろん、僕にとっては幸甚の至りだけれど」
(-60) 2022/08/27(Sat) 3:05:34

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

貴方が褒める度、アベラルドはそれを拒むことなく受け入れた。
誰が自分の事を評価してもそうだ。受け入れた。
その度に居心地が悪いような気がしたけれど、
それでも感謝をされるのは悪い気はしなかった。
期待があれば失望がある。失望が怖いわけではないが、
勝手にかけられた期待を裏切り勝手に失望されるのが非常に面倒臭かった。
思えばアベラルドは、貴方に失望されることを考えていなかった。
それもきっと貴方に対する信頼だったんだろう。そして、甘えの一つだ。

「そうかい。でも懲りないんだろ、お前」

軽くあしらえど貴方はまたそういう言葉をこちらに掛けるのだ。
……明日からは、こういう事ももう誰も聞けなくなる。

「……そうだよ。どうしてもだよ」
「死なない訳ないだろ。お前も、俺も、家族も、いつか死ぬ。遅かれ早かれいつか死ぬ。それが今ってだけだ」

旧知の友を手に掛けるとなれば怖気付きでもするのだろうかと思ったが、案外自分に迷いは無いらしい。
貴方の首をぐるりと包む手付きに震えはなかった。その上を走る動脈の位置を確かめるように、親指が皮膚を撫ぜた。
自分を見下ろすアメジストを見つめる。

「俺も不思議な気分だよ。……安心しろ。うまくやる。苦しいのは短くて済むようにさ。他の奴に殺されるよりきっとずっと楽だ」
「……ハハ。そうか。お前、死ぬんだな」
「俺も惜しいよ。ありがとう」

他人事のような言葉を皮切りに手に力を籠める。
壁に押し付けるようにぎゅう、と。
貴方の最期の体温を掌に感じながら。
(-63) 2022/08/27(Sat) 13:56:54

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

君の甘えを男は際限なく受け入れた。
君だけではなく誰の甘えもそうだった。それが家族に乞われるものであれば、求められるものであれば、欲しがられるものであれば、どこまでも与えた。注いだ。そこに微塵の躊躇も、遠慮もなかった。
​結局は早い者勝ちだった。


笑顔は肯定。いつだって男は笑顔を浮かべて、いつだって君の言葉に肯う。

君の言葉は正しい。
今だって失われる命がある。昨日だって誰かが死んだ。そもそもこの波乱は相手の頭が飛んだことから始まっているし、そうでなくても日々何がしかで人は死ぬ。それら喪われたものを悼む男の姿を見たことはあるだろうし、もしかしたら一緒に花を手向けに行ったこともあるのかもしれない。
だから、やっぱり。
男の言葉は甘い。まるで使い古された陳腐なフィクション、或いはぬるま湯で生きる市井の人々に通ずる無頓着さがあった。

「そうだね」

今、彼は君に命を明け渡す。無防備に無遠慮に差し出してしまう。
性別なりに喉仏の浮いた首元に指を這わせれば、橙の瞳と紫の瞳がかち合った。酷く殺風景で寂しい路地裏のこの空間で、互いの瞳に灯る夕暮れと夜の手前だけが鮮やかだった。
最期の交わりが途切れないように見据える。
男が少し唇を噛んだように見えたのは気の所為かもしれない。


そして。

「どういたしまして」を告げる猶予は果たしてあったのか。


首が絞まる。気道が潰される。空気の供給が絶たれる。息が、詰まった。
(-67) 2022/08/27(Sat) 15:28:19

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

欲した者から与えられるのであれば、今貰い受けようとしているこの手の中の命も早い者勝ちだったのだろうか。
いや、きっとそうだ。そうだと思っているからこそ、
自分は今ここでこうしている。許されるままに。

貴方の骸が遺れば悼む者はきっと多いのだろう。
自分だって貴方の墓標があれば毎日花の一つでも添えるだろう。花屋で買う花が一本増えていた事だろうし、
この話はこれからの未来で起こり得ぬことだ。


