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人狼物語 三日月国


167 【R18G】海辺のフチラータ【身内】

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【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー

恨みと嫉妬をぶつけられているのはわかっている。
自分が欠片でも好かれているとは思っていない。
自分が向けた好意にもにた感情と同じ物が返ってくるのではと思うのは、烏滸がましい、独りよがりな思考だ。

髪を梳かれ、温かい何かを背中に感じた。
それまで体の自由を奪われ、身悶えして捩ったり跳ねたりするだけだった体だったが、
包み込むようなそれが、腕であることに気づいた時には、はた、とそのの動きを止めて、

何が起きたのかとぼんやりした頭で考えたが、首筋を吸われて落とされた言葉に
今、背中にぴったりとくっついてきた男の目に、自分が何に視えているかを理解してしまった。


――本当に、悲しいくらいに、

  想いの一方通行しか、ここには存在していない。


「―――……、腕を解け。
 これじゃ、お前の頭を撫でてやれないだろう」

あの人ならば、きっと、そうしてくれるだろう?
(-87) 2022/08/28(Sun) 0:09:14

【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ

独り言、独り言だ。決して同情して欲しかったわけではない、では何を求めていたのか。
言った当人とてこれといった展望のあるような話ではないのだろう。
けれどもこれ見よがしに突き放されたなら、それを侮りとしてとったのかもしれない。

男が反応したのはどの言葉だったろう。ひょっとすると流れるような跳ね返しの全てか。
ハンドルを切り、カーブを過ぎて真っ直ぐな道を前に見据えたところでちらとミラーを覗いて。
頭の位置を確認すると、上腕と手首を固めて反動で打つように、
相手の顔に向かって裏拳を放った。


「……口の利き方に気をつけろよ、根暗野郎。掃除屋なんだろ。
 オレにはいい、でも他人の結果については利いた風な口して語るなよ」

尤もらしく言葉を付け足したところで結局のところ相手の言葉が癪に障ったに過ぎない。
ただ、執拗に突き放されるように幾重にも渡って重ねられたなら、耐えられなかったのだろう。
線引だって行き過ぎればただの対外的な嘲りだ、そう言いたかったのかもしれない。
ただ、車中でそれ以上相手に手を出すことはなかったろう。お返しも一発なら看過したかもな。

段々と地平線向こうの太陽もまた、深く深く見えない向こうへと潜っていって。
アスファルトを照らす光は月光のそれに変わりつつある。
最早誰を相手が手掛けたか、なんてのは仔細に問い詰めるべき対象ではなくなっていた。
漠然と憎悪はある。けれどもそれを上回って無力感が強かった。
今更何をしたところで状況に変わりがない、そう骨身に滲みすぎてしまったから。

倉庫の中へと車を乗り入れ、都合の良いところで停める。運転席をおり、後部座席を開けて。
半分しかない女の死体を、ごく丁寧に抱えあげて目線で指示を仰ぐ。
既に肌の下の肉は腐臭に変わりつつあった。発見場所は水辺に近かったから。
それでも決して、粗末には扱わない。その後は切り刻んで燃やすのを了承しているくせに。
目に見え、己の手の内にあるうちだけは丁寧に扱おうと、そうしていた。
(-88) 2022/08/28(Sun) 2:04:57

【独】 天使の子供 ソニー

/*
今のシガリロはいつから?
これより前
(-89) 2022/08/28(Sun) 2:35:30

【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ

どれくらい会えなくなって、どれくらい態度が変わって。
少しずつ変質していく互いの距離がどんなものになるかなんて、想像もしていない。
足を揺らして相手が帰るのを待ち望む仕草は、なんだかんだと今と変わらないことを期待している。

「好きだよ。散る花でもオレにとってはひとつひとつが思い出。
 思い出せる記憶はなくても、それそのものが大切なんだから」

季節ごとに贈られる花は青年にとっては両親の思い出だった。
その時はそう思っていた。

一人息子を手放し、便りも少ない薄情にも思えるそれを、青年は大事に受け取っていた。
親というものの存在する人々に囲まれた環境ならまた受け取り方は違ったかもしれない。
皆にとってその思い出なんてない孤児院の中だからこそ、大切だと思えたのだ。
本当はとうにそこには、見たこともない二人の男女の意思は消え去っていたとしても。

焼き菓子の、まだふんわり鼻先をくすぐる甘く香ばしい匂いに頬を緩める。
煙草の匂いに、甘い匂いに、珈琲の匂い。いつからかいつだってそれを求めていたのかもしれない。
不良少年の口先から香るシガリロの煙が何を内包しているか、貴方は気付いていただろうか。

「一応さ。一人前になるわけだしさオレも。タトゥーパーラーでちょっと一筆入れてもらったんだよね。
 ……見る?」

報告そのものは別段変なものでもないし、多少やんちゃではあるもののありふれた話だ。
行儀や品性は悪くはあるものの、年若い人間としてはそうした証を欲しがるものなのかもしれない。
それとして、なんだかにやにやといたずらの一つでも考えているように笑っていて。
貴方が見る、とも見ない、とも返事をしたかどうか、
ベルトに手を掛け、ボトムの内掛け釦とホックを外すと指を引っ掛けてぐっと大幅にずらす。

腰骨の外側右、下着を履いたら隠れてしまいそうなところに。
白で花房を塗った花の意匠が彫られているのを見せつける。
ちょうど部屋に転がされている、祭りの主役とおんなじアーモンドの花だ。
見えているのはタトゥーだけ。他に余計なものは見えてやしない、が。
(-90) 2022/08/28(Sun) 2:37:02

