──痛っ、て！


[丸い石が円形の台座に嵌め込まれて、デザインの割にゴツいフォルムのその指輪。

胸ポケットに入れているせいで、毎度机に突っ伏す拍子に肉を抉ってきて痛い。居眠り防止になるからと敢えてそこに入れてるのだが。自分に学習能力がない。

自室に心地よい風が入る。必要最低限の家具を侵食する量の本と本棚。白い壁と調度品に不釣り合いに見える存在で、それは唯一の味方でもあった。]


　んだよ……見てんなよ。


[戸口でこちらを伺う男たちに放つ。イスハークの兵団から2人。日替わりで監視されている、ようなもんだ。

（悪かったな、従者がいなくて。）

花畑脳のヤツに向けて脳内で悪態をつく。
自分についてくる人間なんて生涯いないだろう。そんなこと、理解してる。

だからイスハークは、俺を傘下に置く。後継者足り得ないときっと思われている。

胸元からその指輪を取り出して眺めた。]


　　　　　　　　　　　　　　　　

　　裏では……わかり易い世界が続いてるとしても
　　こう便利だと情報戦でしかねぇのよな


[魔法が発達した便利な国は、治癒も容易くい。絶命させるには、首を切り落とす等の再生不可な程度の肉体損傷が必要だ。

だからもっぱら殺害は毒殺やそれに似た魔術──情報戦になる。]


　　"──『正しい情報』なんてものは存在しない
　　　人間の息がかかるものは須らく意図に塗れる"


　　だから、正しさなんか自分で選ぶんだよ……
　　──オレは納得して死にてぇ。


[情報そのものの精度じゃない。
『誰が何のために言っているか』その意図こそが真に必要なもの。そんな事、この戦場では当たり前の概念。

遅く生まれただけでこんなにも不利だと、歳の離れた兄達を見て思う。出来上がった利権に立ち向かう術はなく、『賢者』で居るしかない。それはさながら奴隷のようにも見えるだろう。

心のままに振る舞う自由人を見ていると、繋がれたまま足掻く自分がひどく莫迦に思えた。]


　　　　　　　　　　　　　　　　

　　好きでやってんだよ。うるせぇな。


[指輪をまっすぐ高く放って、キャッチする。それだけの事が出来るようになるにも練習が必要だった。

自分の矜持はどこにある──]


　　アホくせぇ……


[わかりやすい善しか見ない人間に、忠告した言葉は届いてるだろうか。所詮『悪側』からの言葉だと、意にも介されないだろう。


今度会う時に、この指輪を押し付けてやろう。奴はどんな顔して、何を言うのだろうか。]**