「サヴィ」

返事は出来ないだろうに、声を掛ける。

「お前、人は死んだらどこへ行くと思う。天国でも、地獄でも、あるだろ。もしかしたら、どこにも行かないのかもしれないけど」

声音は努めて冷静でいつも通りだった。込められる力ばかりが強くなる。貴方の瞳が閉じるその時を見逃さないように、一時も目を逸らさずに。

「俺、お前と一緒に地獄に行きたいよ。お前はもしかしたら天国へ行くかもしれないけどさ」

いつ貴方が自分の声を聴きとれなくなるのかもわからないのに、世間話のように続けるのだ。

「道の途中で待っててくれよ。サヴィ」
「お前と言葉を交わせなくなるのは少し惜しいんだ。お前と話すの、嫌いじゃなかった」
「嫌いじゃなかったんだよ」

それで、いつもみたいに笑うのだ。
貴方が事切れるその時まで。
(-68) 2022/08/27(Sat) 17:01:07

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

​────息が苦しい、


今更になってそんな当たり前のことを思う。
涼し気な顔をしていても、穏やかな物言いをしていても、男はただの人間だった。ロボットでもアンドロイドでもないのだ。息を絶たれれば苦しみを感じる。死に瀕すれば痛みを感じる。緩やかに弧を描いていた唇の形が歪んで、ぱくりと開くまでにそう時間はかからない。強ばった指が震えて衣服を掻いた。

酸素が回らない。

頭が割れそうに痛む。このままでは死んでしまうと訴える。顔が酷く熱いのに身体の内側はやけに冷えていた。足の感覚は既に消えてしまって、自分が今立っているのかも分からない。行き場のない諸々が身体の中で暴れ回るようで、酷く痛くて五月蝿くて、それでも君の声だけは呪詛のように聞こえてくる。いつもの癖で返事をしようとしても咳すら出ない。

​────ああ、


死ぬのだ、と。
不意にはっきりとわかったのは、ようやくその時だった。それで一瞬頭が晴れて、それから限界を迎えたように霧散していく。意識がゆっくりと溶けていく。意思の束がほつれていく。とろとろと思考がほどけていく。

ああ、くるしい。
あたまがいたい。


陽がもう落ちる。夜が来る。
暮れる瞳から生理的な涙が零れ落ちた。
消える直前の火は一際強く輝くという。


いきができない。
とてもくるしい。​────


閉じようとした双眸は最後にもう一度、一際大きく、大きく開かれた。

「​────   、」

(-69) 2022/08/27(Sat) 19:10:03

【置】 家族愛 サルヴァトーレ

「​────Abbie,」
(L11) 2022/08/27(Sat) 19:12:04
公開: 2022/08/27(Sat) 22:10:00

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

色を失った唇が微かにうごく。

Baciami,キスして、

Baciami, キスして、​────mio,僕の、



" Baciami, amore mio. " 
キスして、僕の愛しい人。



色を失った手が緩慢に伸びる。
男の手は真白の手。君の守った無垢だった。
(-70) 2022/08/27(Sat) 19:18:38
サルヴァトーレは、家族を愛している。
(a4) 2022/08/27(Sat) 19:20:15

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

貴方の表情の変化を、苦しげな様子を、夜さりの頃のようなその穏やかな色から雫がころりと零れ落ちるのをじっと眺めていれば、そういえば人が死ぬ様子をこんなにゆっくり見た事は無かったな、なんて頭のどこかにぼんやりと浮かんだ。
人を殺すのにこうやって首を絞めるのも初めてだった。
普段であればこんな面倒な事、しないのだから。

ただ、貴方の命を仕事のように簡単に終わらせたくないと思った。
これは仕事でもなんでもない。
ただの私情で、甘えで、エゴだ。
どれも貴方以外にはあまり見せなかったものだ。
貴方の命を大切にしたくて、こんな事をしている。
これは矛盾だ。判っているとも。