【独】 天使の子供 ソニー

/*
拘束は外す?
外さない
(-91) 2022/08/28(Sun) 2:40:38

【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド

これ程に優しくする必要なんてのはない。丁寧にするということは身体的にも隙が出来る。
わざわざ拘束した腕を己の胸の下に敷いてしまって、縋り付くみたいに腕を絡めて。
ぎゅうと貴方よりも軽い体重を伸し掛けた体は、ぼんやりと体温の上がった手で体に触れる。
汗をかいた髪に、首筋に寄せられた唇は花に指を添えるみたいに柔らかい。

「先生、……好きだ、愛してる。Sei cosi dolceずっと、ずっと。
 好きだった。あなたがオレに優しくしてくれた時から、ずっと」

終ぞ面の向かって言う事の出来なかった言葉が、震えた涙声と共に吐き出される。
伝える相手を違えている。これから男は貴方を殺すのだ。だから伝言というわけでもない。
もしも、だとかたらればを思えば、息をするごとに胸に抱いた熱が溶け出すのを抑えられない。

そのくせ、腕に絡んだシャツを解けという声には無言だけがはねのけるように返る。
単純に抵抗を恐れたのか、相手が伸べたそのものを退けたのかも自分でわからないくせに。
頭の奥底ではわかっている。相手が自分の愛しい人でないことも、口に出来ない己が悪いのも。

肌の上を熱っぽい指が這う。撫で竦めて、全てを掌の内に集めるみたいに掻き抱く。
甘くまとったベチバー、アンバー、キャンディアップル。融け込むように首筋を汗が流れる。

ヴェネリオ
、――……」

普段は口にしない彼の名前を呼んで、耳朶に声を滑らせて。
はふ、とかすれたような声混じりの息が弾み、合わせるように何度も腰を打ち付けた。
女のようには柔らかくなくたって、きつく扱き上げられ続ければ下腹部に溜まる快は大きく。
随分と長くあったような交合の果てに、奥の奥まで腰を押し付けて体をまるめて。
凍えたようなかすれ声と共に、腸内の行詰りへと長く長く吐精した。
それが終わったにも関わらず、背中にしがみつくように頭を擦り付ける。
固い髪質の束がくしゃくしゃに押しつぶされている感触があった。
(-94) 2022/08/28(Sun) 6:50:51

【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー

例え紡がれる言葉が自分へのものではなかったとしても、その声色は甘く震えて耳の奥に響くようだ。
頭の中が真っ白になっていくようで、どこかに連れて行かれてしまうような気分になる。

「ふ、あっ、んんっ」

快楽に堕ちた瞳には、何も映らない。
ただ、その頬に触れた硬い髪に頬ずりをしてやるだけだ。
受け止めたそれは愛ではなかったけれど、貴方とのこれまでを否定しやしない。
あれはあれで、駆け引きをちゃんと、楽しんでいたから。

でも、今はただ。熱くて、気持ちがいい。
奥を突かれて苦しいのに、たまらない。
名を呼ぶ囁きに、異常な熱がこもった。

――馬鹿が……俺は、リカルドだ


否定する言葉は口からは出て来ない。
代わりに、絶え間なく嬌声と肌がぶつかる音が部屋の中に響かせて、頬を涙が伝って流れた。
それでも本来なら立ち上がるべき自分のそれは、そういう事なく萎えたまま。
何かせせり上がってくるような感覚が、体をぶるりと震わせている。
もう代わりでも、恨みでもなんでもいい。
ただ、どうか最後まで離さないでいてほしいと、ただそれだけを願って。

「っふ、は、あ、ゃ、ああ―――――っ」

長い吐精を腹の奥に受けながら、全身を強張らせ、震えるように弛緩する。
男を受け入れるのは初めてであったのに、後ろだけで深い快楽に達した身体の力が抜けて、背中にすり寄る頭を自由にさせている。

もう、身体の何処にも、力が入る余裕はなく、
ただ、静かに目を閉じて全てを受け入れていた。
(-97) 2022/08/28(Sun) 16:44:29

【秘】 グッドラック マキアート → 天使の子供 ソニー


気遣いとか、そもそも身体の動かし方から何も考えられなくなってきて、ただ目の前の男との交わりに同じく夢中になり、目の前がちかちかとしてくる。

より快楽を貪ろうと、気づけば右手の人差し指を自分の乳頭に這わせて弾いて。腸内を圧迫されるたびに喉を使った嬌声がそのまま押し出されていく。恥ずかしくて抑えよう、なんて試みようとすることももうない。

「は、ソニー、いい、もっと……」

顎に舐るような感触にじわとした熱が胸に籠る。歪な形ではあるものの、赤子をあやすような心地でより一層抱きしめたくなって。
だけどせめてもの矜持で邪魔はしないように力は込めず、けど、離れたくはなくて縋りつく。

「あ゛、イッ、……は、ぁあ゛、!」

咳の混ざる、微かに枯れた喘ぎののちに全身を強張らせて精を吐き出した。
そのまま汚れるのも厭わずしな垂れかかり、余韻に浸って。

やっとの思いで身体を離したかと思えば眉間に皺を寄せて、ポーズではあるけれどあからさまに怒ってる、みたいな。とはいえ仕方ない奴だな、という受容の姿勢も見せている。
いちど、深々とため息を吐いて。けれど慈しむような口づけを、額にまた落とした。
(-98) 2022/08/28(Sun) 20:05:29

【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド

長く吐いた息はひと呼吸ごとにおさめられる。次第に平時の落ち着いたものとなっていった。
ぐらぐらと煮えたような熱を過ぎれば眼の前のある光景は至ってシンプルだった。
身を守るもののない体と、薬に溺れて熱く火照った背があるだけ。
どうして分かっていて身一つで来たんだろうな、なんてことは身勝手な男にはわからない。
会話らしい会話なんてのも、激高ののちには殆ど交わせやしなかった、なんてのもまた勝手な話だ。
言いようのない感情が目の端で汗と混じるのだって、見つめ直して考えやしない。

「……アンタがおとなしいから、工作の必要も少なさそうだ。
 楽に仕事できて助かったよ、リカルド。それがお望みだったんなら何より」

いつ、何どきのうちであったなら貴方にとって納得の行く話が出来たのだろうかな。
或いは最初から対話を求めるならもっと別の人間だったらよかったのかもしれない。
託されたものを手放していれば、傷つかずに済んでいた?

細工したベルトから、片手に収まってしまうような大きさのデリンジャーを取り出す。
今の時代においては小型化が進んでいても威力は十二分にある、とはいえ。
こうした穏当なシチュエーションで手にすることを想定していなかったら、
もっと隠しようのない口径を手にしてこの場を訪れて、貴方に向けていたかもしれないのに。
そうしたら一人にすることはなかったし、そうしなかったら三人揃って肩を並べられはしなかった。

汗で湿った髪を指先で梳くように撫でる。
その感触の消えぬ内に、金属質の感触が突きつけられて。

さようならBuonanotte、リック。
 案外さ、そのピアスも似合ってたよ」

軽薄な一言と入れ替わるように、軽い銃声が響いた。ステージはまだ音楽に包まれている。
フロアを揺らすミュージックは兇弾さえ知らぬふりをして、いつまでも熱狂し続ける。
すぐさま誰かが助けに来る、なんてその時の男は知らなかったし、今でさえそれを認識したかどうやら。
少なくともそれでおしまい、お別れ。その時点では確かに、互いの顔を見た最後だったのだ。
(-101) 2022/08/28(Sun) 20:40:52

【秘】 風は吹く マウロ → 天使の子供 ソニー

一瞬、性器に触れていた腕を上げて 唾液に汚れた口元を袖で拭う。
そうしたところで、再開されればそれは意味を成さないのだが。
甘えるのが上手な男だ、と顔を摺り寄せる君を見て思う。
何となく、後頭部を支えていた手で襟足の辺りを撫でつけた。

「……チ…1度だけだ。終わったら、忘れろ……」

素直に頷くには、羞恥心とプライドが許さなくて。
口からはそんな言葉が出るけれど、君の触りやすいように少し足を動かしてやる。
何処に触れたいのか、どういった体勢でいれば楽になるのかくらいはわかる。
羞恥は酔いに任せることで紛らわせて、君が用意周到すぎるくらいである様子に 元々それ目当てで誘ったのかと思うくらいだ。

はあ、と熱くなった息を吐きだして。君のしたように、2つのそれを握って気分をたかめていく。
前に気を向けて、後ろに力が入りすぎないように。
時折貪るように自分からも君の唇を奪って、男は行為を止めろと言うことはない。
どうせこの昂りを治めるのは容易でない。であるならば、もう好きにしろと君に体を許している。


だから今は 互いに、満足するまで。
(-107) 2022/08/28(Sun) 22:33:21

【秘】 天使の子供 ソニー → グッドラック マキアート

そろそろと息を吐いて、もたれかかる体を急かして起こすようにあちこちにキスをする。
痕がつかないくらいの戯れだけど、後戯を欠かしたくないくらいの感慨はあるらしい。
やたらに派手にではないにしろとくとくと騒ぐ心臓が落ち着いた頃に相手も離れ、
そして叱りつけるような目線と交差したなら、逃れるみたいにぎゅっと目を瞑った。

「ごめんってば。仕事邪魔した分はなんか払う、なんか奢る。
 駅前んとこにあるパン屋でさあ新しいしょっぱい系のデニッシュ出たからそれで許して……」

相手も了承済みの戯れであるとはいえちょっとやりすぎたのは否めない。
ふにゃふにゃと言い訳じみたことを宣いながら、だらけたみたいに腕をだらりと垂らした。
相手が退いてくれれば最低限服を着て片付けはする、ただすぐにそうとは言わないだけ。
気の済むくらいまでもうちょっとくっついていたいことを、わざわざ口にはしないだけ。

「……ここシャワ〜ってどう通ってけるんだっけ……」

余韻もそこそこに口をついて出たのは、色気もなんにもありゃしない質問だった。
相手が全く考えもなしに、対象的に考えなしの話にノッてくれるわけはないので、
多分手頃なところに都合よく身支度を整えられる場所はあった、はず。
萎えた男根が自然と抜けて解放されたなら、ゴムも縛って撤収準備だ。
建物の外、街を囲む喧騒とは一切無縁の、お互いにとってはわりかしありふれたやりとりだ。
何を見るわけでもなくちらりと扉の向こうを見てから、額へのお返しにと肩口にキスをする。

「なんか。なんも変わんなきゃいいのにな」

本当はそう言う口の呑気さとは裏腹に、どこかに無力感を抱え続けていて。
けれどこの時間のうちだけは忘れられていた。貴重な時間だったのだと思う。
足首にボトムと下着の引っかかった間の抜けた格好をして、椅子にだらりと体を預けて。
そんないつかの、まだ何も起こっていなかったうちの日々の話だ。
(-112) 2022/08/28(Sun) 23:21:49

【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー

掃除屋というものは、依頼者を取り巻く諸般の事情に対して
如何なる理由があったとて、何を言うのも褒められた事ではない。
常ならば当たり障りのない相槌を返して、それで終わる事。
けれど今そうしなかったのは、どうしてだっただろう。

何を仕出かすかわからない、という後ろ向きな信用は続いている。
随分な言い方をしている自覚も。そうなる事も予想はしていた。
さりとて予想していて何になるでもなく。一度、鈍い音の後。
口の中で呟くように、遅れて広がる鈍痛に小さくぼやきを零した。