命の灯が一つ消えて暗澹とした帳が意識を覆い包むのも、
また一つの夜の訪れとも言えるのだろう。
月の明かりも碌に届かないようなこの場所でも、
この男の瞳の色は尚も明るく。

「………………、si」

伸ばされた手を最期に握ってやれないのは少し残念だった。
汚れのない貴方のその手は、頬にでも伸ばされただろうか。

Volemtieri勿論だよ、 tesoro.俺の唯一の人

そう言って、貴方の首を絞める手はそのままに。
少しだけ背伸びをして、冷たくなってしまった貴方の唇に口付けた。
僅かに残った貴方の命を啄んでいるかのようだった。
(-76) 2022/08/27(Sat) 21:15:31

【秘】 金毛の仔猫 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ

誰が口を付けたものであれ、躊躇うことはない。
そう、特に、あなたが相手であれば。

「そんなの忘れるなよ」

呆れたような声。
かたちのよい眉が片側だけ、わずかに歪む。
少年は、あなたが普段、どんな風であるのか知らない。
あなた方マフィアの集まるような場へ顔を出すこともないのだから、少年の前のここにいるあなたしか。
あなたが何であれ、どのような人物であれ。少年にとっては、そういうあなたがすべてだ。
だから少年も、いつもよりすこし、ただのこどもみたいに。
交換したウインナーをかじる。
辛みがじんわりと舌に熱を灯す。

「そお、よかった」
「おれも大丈夫。
でもそうだな、これは喉が渇くかも」

よく叱られる相手と言えば、脳裏をよぎるのは一人だけ。
けれど彼女だって存外、口が悪いことを知っている。
それに、何より。
怒らせたいわけでは勿論ないけれど、彼女に叱られるのはべつに、少年はそんなに嫌ではないのだ。
くす、くす。唇がかすかに、笑声をこぼした。
(-81) 2022/08/27(Sat) 22:12:36

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → グッドラック マキアート

君の言葉に男は目を細めるだろう。
君はいつだって素直で、優しく、そして聡明だった。マフィアという組織はどうしたって暴力的な側面を孕んでいる。法を嘲笑い、倫理に抵触し、時には道徳に砂を掃きかけもする。
そんな中にあって、いつまでも擦れてゆかない君のような人間は貴重だったのだ。もちろん多少要領がよくなったり、隠し事が上手くなったりはしているのだろうけど。

「へえ、それはいいね」

こちらも同じく、楽しみだという表情を。

「その時は何でお祝いしようかな、君はあの子ほどお酒も好きじゃないし……」
「君が何を選んでも、僕は応援するよ。何でも言うといい」

未だない先を想うのは、生者の特権だ。
少なくともこの時二人は、無責任な明るい未来を絵図に描いていた。それくらい、穏やかな夜だった。
(-82) 2022/08/27(Sat) 22:45:43

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド

愛した全てが行き過ぎる。面影が去来する。
朧な人の影がいくつも眼裏に現れて消えた。


涙も、見開かれた瞳も、これほどまでに冷えた温度も。
君はきっと初めて知って、それと同時に最後になった。
包むように絞めながら、啄むように口づけて奪うのだ。


男の手から力が抜け落ちる。
長いまつ毛が淡く震えた。

掻き毟る指が動きを止める。
瞳から残光が失せてゆく。

両の足がゆっくりと頽れた。
穏やかに今、幕が下りる。


それで、終い。
それで、終り。


結局男は一度さえ君の行いを否定することなく、
抵抗どころか逃避を試みることさえしなかった。

息絶えたかんばせは酷く穏やかで、
その面差しには幸福が綻んでいた。


きっと聖母の腕ですら、これほどの安寧は得られまい。
 
(-92) 2022/08/28(Sun) 2:49:53

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 金毛の仔猫 ヴェルデ

「滅多に食べないからさ。食べようとも思わないし……」

稀にしかその気にならないから、食べようと思った時に自分の限界を測りかねる。どうやらそういうことらしい。一般的なことかは分からないけれど。
そんな胡乱な説明をしながら、な交換したも辛い方のに口をつける君をじっと観察する。平気そうなら軽く頭を撫ででもしたのだろう。褒めたいだとか明確な意思があったわけではなく、何となく触れたくなった、程度の柔らかな手つきだった。