「……気は済みました?
 他人に知ったような顔をされたくなかったのなら、
 あんたはそれをもっと大事にしまい込んでおくべきだったよ」

「それともあんた、俺に何か期待してたんですか?」

その後にもう一度耳障りな言葉を吐いて、今はそれだけ。
何も死者の眠るすぐ傍で口論をしようってわけじゃない。
それは直接的な暴力も同じ事で、報復に手を出す事もなかった。

わかっている。それがもはや内に抱え切れず分水嶺を越え、
心の内から零れ落ちてしまった苦悩の表出でしかない事を。
摩耗しきった精神や思考に正論は何ら正の影響を及ぼさない。
そこに何を求めていたかなんて、あなたにさえ不明瞭な事だろう。

求めるものも、今よりもう少しましな道も、きっとわかりやしないこと。
それをわかっていて、態とその事を考えさせるような事を言う。
もはや正しさでは救われも納得もできやしないのだとしたら。
そんな思考の袋小路に行き着いた時、あなたは何を選ぶのだろう。
やがては自分と同じような考えに至るのだろうか。或いは、それとも。
(-114) 2022/08/28(Sun) 23:58:47

【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー


今は取り留めの無い思考に考えを巡らせる猶予も無く。
それから程なくして、配達車は目的地へと辿り着いてしまう。

助手席から降りて、男が腕の中に抱え上げたものを見遣る。
既に幾らかその中身を失ってしまった、華奢な女の上半身。
仮に今ここにあるのが全身であれば、話は違っただろうけれど。
けれど半分だけのそれは、解体するまでもないと判断した。

先に倉庫内に停められていた方の商用バン。
特別用向きもなしに連れて歩くには持て余す道具の最たるもの。
火葬車のバックドアを開け、炉内から火葬台を引き出し、
先に炉に火を入れて、男の抱えた遺体を火葬台に寝かせた。

そうして遺体を横たえた台は炉内へと収められ、
それきり火葬炉の扉は重く閉ざされて。
それが彼女の姿を見た最後の光景になる。

火葬に掛かる時間は焼かれるものの体格や体重に左右される。
女性の、それも上半身だけであれば、そう長い時間は掛からない。
たとえ既にその遺体が朽ち始めていたとしても、
火葬炉というのは、焼かれる臭いは殆どしないようにできている。

やがて、きっとまだ夜が深まり切らない内に扉は再び開かれる。
炉と焼け残った灰から幾らか熱が去った頃。
(-115) 2022/08/28(Sun) 23:59:26

【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー


灰と、幾らか残った骨は台の上から容れ物に移される。
骨壷なんて上等なものは無いから、何とも無骨な保存缶の中。
ただ淡々と納められて、あなたの方へ差し出された。

「どうぞ。連れて帰るくらいはするでしょう」

受け取らないなら、掃除屋の方で"処分"されるだけ。
少なくとも、それはあなたの望む事ではないだろう。
未だ目に見えて、あなたの手の内に戻るものだから。

「それで。先に用があった方は済んだわけですが。
 あんたはどうしたいんでしたっけ?」

受け取るにしても、受け取らないにしても。
仕事は済んだとばかりにもう一つの用は切り出される。

あなたは最初に、自分より先に用事がある、と
そう言って彼女の事をこの掃除屋に任せたものだった。
であれば結局、それだけが用向きの全てではないのだろうと。
(-116) 2022/08/29(Mon) 0:00:08

【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ

狭い路地の、他人の視線が通わないうち。
遠くに聴こえる花火の音が大気を震わすたびに息を詰まらせる。
担いだ足を揺すって体を合わせるたびに上がった息が混じり合う。
身動きの取れないなりに押し付け合うように擦り合わせて、抱き合った体がぶつかり合う。
時々かつかつと当たる鼻っ柱に浮いた血の気であったり、腹筋を掠る熱の感触だったり。
混ざり合う熱を確かめるたびに荒く息を吐く。夏の夜気に、浮かされたみたいだった。

息を詰まらせ、吐き出して。互いに上り詰めて、その後だ。
余韻の残る内に胴をぴったりと寄せて、名残惜しむみたいに服越しの肌を重ね合う。
視界を奪うためであるなんてのは、今までの様子からしたら想像し辛いかもしれない。
身じろぎして、視界の外で腕を動かす姿もここまでのことがあったら、他にも想像の選択肢があった。
あちこち動く手は貴方の着衣を正す様子もあったし、納得させるに足る理由があってしまった。
少しまだ鼻の天井の方から甘ったれた声で鳴きながら、ぽつぽつと口を開く。

「……オレはさ、昔友達がいたんだ。四年くらい前かな。
 この街で殺された。本当は、行方がわからなくなったって聞いてたけど。
 そんなわけないだろうって調べてる内にさ、誰だかにやられたってわかって。
 しんどかったな。何も知らずに過ごした時間があるのが余計にしんどかった。
 アイツが苦しんだことを無視して生きていたような気がしてさ」

ほんの僅か、眉をひそめて囁くような声で語るのは己のことだ。
この路地を訪れた時にほんの少しだけ話したことの続きなのだろう。
同情に足る話ではあるんだろうが、けれどもどうして今口にしないといけないのだろう。
片足は担いで、壁を背中に押し付けたまま。貴方よりも背の低い男は言う。

(-119) 2022/08/29(Mon) 1:11:51

【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ

「数日前、アイツの仇が死んだ」

ありふれた自動拳銃が胸に突きつけられる。貴方の組織が取り扱っているものだ。
一番値段と性能のバランスがよく、下っ端にも持たせるような手頃なタイプ。
言い切る前に銃口が宛てがわれ、言い終わる頃にトリガーが引かれた。
サイレンサーを通した音はやけに滑稽に聴こえた。