そうやって、しばらく歩いて。

「あった、あった」

距離で言えばそう長くはなかったのに、人の多いせいで随分かかってしまった。
流されないように注意深く大通りを逸れて、目当ての屋台へと向かうのだろう。
(-93) 2022/08/28(Sun) 5:47:25

【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ

「もー……そんな笑わないで下さいよぉ。俺にとっては結構な大ごとだったんですね。ほら、願う事で不自由を強いる事もあるじゃないですか」

拗ねたようにややはにかみながら苦笑する。馬鹿にされた訳ではないと理解しているし、自分にとっては大げさにも思えるリアクションを採られたのが逆におかしくて、このまま言わないのもあれかと半ば投げかけるだけのつもりで口を開いた。

「例えるなら何をよく聞くかな。……"私だけを見てほしい"とかそういう類ですかね。履歴どころかメッセージのやり取りのスクショすら送らせるとか聞きますね」

俺が考えてるのとは違うんですけど、と付け加える。
例えなわけで別に履歴を遅らせなんてしないが、一般的な話として例えるならこの辺りが近いかも、くらいの提案だった。

「まあとにかく、行動に移しはしないんですけどその手の話は何を見ても正しい答えが書いていないから、考えるだけでもいいのかなぁ。とか、愛ってなんだろうなぁとか、花を見た時の素直に綺麗と思える感覚のように思えたらいいなって事ですね」

返事を求めないというよりは、どちらでもいいくらいには流せるくらいに話を切って。本題はこちらとばかりに、手伝いの件は快諾の意味を込めて頷いた。

「この辺りに住んでいた人でしたから」
「きっと俺より貴方の方が正確なものを選べるかなと」

くすんだブロンドの髪とブルーの瞳の外見の情報だけ追加して。あとは先ほどのおおよそ褒めと程遠いような特徴くらいだった。
(-99) 2022/08/28(Sun) 20:14:36

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

「…………」「サヴィ?」

「サヴィ」

ぐ、と手に人一人分の重みを感じる。
自分より身長が高いというのに少し吊られるようになった貴方の身体を、乾いた地面の上にゆっくりと降ろした。
壁に背を預けるように座らせている間、なんだか人形みたいになってしまったな、と思う。

脈は無かった。呼吸ももう無い。体温はとうに失われて、ひどく冷たくなっていく。名前を呼べど、午睡の後の陽だまりのような声で返事が返ってくる事も無い。
貴方の紡ぐ愛は、今から全て過去になる。
あるいは残された者に息づき続けるのか。

事切れた。死んだ。────
殺した。

間違いようもなく、今目の前で笑えて来るほど安らかに眠った彼の命は自分が奪った護った

「サヴィ、……ありがとなあ」
「痛かったよなあ。苦しかったよなあ」

……酷く優しい手つきで、貴方の髪を撫でる。
自分の髪とは違う、ゆるく癖の付いた髪を整える。
それからそのまま頬を撫でてこちらを向かせる。

──なんとなく、なぜかは分からないけれど、そこから暫く動けなくなってしまった。

殺されたってのに。こいつ、なんでこんな顔してんだ。


そう思いながらじっと、
……じっと、屈んだまま貴方の顔を眺めていた。

(-100) 2022/08/28(Sun) 20:27:01

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

……ふと、「残さなければ」と思った。
貴方の一部でも、自分の手元に残したくなった。
きっと貴方の身体が見つかれば、土の下で眠る事になる。
その前に、自分の傍に居てもらわなければならないと思った。

何がいいか考える。
貴方がいつも身に着けていたタイ。アクセサリ。
自分に慈愛のまなざしを向けていたアメジストのような瞳。

思考と視線を巡らせて、それから一つ思い至った。

手がいい。
自分に触れてくれていた手がいいと思った。

頬に触れる手も、頭を撫でる手も、差し伸べられる手も、どれも好きだった。だから、それがいい。
でも全ては少しずるいような気がして、指の一つだけにしておこうとした。

そっと冷えた手を取る。自分の手よりもずっと綺麗な手。
終ぞ汚れる事は無かった。

小指にしよう、と決めた。
(-102) 2022/08/28(Sun) 20:45:55

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド


殆ど一縷の乱れのないその亡骸にも、 
ほんの僅かな苦痛の跡は残っていて。
何度も爪で掻いたスラックスには皺。
きっとその下の肌には赤い傷がある。
それでも。
暴れも逃げもしなかったその身体は、
 
君が求めた。

抵抗も反抗もしなかった彼の亡骸は、
 
彼が与えた。

泡を吐くことも血を流すこともなく、
 
君が奪った。

傷を負うことも身を失うこともなく、
 
彼が渡した。

他殺体とは思えないほど綺麗だった。
 
君が護った。


眠っているよう、なんてやっぱり陳腐だ。


擦り切れて満ち足りた空間に、一つのネックレスが落ちている。
遺体のすぐ傍にあるそれは酷く汚れてみすぼらしかった。あまりにこの場に似つかわしいそれはしかし、はじめから此処に打ち捨てられていたものではない。

(-105) 2022/08/28(Sun) 22:11:41

【置】 家族愛 サルヴァトーレ


「うん? ああ​────いや、そういうわけでもないんだけど」
「どうしてかな、捨てる気になれなくてね……持ってるんだ。邪魔になるものでもないし」

男はそれをいつも持ち歩いているらしかった。
金具がひしゃげ、チェーンもちぎれたそれは、もう元の装飾品として扱えそうにない。古いものなのか、ところどころ錆びたような色がこびりついてもいた。大切なものなのかと問われれば首を振り、実際大切にしているわけでもないらしく、誰かが興味を持てば簡単に貸して寄こした。
けれどもやっぱり、最後には手を出して返すように促した。それからまた、スラックスのポケットに仕舞ったのだった。

(L13) 2022/08/28(Sun) 22:20:13
公開: 2022/08/28(Sun) 22:20:00

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド


細いチェーンは銀色。
ペンダントトップはデフォルメされた白い花のモチーフ。
その中心には小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている。
それだけの、酷くシンプルなネックレスだった。


​────君が気にする必要はない。
(-106) 2022/08/28(Sun) 22:23:00

【秘】 金毛の仔猫 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ

「そういうところ。
もっと自分のこと気にしろっていうのはさ」

などと言う少年は、やはりあまり表情を変えないから、平気そうに見えるだろう。
ひと口、ふた口と食べ進めるごと、口内が熱くなるのを感じてはいるのだけれど。食べられないほどではなかったから。
撫でられても、瞬くだけで。
けれどそう、嫌ではないのだ。いつも。
言葉を交わしつつ人波の中を歩き、スープの屋台に立ち寄って。
あたたかな液体を啜り、ウインナーも食べきって。
のんびりと食べ歩くふたりは、最初の目的地だったジェラートの屋台へとたどり着く。
そこでもあれやこれやと並んだフレーバーに、少年は悩む姿を見せるのだ。
(-108) 2022/08/28(Sun) 22:46:47

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 愚者 フィオレロ

紡がれる言葉をあまさず受け取って聞いている。じい、と目線を外さず、表情はあくまで明るく。きっとそれは人の話を聞くにあたって、この上なく正しい態度。
饒舌の語りはすれ、相手の言葉をかき消すことはしない男だった。会話はキャッチボール。それをよく知って、体現する男だった。

「なるほど」

君の言葉を消化するように頷く。少しの間を置いて、また口を開く。

「教科書じゃないからね。僕だって全ての答えを持ってるわけじゃない。……僕には、そういう願望はないし」
「でも、そうだな。もし僕のせいで、相手が不自由になるようなことがあったら」