「身勝手な話だと思わないか? あの男はジャンニを消したことを清算していないのに。
 アウグストが居なくなったなら誰がそのツケを払ってくれるんだ?」

担いだ膝を相手に押し付けるようにして距離を離す。半ばパワーボムみたいに相手を突き飛ばした。
代わりに反動で路地の向こう側へと後ずさって、相手の様子を確認する。
これだけ見たらそう、一見通りすがりに単純に襲われたように見えるだろう?
酒の匂いも火照った体も、急速に現実感の内へと引き戻される。
少しの時間、手応えを確認したなら手にした銃は元持っていたようにしまい込まれる。

「……ああ。案外気分は晴れないもんだな。……やっぱ本人じゃないとダメだ」

独り言のように呟いた男は、身支度を整えながら路地を出ていく。
今までの親しげな様子が全部別人によるものだったみたいに、淡々とだ。
通りでファイヤーワークスの打ち上がる音が聴こえる。
砂利を踏む足は音も無く、白けた夜闇に消えていく。
(-120) 2022/08/29(Mon) 1:13:42

【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ

貴方は、男が何を失ったと感じていて何が残されていると感じているかなんて、
別段わかりゃしないんだろう。当たり前だ。表層上の情報以外知り及ぶ手段はない。
誰と、どんな関わり合いをしていたかなんてのを探るなんてのは警察の役目だ。
けれどそう、幹部候補であった男やその幼馴染らの事情までは探り当てることは出来なくても、
この数日間のうちに貴方の顔見知りはどれだけ失われたか。
その中にはやけに慣れたような手口で殺された人間がいくらか居たかもしれなかっただろう?

はだかの体は、着せられた男物のジャケットごと火葬車の中へと消えていく。
これ以上誰にも辱められることのないように、世界の目を覆うように彼女の体が消えていく。
もしも、引き渡すに値する誰かが生きていたならば彼に渡すことも出来たろうに。
順番を違えたから、もしくは共に逝くことの出来なかったから、こうするしかなかった。
男は中も見えやしない車をじっと、無防備に思えるくらい只々に見つめていた。
何もかもが灰になってしまうまでは、傍に在ろうとするみたいだった。

やがて、夜にさえなってくれない内にあらわれた残響が容れ物へと移されるのを見たならば。
男は首を横に振った。とはいえ、これから起こることを考えたのなら結局は己で持ち去るのだろうけど。
今は、受け取らない。今は、手を塞いだりはしない。

「……今は、いい。そう、用事が、あるから」

歯切れが悪い。今までだったらもう少し滑らかに言葉を交わし、弄していくらでも誤魔化せたろうに。
火葬車から一歩離れ、倉庫を見渡す。誰もいないのを確認したのか、或いは言葉を探していたのか。
一歩。適切な間合いを取るように横にずれた足は、やはり少しの足音も立てやしなかった。

「ずっと追っていた男が、死んだ。
 仲間も、友達も。おそらくきっと、父さんと母さんも。
 ……ほかの何にも渡したくないくらい、好きだった人も、多分。
 人は前向きに生きろって言うんだろうな。生きていく先に何かを見つけて、ってさ」

(-121) 2022/08/29(Mon) 1:58:06

【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ

やっと語った言葉は結局、己の話だった。けれども説明と言うには端的に過ぎて。
指折り数えて階段を昇るような調子だ。身の回りから、多くが居なくなる。それをカウントする。
薄っすらと思い出されるのは、昨日言葉を交わした人間のこと。けれど、されど。

「どうする? アンタなら。
 オレは、こうすることにした。
 けれどもどんどん取り落としていくだけだった。
 どうする? 何一つ変わるわけじゃなかったなら」

質問は、少なくとも形だけの投げかけではなかった、どうしたらいい、とジェイドの目が訴えていた。
されど答えを貴方から得るよりも前に、男はベルトに手を掛けた。
ジャケットを脱いだ下に纏った服装と装備は、割りかしわかりやすいものだった。
貴方の仕事着が重たいのとおんなじ理由が、そこにはあった。
答えを知りたいのに、なぜ待たないのか。理由は簡単なものだ。もう止まり方さえわからないからだ。

「いつかは気が晴れると思っていた。もうそいつは居ないってのは頭じゃわかってるしさ。
 やりきれない思いが解消されるまでのつもりだった。けど、いつまでも消えないんだよ」

銃口が向けられる。掌に収まるくらいの素朴なデリンジャー。
真正面に向けられたなら避けるのは容易くも思えるし、狙いを定めた威圧感もありはするだろう。
此処で男が貴方を殺さなければならない理由なんてのは無い。無いんだ。けれど。
理由と理屈があれば止められるのだったら、きっともっと早くに誰かの言葉を聞けていた。

(-122) 2022/08/29(Mon) 1:58:39

【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ

「怖いんだ、誰かが死なないと止められないんだ。
 もうそれが誰で、何であったなら満足するかも自分じゃわからないのに。
 誰も教えてくれないんだ。
 助けてよ、
パスカル――


目の前の男は掃除屋の烏Corvo Rossoだとわかっているのに、男は教えられた仮の名前を呼んだ。
最初に出会った男の名を、互いを知らないうちに巡り合った人間の名を。
多少の探り合いはあったとしたって、未だ気軽に仲良くなるつもりだった時の貴方を。
助けを求める相手は、仕事人としての人間ではなかったから。
意思を聞きたいのは、答えを求める相手は敵としての貴方ではない、つもりだったから。

誰でもいいのに、誰かでなければいけない。
そんな矛盾を口にしたところで誰も真面には受け取らない。
己の中では確かなのに、己の中でさえ確からしいものはない。

貴方が答えを口にするにしろ、しないにしろ。動くにしろそうしないにしろ。
男は違えなく、迷いなく。烏に向かって、引き金を引いた。
(-123) 2022/08/29(Mon) 1:59:03