その時の言葉は、珍しく。
君に語ると言うよりは、自分自身で何かを確かめているように噛み締められながら。

「不自由だと思わないくらい、全部をあげるんじゃないかな」

先程までの練り上げられた答ではなく、大雑把で曖昧な、答えとも言いづらいような答え。
きっとこれ以上に掘り下げられることもないのだろう。だからこそただの一意見として、男は無責任にそんなことを口に出す。
それから君の話をやっぱり機嫌よく聞いて、時にはその容赦のない形容に笑いを漏らしたのだろう。

「正確ね」
「それだけ彼女に詳しいなら、君の方が余程正確に選べそうだけど。……そうだな」

それでも、この光栄な役割を投げ出すような男ではない。
店先に並ぶ花々をじっと見る。それから君の顔をじっと見る。もう一度花々の方を向いて、紅色の一輪を手に取った。

「これなんか、どうだろう」
「ケイトウだよ。僕は好きだし​、華やかで情熱的だ」
「なにより、アッシュブロンドによく映える」
(-124) 2022/08/29(Mon) 4:23:49

【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 翠眼の少年 ヴェルデ

一つを選びかねるなら、「二つにするかい」。
それでもまだ悩むなら、「三つでもいいよ」。
……なんて、段階を踏みやしないのだ、この男は。
伝える言葉はいつだって、こう。

「どれがいい? ヴェルデ。好きなのを選ぶといい」
「それで足りるの? ほら、これだっておいしそうじゃないか」

うんうんと悩む君の後ろから、男は毎度そんな声をかけた。
それから君が選び終えれば自分の分はさっさと決めてしまって、君の手を制止して二人分の代金を払うのだろう。きっと今だって。

いつだって男は、君に何か与えようとしていて。
いつだって男は、君が何か選ぶのを待っていて。

君が選んだものを否定することは、絶対になかった。
(-125) 2022/08/29(Mon) 4:33:20

【秘】 愚者 フィオレロ → 家族愛 サルヴァトーレ

「答えを持っていそうな風格はありますけどね。いえ、単純に貴方の答えを聞いてみたいと思っただけなので、気楽に……、……」

彼の言葉の紡ぎ方がほんの僅かに違ったから、一瞬これはさすがに不躾な質問すぎたかと過ぎり、解答を聞いてすぐに思い直す。その答えの精細さが違う事にむしろ安堵したような気がして、笑い交じりに言葉を返す。

「全部って滅茶苦茶な無茶を言いますね。いや、」
「……それくらい、必要だったのかな」

それを望むのならそのくらいの覚悟と責務が、なんて思いはしたけれど、貴方の思惑通りこれは独り言のようで貴方に更に詳しく問いかける事はない。ただ、この答えがこの男が考えていた何かを呼び起こさせた事は事実だった。

「──確かに」
「俺じゃ思い浮かばないくらい情熱的だ」

改めて、随分と面倒見のいい人だなと感じる。それは聞く態度や姿勢、言葉の受け取り方も勿論入るし、投げている自分が言うのもなんだがこの手の話題を突然振られても引いた様子一つ見せる事がないところもだ。

実際にどう思っているかはさておき、見た目に出ないのではなく出さないようにしている在り方は見習いたいと話題の隅で強く思う。それこそ、向いてそうだと思ったのは秘密だ。実際は向いているどころか遥かに上の立場の人だったのだが……それを知る日もついぞこなかった。

それから、唐突に「付き合わせてしまったお礼にお礼でもと思ったんですが、……折角の花ですから引き留めるのもよくない。だからまた、機会があればその時はお礼をさせて下さい」

なんて一方的に告げて、唐突に声を掛けた時と同じように貴方に答えて貰った花を機嫌よさげに買って帰ったのだろう。その"機会"も結局は来なかったのだが──とある無人の空き家に、燃える鮮やかな赤の花が贈られる事になる。
(-131) 2022/08/29(Mon) 13:38:26