【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー


相手の全てなど、語られざる事など、他者に判るはずもなく。
失ったものを数えても、それが掌の中に戻る事は無い。
そしておそらく、今はもう、それらを知った所で手遅れだった。
つまるところ、全てはきっと、何ら意味の無い事で。

けれどこうして何かを選ぶことに、
僅かばかりであったとしても、意味らしきものがあったなら。
そんな届かぬ祈りじみた考えがあったのかも、最早定かではなく。

今はただ、何も言わず、あなたに干渉もしない事だけが確かな事。
軈て亡骸が形を失っても、やはり烏にはあなたに問う罪なんて一つも無かった。
結局の所は、何もかも全ては自己満足であって。
あなたを罪に問うた所で、烏は到底自分が納得できるとは思えなかった。



ああ、そう。
そうして首を振った後の返答に、ただそれだけを返して。
開いたままのバックドアの内側、火葬炉の手前。
その僅かなスペースに遺灰の納められた容れ物を一度置いて。

がつ、ごつ、重たい足音は対照的に。
あなたが訥々と言葉を語る間にも、何歩か火葬車から離れて行く。
掃除屋の仕事着が重たい理由は、数多の死を吸ったから。
そんなフィクションのような理由でなんか、あるわけもなく。
(-126) 2022/08/29(Mon) 4:46:02

【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー


その間にも、つたない問いがただ流れていく。
それを聞いていないわけじゃない。確かに聞いているからこそ。
結句気休めでしかなくとも、仕事の場からは離れる必要があった。

両親、仲間、友達、奪われたものを奪い返すべき相手。

その内の幾許かは、或いは、あなたの手によって。

名もなき烏はおおよそあなたと同じようなものを失って来た。
けれどそれが等価であるとは思わない。
その重みは人によって異なるような、似ているだけで違うもの。

何れにしても、手の届く限りの殆どのものを失ってしまった時。
後に残された者のやりきれなさというものは、
いったい何をどうすれば納得が、満足がいくものだろう。

「本当はもう、答えは出てるんだろう。
 何も変わらない。あんたの空虚は、永遠に満たされる事は無い」

少なくとも、それを埋めてやれる人間は居なくなってしまった。

「あんたは、あんたが死ぬまでそのままだ・・・・・・・・・・・・・

生きている限り、この耐え難い苦しみは和らぐ事無く続く。

その言葉を否定できる人間も、今この場には居ない。
続いた先に、たった一握りさえも希望を信じられなかった人間が
生きていれば、いつかは、ひょっとしたら、なんて。
そんな何処までも無責任な希望を他者に語れるはずもない。
(-127) 2022/08/29(Mon) 4:47:26

【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー


だからただの一人の死にたがり パスカル・ロマーノ からあなたに差し出すものは、
終わった先の安息の示唆と、それに行き着く手段だけ。
喪服の懐から音も無く拳銃が抜き出され、銃口をあなたへ向けて、

「楽になりたいなら、あんたは早く死ぬべきだったのさ・・・・・・・・・・・・・・・

「──Addio. ソニー・アモリーノ 天使の子供 

同じく自らに向けられたそれに構わず、引き金を引く。簡単な事。

殺すつもりはあったけれど、生きるつもりがあるでもなかった。
名もなき烏にも、或いはそれ以外の誰かにも
ここであなたを殺さなければならない理由は無かった。

死にたい人間は、死ぬしかない人間は、死ぬべきだ。
そうでないなら、せいぜい生きていればいい。
このような行動に出た理由なんてのは、そんな思想だけで。

乾いた銃声が鳴り響いたなら、それは幾つだっただろう。
がらんどうの倉庫が誰かの棺となったなら、それは誰だっただろう。
誰に何処までの言葉が届いたかも定かではない。一つ確かな事と言えば、
夜が明ける頃には何れの姿もそこには無いという事。


願わくばどうか、殺すなら上手に殺してくれ。
もしもあんたがしくじった時は、俺もそうする事にしよう。
そんな思いがあったかは、やはり誰も知らぬこと。
何せそれを語る者は、結局は何処にも居やしないのだから。
(-128) 2022/08/29(Mon) 4:50:38

【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー

「なっ、お前」

花を与えることなんてしなければ。そんなこと、渡してやった花束をいちいち見せに来るその姿ですべてお釣りが帰ってきた。

お前ってやつはと頭を抱えてこずいたこの気持ちは
思惑通りとうとう永遠に知られないままになる。

親にもなれない、友にもなれない、恋人にもなれない、こんな中途半端な男の気持ちなんて伝わない方が幸せだと思い込んでいた。結ばれもしない、共に過ごすこともできない仲なんてすぐにその傷は癒えてしまうと信じつつも、苦い甘さを残し続けた。


「いいか、ソニー」

俺はお前の親でも何でもないし、
教鞭を振るう教師でもない。
それでもお前のことを心配している、ただの  


「……
似合ってる。

 
だからもう見せるな。
大人は頭が固いんだ」

落ち着かない、甘い香りがいつのまにかひとつの印象しか与えなくなる頃には、脳が誰かを訴えることをやめない。
とっくにこれ以上上回ることのないお前への心が、態度が。

「歳を食っても変われない俺なんて気にせず。
 バレないように、黙って好きなことしていろ」

怒気と呆れを含んだような声色は出せていたか。
視線をそらして見つめた先には白い花が置かれていて。
逃げ道がすくないその空間で人差し指を口許に当てて考え込む仕草をする。噛み跡がついておらずとも、そこにはすでにあなたを感じていた。

可愛げもない、素直でもない態度で吸い込むのはアーモンドの香り。そうして甘味で満たされた腹をどうしてやろうかとため息をついた。
(-129) 2022/08/29(Mon) 4:50:50