【秘】 翠眼の少年 ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ

二つと聞けば、「そんなに食べられない」と。
三つと聞けば、「なんで増やすんだ」なんて。
そんなことを言って、少年はかすかに笑う。
早く決めてしまおうと目についたものにしようとすれば、他のものを示されたりして。
それはきっと、慌てなくていいことの裏返し。
あなたは少年が選ぶまで待っていてくれるし、きちんと選べば何も言わない。

「……ん。じゃあ、これ」

そうしてたっぷり迷って選ぶのは、紫色のぶどう味。
結局また支払いはさせてもらえないから、困ったような、呆れたような顔で。
なんでもない普通の親子のような、或いは兄弟のような気安い距離で。
ひんやりと甘いジェラートを食べ、祭りの喧騒を楽しんだ。

迷子の仔猫みたいに所在なく立ち尽くしていた少年は、確かに。
あなたに誘われて、この騒がしさを楽しむことができたのだ。
(-132) 2022/08/29(Mon) 13:54:19

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

折り畳み式のナイフなら、万一の際に備えていつも持ち歩いて居た。これで人を殺そうとするにはあまりにも心許なく、そういった用途で使われたことは一度も無いが、よく砥がれた刃は人の肉を裂く事なんか容易だ。

「…………ん、」

それをポケットから取り出す傍ら、ふと視界の端にネックレスが映った。最初は何かわからなかったが、すぐに貴方の持っていた物だと思い至る。どういった経緯で持ち歩いているのかは知らなかったが、手放すつもりはないらしいことは知っていた。
……今ここで持ち去っていくのはこいつに悪いと思い、触れずにおく事にする。
だから、それはそのままだ。

地面に手を広げ、関節部分にナイフを当てがう。
刃を通せば薄い肉を断つ感触がした。流石に骨までは斬る事は出来ない。だから、体重をかける必要があって。
心の中で詫びながら柄に両手を添え、思い切り体重を乗せた。
ぱきゃ、と嫌に軽い音がした。
少し勿体ないと思った。仕方のない事だ。



(-152) 2022/08/29(Mon) 19:01:26

【秘】 陽炎 アベラルド → 家族愛 サルヴァトーレ

手を離せば小指はすっかり手から離れている。
心臓の止まった今、流れる血の勢いも鈍いのだろうか。
アベラルドはほう、と息を吐いてそれをつまんで持ち上げて、目の高さで眺めて見せた。

……ああ、自分のやる事は終わったな、と心中独り言ちて。

清潔な藍のハンカチでそれを包んで──そういえばこれも貴方がくれたものだったか────上着のポケットに、そっと入れた。

命は貰い受けた。後は去るだけだ。
貴方のその整ったかんばせを見るのも、これで最後になるのだろう。

「……サヴィ。
またな


Sei nel mio cuoreこれでお前はずっと俺の傍に居てくれる

もう一度貴方の頭をゆったりと撫でて。
すっかり冷え切った唇に、もう一度キスをして。

A prestoじゃあな

それからは、何も言わずにこの路地を去る。
一人分の固い靴音が遠ざかっていく。
そしてここに残るのは安らかな骸と傍らのネックレスだけ。
貴方が誰かに見つかるまでの時間は、穏やかな眠りたり得るだろうか。

もはや、それは誰にもわからないのだろう。
(-154) 2022/08/29(Mon) 19:05:12

【置】 家族愛 サルヴァトーレ


これはいくらか昔の話。
そのマフィアにはある女がいた。
大口を開けて笑う豪快な女だった。縮れた赤毛に咥え煙草がトレードマークで、話す言葉には異国の訛りがあった。
彼女は組織の人間とよく付き合った。酒を酌み交わし、よく人と話した。その陽気な様子は、この国のマフィアに相応しかった。