【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ

呆れを頭に受けていっときは唇を尖らせて不満を訴え、すぐに得意げな顔でしてやったりと笑う。
ほんのわずか、小さく鼓膜をくすぐる声を耳聡く聞き入れはするくせに、深くは考えない。
誉められたように捉えられなくもない叱咤だけを都合よく受け取ったなら、目を輝かせた。
深く透き通ったジェイドの色は幼い頃から翳りもせずに変わらない色をしている。
何も変わらずにあったなら幸せな終わりがあったか、なんて。想像こそすれど不確定なものでしかない。

「はぁ〜い、へへ……
 食べよ、もう厳しいこと言いっこなし! 先生のタルトタタンが一番美味しいんだよなあ」

食事を作るのは環境だ。いつだって貴方が傍に居たからにこそ、舌の上の甘味は幸福になった。
食い気が勝って人並みよりも若干食べ汚かった振る舞いは、いつしか完璧なものになってしまって。
貴方と貴方が仕掛けたものの思惑通りに、振る舞いと作用は完璧な刃へと育っていった。
貴方はそれを、喜ばしく思ってくれる?

2月、花祭りの名残のある日和。窓の外には白い小花があちらこちらに散って見える。
いつかの日。遠く過ぎ去った春の日。

ソファの隣に寄せた体温は触れ合わずとも暖かく、降り注ぐ視線はわざと突き放すものもなかった。
輝かしい未来を暗示するものでなくたって、青年は幸福だった。指に触れる温度が変わるまで。

8月の夜気が責め立てるような熱を肌身に迫らせる。
明かり取りの窓から差し込む月の光が、左手の薬指に嵌ったジェイド幸福アーモンド希望と<kanaとをきらきらと輝かせた。
あの安置室で共に、なんて身勝手な真似をしなかったのは、貴方が最後に見る己の顔が綺麗なままであるように。
己が最後に見る貴方の姿を己の血で汚してしまうことのないように。
誓われない指輪を揃いに嵌めていくくせに、慾するほどに共に傍に在ろうとするわけでもない。
奪うほどに己に正直だったなら、最後の瞬間くらいは一緒にいられたのかもしれない。

一滴、半滴でさえも、貴方の存在は天使の子供を救っただろう。
告げられることのなかった秘蹟は、遠く希望を繋ぐように口の中だけで唱えられた。
(-130) 2022/08/29(Mon) 10:06:26
ソニーは、ヴェネリオを、
愛している。
(a5) 2022/08/29(Mon) 10:07:10

【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ

互いに失ったものを比較するほど愚かしいこともない。されど二つは似通っていた。
決定的にそれ以外は何もかも違えていても、尚取りこぼしたものの多さは近しかった。
失い続けた結果、更に失い続けることは無いだなんて空論を誰が信じることができる?
希望が重たかった。期待が重たかった。一笑して否定されたことでようやく足元が見えた気がした。
失った時点で死ぬべきだったのかもしれない。他を失わせるくらいなら、確かにそうだろう。
影法師のような男の姿をサイト越しに見据えて、微かに溜息を溢す。

「……ああ、そう。
 よくわかってくれるじゃんか。オレはもう、一歩も動けやしないよ・・・・・・・・・・・・・・・・

ひどく熱のない声は、何もかもが腑に落ちてしまったからだった。
惑う脚も誰にも伝わらない恐慌も、全てがどこに向かわせればいいものなのかを理解してしまった。
貴方の言う通り最初から答えは己の中にあって、それを肯定することが今、出来てしまったから。

銃口は相手の眉間に向けられた。己が推理したアウグストの死因と同じく、頭骨を効率よく貫いて。
交わされた相手の銃弾は腕が跳ねたせいで致命の一撃を外してしまった。肩の骨が砕け鉛が減り込む。
利き腕の神経を元に戻すにはどれだけの賭けをせねばならないだろうか。その時点で暗殺者は死んだ。
それ以外の生き方もできないのに、ヒットマンでさえあれないならその価値と意義は一切を失われたのだ。

相手の姿がぐらつくのを見て照準を下げる。もう一発は胸元へと。心臓が傷付けば血が溢れる。
確実に殺すための二発。省みる必要が無いが故の二発。己の姿を隠す必要はもう無いのだから。
血の流れる腕は相手の体が痙攣を止めるまで向けられていて、呼吸の音が途絶えてやっと下された。
銃を握ったままの影法師を、銃を握ったままに見下ろしている。

「──Addio. コルヴォ・ロッソ血染めの烏
(-155) 2022/08/29(Mon) 19:52:32

【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ

それから先は、どうしたっけな。

死体から服を剥ぐのも億劫なくらい片腕が重くて、そのままフルタングナイフの刃を入れた。
関節に刃を差し込み、ナイフのハンドルを足で抑えて軟骨を寸断してようやく死体を小さくしてやった。
それを、先程まで動いていた火葬車の中に寝かせた。入れ替わり、立ち代わり。

ここへ連れてきた彼女の灰を退かして、見様見真似に
異端者の地獄
へと押し込んだ。
誰が来るのかもわからないのに、扉の向こうで燃える様子を眺めている。
いくらかに分けて、ひどく手間と時間を掛けて。ひとつ、ふたつ。全て灰になるまで。
途方もない時間は、宵の口の空をすっかりと昏れきった星色に変えてしまった。

そんなことをする義理なんてなかったし、望んでいるかどうかもわからないのに、
勝手にこんなことをしたところで文句を言う人間だって居やしないのだ。
自己満足、或いは酷く曲がりくねった感謝のつもりだったのかもしれない。
貴方の言葉と弾丸は、男をもう行き先の決まりきった道に押し込んだのだから。

最後のひとかけを押し込んで火を入れてから、腕の痺れが酷くなった頃に漸く離れた。
きっと用意周到な彼のことだから、あとのことを自分で何とかする手筈なんてのは済んでるんだろう。
遠くの街は祭りの最中とは言えすっかり静まっていて、そこから聴こえる音なんてのもなかった。
夏の気配だけが、なんでもなかった一週間を見下ろしてそこに或る。

血の滴る腕はそのままに、配達車へと戻っていく。片手には、娼婦の片割れであった灰。
焼け付いた死の匂いだけが、男の背中を押している。
エンジン音を最後に、廃倉庫からは誰一人いなくなってしまった。
もう、だれも。
(-156) 2022/08/29(Mon) 19:54:56

【独】 天使の子供 ソニー

対向車線にさえ誰も通るもののいない僻地から伸びる道を、白いバンが駆けていく。
片手でハンドルを回し、助手席には女の焼けた灰を乗せて。
ハイビームが照らす道は、星明かりのために思いの外明るく感じられた。

「……なあ、ビアンカ。オレさ、お前のことお前んとこの子らに渡せる自信ないよ。
 ヴェルデが持ってかれたところ聞いてたら、撒いてでもやれたのにな。
 でももう誰にも会うつもり無いんだ。だから、書き置きだけで済ましちまうけど、ごめんな」

配達車は、花屋の倉庫へと押し込まれた。ドアの継ぎ目からは、溜まった血が滴っていた。
だから朝になれば店主が見に来て、中にあるものには気づく筈だ。誰に渡すべきかの意志も。
この花屋は唯の表稼業ばかりじゃなくて、みかじめ料の受付だったり資金洗浄の窓口だ。
ファミリーの息の掛かったきちんと託すに値する人々であり、野放図に投げ出したわけではない。

灰になった上半身がゆくべき先なんて、神の元へゆけないのだから他のどこともわからないのに。
誰か、何か。遺される人々の元へと渡るようにだけはきちんとしておこう。
(-160) 2022/08/29(Mon) 20:17:58

【秘】 紅烏 コルヴォ → 天使の子供 ソニー


返る言葉を聞いて、最後の一瞬。

ただ息を吐くような、音のない笑いが、銃声に呑まれて消えた。

何もかも、諦めのついたような笑みだった。




斯くして血染めの烏は地に落ちた。

或いはあなたの影法師であって、
或いはいつかあなたの行き着く姿であったかもしれないもの。
それと向き合って、それを認めてしまったから。
それがすっかり姿を消したって、もうきっとあなたの道は変わらない。

──曰く、ドッペルゲンガーを見る事は、死の前兆なのだと言う。
(-161) 2022/08/29(Mon) 20:33:12

【独】 天使の子供 ソニー

そして、彼の運び込まれた病院へと足を運んで。
残された先の20年を、託されたのだろう未来をふいにして。
代わりに貴方の薬指へと、ささやかな愛を贈る。プラチナに比べればチープで子供らしいものだ。
ジェイド幸福アーモンド希望は、けれども言葉通りの贈り物のつもりでさえないのだろう。
ロマンチックな誰かの決めた意味でない。どちらも、己自身。
神様の元へ貴方が行った時に、見下ろした風景の中に己の瞳と同じ色があったなら、
少しでも思い出してくれるかな、なんて。子供っぽくていじましい、自信のない誓いなのだ。
そこに、その位置に輝く煌めきに意味を見出すのだなんて、自分のほうだけだと思っていたから。

涙を拭った左手に、いくらか星の色がきらきらと反射した。
お別れだから、なんてはっきりとした意識のために涙が出たわけでもなかった。
ただ、貴方がもう名前を呼んでくれないこと、頭を撫でてくれないことがわかってしまったから。
もう随分と大人らしくごつごつとして、貴方の手でも包み込めやしない手も。
人を効率的に害する為だけを目的として鍛えた、随分と堅くなってしまった体も。
言葉ほどには厳しくない指先が触れてくれることはない。

貴方がいなければ幸せになれない、なんてことはない。それほどの己惚れは持ち合わせていない。
ただ貴方が願った自身の未来だとか、楽しく笑っていられるような世界だとか、
そういうものを託されて目指すには交わした言葉は少なすぎて、まだ話したいことがたくさんあって。
あとほんのちょっとだけ指を伸ばして、声を聞いて、ほんの些細な望みが叶えばよかったのに、
それさえ出来ないままに背を向けてしまった己を許すことが出来ないだけの話だった。

ねえ、オレはあんまり頭もよくないからさ。
ちゃんと教えてくれないと、わかんないよ。
教えてほしいことが、たくさんあったんだ。

家の鍵をかけ、廊下と隔てる鍵をかけ。バスルームに鍵をかけて、窓を閉める。
思い出の中のメロディは、時々貴方が歌ってくれたものだ。覚えているかな。

「……♪……♪……」
(-162) 2022/08/29(Mon) 20:34:09

【置】 天使の子供 ソニー

本名:ソニー・アモリーノ(Sonny Amorino)
死因:頭蓋部の損傷
発見場所:自宅バスルーム
遺体の様子:
頭部に二発、肩に一発銃撃の痕あり。頭部と肩からはそれぞれ別の口径の弾が摘出された。
一発目は喉から視床下部の下を通り後頭部へ抜け、貫通して後ろの壁に突き刺さっていた。
再度引き金を引いて、二発目は頭頂葉へ食い込み頭の中に弾丸が残っていた。
発見場所までの道は完全に施錠され、また荒らされた形跡もなかったことから、
拳銃は本人の所持物であり、自殺であると認定した。

器官のいくらかは壁にへばりつき、眼球からはすっかりと水分が抜けていた。
死亡から発見までは数日が経過しており、発見時には既に腐敗が進んでいた。

(L33) 2022/08/29(Mon) 20:44:09
公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00