────カタギに惚れられちゃってさ……。


初めはそんな言葉。
彼女には、休日に図書館に行くという日課があった。幼少期を異国で暮らしたために、この国の絵本なんかが珍しいのだという。そこでよく会う学生に声をかけられたのだと。

────ガキのくせにね……。


侮るような口調はしかしあたたかい。眉根を寄せながらも口元はにんまりと笑んでいて、つまりはまんざらでもない様子が伺えた。

程なくしてそのガキカタギは彼女の傍に現れるようになる。図書館の外でも彼女に話しかけるようになる。​────つまりは、そういうことだ。
社会の厳しさも汚さも微塵も知らないような少年はその無知ゆえに彼女に付きまとった。贈り物と共に甘い言葉を携え、行く先々で慕うように後に続いた。君を守りたいと言った額を女が小突く。少年はいつだって、薔薇色の頬をして女に笑顔を向けていた。


いつしか少年は青年へと成長する。
家族が増えるのだと女はその腹を撫でた。
(L24) 2022/08/29(Mon) 20:10:08
公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00

【置】 家族愛 サルヴァトーレ

笑い声が聞こえる。

笑い声が聞こえる。


誰かの声が聞こえる。


銃声が聞こえる。


罵声が聞こえる。


慟哭が聞こえる。

幸福は脆く崩れ去る。


路地裏に倒れる。


何人かが死んだ。

うち一人は女だった。

男はそれを見ていた。

見ていただけだった。


脳漿が滴って落ちる。
(L25) 2022/08/29(Mon) 20:10:36
公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00

【置】 家族愛 サルヴァトーレ


────目を覚ました男がどう振る舞うかはファミリーの中でも注目の話題だったという。

血の掟、その7。妻を尊重しなければならない。
血の掟、その9。ファミリーの仲間、およびその家族の金を横取りしてはならない。

マフィアとて妻の命は大事にする。仲間の家族の命も大事にする。とりわけその男が女を深く愛していたのは誰もが知っていた。最愛を奪われた家族が狂うのは、蛮行に走るのは、復讐に傾倒するのは、何も珍しいことじゃない。

家族を処分するのは当然気分が悪い。
誰もが狂ってくれるなと願っていた。

果たして。

男は、狂いはしなかった。

彼は蛮行に走ることも、復讐に傾倒することもなかった。
恨み言のひとつも吐かず、怒りを見せることもなかった。

ただ笑っていた。
ただ明るかった。

不自然な程に。

彼はいくらかの肉と頭蓋骨の欠片、
それから脳みそ数グラムと一緒に、
記憶の一部も路地裏に落っことしてきたらしかった。
男の記憶にあの女はいない。


ちぎれた鎖は戻らない。
落とした螺は戻らない。
(L26) 2022/08/29(Mon) 20:11:20
公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00

【置】 家族愛 サルヴァトーレ

細いチェーンは銀色。
ペンダントトップはデフォルメされた白い花のモチーフ。
その中心には小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている。
それだけの、酷くシンプルなネックレス。
​────それは10年と少し前に流行ったものだ。


それを首に輝かせた女がいたことを、もう誰も覚えていない。

亡くした人は還らない。


幸福な終わりじゃないから、おとぎ話にはなれない。
語る口などどこにもないから、物語にすらならない。
(L27) 2022/08/29(Mon) 20:13:05
公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00
サルヴァトーレは、家族を愛している。
(a7) 2022/08/29(Mon) 20:18:33

【置】 家族愛 サルヴァトーレ


サルヴァトーレは、傷の入ったレコードだった。
サルヴァトーレは、四小節のオルゴールだった。

穴の空いた記憶を無理矢理埋めて。
解れた矛盾の糸を無理矢理繋いで。
足りない部分をただ愛で満たして。

不純物がない宝石は硬く透き通る。
男の中には家族への愛だけがある。

最期までただ愛だけが残っていた。

(L28) 2022/08/29(Mon) 20:18:47
公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00
サルヴァトーレは、家族を愛している。
(a8) 2022/08/29(Mon) 20:18:57

 




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